⑭発表会 後半

「な、なな何で?私、何かダメなところあった?」

心臓がバクバクする。もしかして、最初の言い換えの部分、自分じゃ気づいて無いだけで、結構間が空いちゃってたのかな。それとも別のところ?焦る私に、御門さんが首をふる。

「穂村さんじゃない。弥雷よ。」

名指しされた弥雷くんがきょとんとする。真白と私もきょとん。

「え、俺舞台袖から見てたけど、日浦は完璧だったぞ?着替えも遅れて無かったし、セリフや動きに変なところはなかったし。」

私も頷く。ずっと隣で見てたもん。でも、御門さんはふるふると頭を振って、言った。

「完璧すぎたのがダメだったのよ。弥雷は一応脇役なのに、王子と同じくらい目立ってしまっているわ。ああ、弥雷がかっこよすぎるから!」

「璘子、何言って……!」

弥雷くんが慌てる。確かに、私も真白が見劣りしないかな、とか失礼なこと考えてたけど。

「このままシンデレラと王子が結ばれたら、御者派閥からブーイングが出るわ。」

そんな。じゃあどうすればいいの?今、バリバリ本番中だけど。

「あなた達、準備は終わった?幕をあげますよ。」

先生に呼びかけられ、話はそこでストップしてしまった。真白と御門さんが舞台に戻っていく。嘘でしょ。練習通りにやればいいって思ってたのに。このまま台本通りにやったら失敗?ドレスから着替えたオンボロエプロンの裾をギュッと握る。

「王子様、私があの日一緒にダンスを踊ったシンデレラですわ。」

御門さんがうやうやしくお辞儀をする。そして、置いてあるガラスの靴を履こうとしている。どうしよう、この後普通に劇を続けられる?不安でいっぱいの中、私は舞台に戻った。

「王子様、お姉様の言っていることは嘘です。わ、わたし……が、……。」

声が震えている。さっきまで順調だったのに。だって、こんなトラブル起きるなんて予想してなかったもの。なに、かっこよすぎるからって。

「あの日のシンデレラです。」

そう言おうとした時だった。

「ちょっと待った!!」

会場に大きな声が響く。途端に客席から歓声が上がる。御者の格好をした弥雷くんが飛び出してきて、私を護るように抱きしめる。え、台本では激高して暴れる姉を取り押さえるシーンだったのに。まさか、弥雷くん、アドリブ?

「シンデレラは私のものだ。」

かああっと顔が赤くなる。客席が更に盛り上がっていく。そこまで言っちゃったらもう戻れないよ。

「靴でシンデレラを判別する奴なんか彼女に相応しくない。好きになった女性の顔くらい覚えておくべきでは?」

確かに!あちこちから笑いが起きる。これ、別の意味で崩壊してない?これじゃラブストーリーじゃなくてコメディだよ。

「いきなり出てきて何だお前は。シンデレラは私のものだ。」

真白、乗った。完全なる修羅場だ。

「私はシンデレラを愛している。シンデレラ、私を選んでくれ。」

弥雷くんが手を差し出す。

「私の方がシンデレラを愛している。あの日、一夜を共にした仲ではないか。」

真白、それは誤解が生まれる。

「いいぞー!」

「いけー!」

客席も完全に盛りがっている。ちょっと待て。これ、次は私が何か言わないといけないよね?でも、御門さんが言っていた。シンデレラと王子が結ばれたら御者派閥からブーイングが出るって。なら、御者を選んだら選んだで、王子派閥からブーイングが出るんじゃ?ぐおお、どっちにしろ失敗!……あ、それならこうすればいいんじゃない?

「私は、お姉様と結婚します!」

これしか無いじゃない。御門さんのところにかけていき、腕にしがみつく。

「と、……いきなりお父様が再婚し、知らない方と暮らすことになって、最初は不安でたまりませんでした。しかもお姉様はいつも私に意地悪ばかりなさって。でも、いつの間にか、私はそんなお姉様のことを愛していたのです。」

もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。ただ、セリフが口からぽんぽんと飛び出ていく。でも、もうこれしか無いんだ。瞳をうるうるさせて、御門さんを見つめる。

「ええ、シンデレラ。この気持ちはずっと隠しておくつもりだったけど、言うわ。私も、本当はあなたが好き。」

そう言い終わると同時に、御門さんが私を抱きしめる。真白と弥雷くんが床に手を付いて倒れ、客席からは割れんばかりの拍手が起こった。

「最高ー!」

「お幸せにー!」

本来とは違う結末になったけれど。なんならだいぶ違うけれど。どのお客さんも笑顔だ。先生も、クラスメイトも、他クラスや他学年の子達も、他の父母さんなどのお客さん達まで。これって、成功だよね?そう思いを込めてみんなを見ると、しっかり頷いてくれた。


「みんなおつかれー!」

控え室スペースに降りていったら、真白がそう言った。ちょ、衣装姿でそんなに騒がないで。ほら、御門さんが怖い顔して睨んでるよ!

「……それにしても、日浦がアドリブしだした時はびっくりしたよ。」

御門さんには気づかず、真白が椅子に腰掛ける。

「ごめんごめん。でも、南も上手く乗ってくれて助かった。あ、もちろん穂村も璘子も。」

「え、いや、私あの時もう頭真っ白でちゃんとセリフを言えてたか……。」

「当たり前よ。私は天才だもの。」

言い終わる前に御門さんが前に出る。相変わらず凄い自信。私にも少し分けて欲しいよ。羨ましがっていると、御門さんが何やらゴソゴソしだした。

「記念に写真でも撮りましょ。インスタにあげるわ。」

「えっ。光栄だけど、その、御門さんフォロワー沢山いるんでしょ?恥ずかしいなーなんて。」

前に真白に見せてもらった時、確か七万人だったはず。凄い有名人。モジモジしている私を御門さんが視線で刺してくる。

「んなわけないでしょ。友人用の鍵付きアカウントに載せるの。言っとくけど、事務所の許可は取ってるわ。それに、弥雷ならまだしも、一般ピーポーの穂村さんと南くんを載せるわけ無いでしょ。」

それを言ったら弥雷くんだって一般ピーポーじゃない。全く、彼氏には激アマなんだから。そうこうしている内にみんなが御門さんのスマホの近くに寄った。慌てて私もその中に入る。

「いくわよ。せーの。」

何回かシャッター音が鳴った。御門さんはそれごとにポーズを変えていたけど、私はピースしか出来なかった。うーん女子力。

「全部あげるのか?」

「ええ、フィルターはどれがいいかしら。」

「いつもので良いと思う。」

会話についていけない……。うーん陽キャ力。

「穂村はどう思う?」

「え、えっーと。わ、私、すっごい機械オンチだから……。」

インスタとか写真を載せるアプリ、ってことしか知らないよ。とりあえずえへへ、とごまかしていると、御門さんが少し首を傾げてから言った。

「ふーん、じゃああれは南くんに教えて貰ってたのね。」

いや、何で真白?遠回しに真白しか友達がいないと言ってる?というか、私そもそもインスタ自体をやってないよ。私の精神クロワッサンより脆いから。

「あ、もう次の劇始まっちまうぞ。早く観客席に戻ろうぜ。」

真白の声掛けで、私達は控え室スペースから退散。

「……ねえ、穂村さん。」

御門さんが駆け足のまま話しかける。

「私、あなたのこと誤解していたみたい。あんなこと信じちゃってごめんなさいね。」

私が何か言う前に御門さんは去っていった。

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