第2話
【シーン1:災厄の前触れ】
乾いた山に、火の手があがった。
広がる山火事は、森に巣食っていた魔物たちの住処を奪い、
怒り狂った無数の獣が人里へと降りてくる。
村の人々は逃げ惑い、武器も持たぬまま押しつぶされていく。
絶望の中──
「……感情は、切れば、落ち着きます」
「魔物もまた、感情を持つものなら──切れば、止まるのです」
現れたのは白髪の少女。
静かに「慈悲の鎌」を構え、大鎌を振るう。
一振りで数体の魔物が斬り伏せられ、
血が空へと飛ぶ。
無表情のまま、無心に斬り続ける沙華。
感情はない。だが──それでも、救おうとしていた。
⸻
◆【シーン2:終わった後に残ったもの】
村を包んだ魔の気配は、全て消えた。
しかし村人たちは、怯えた目で沙華を見ていた。
「……あれが……助けてくれた……?」
「人じゃない……化け物だ……」
誰かが言ったその言葉は、
村全体の空気を決定づけた。
沙華は、無表情のまま立ち尽くす。
「……なぜ、怖がるのですか。助けたのに」
「あたくしの行いは、“善”のはず……」
しかし次の瞬間、
誰かが手にした石が、彼女の肩を打つ。
「帰れ! 怖いんだよ、あんたなんか……!」
石は一つ、また一つと飛んできた。
沙華は避けもせず、ただ静かに見つめていた。
⸻
◆【シーン3:夜の襲撃】
その夜。
村の小屋でひっそりと眠る沙華。
彼岸花の匂いが、微かに漂っていた。
──突如、気配が走る。
刃が振るわれ、沙華の頬がうっすらと裂ける。
「……人間?」
「なぜ……あなたが、あたくしを斬るのですか」
男は叫ぶ。
「お前が来てから……村が壊れたんだ!!」
「魔物よりも、お前のほうが……恐ろしいんだよッ!!」
沙華は、感情も言葉も持たず──
ただ淡々と、“同じ命”としてその男を殺した。
「……魔物も人も。感情を持つ者なら、同じです」
「あたくしは……間違って、いないはずです……」
だが──夜が明け、血に濡れた彼岸花を見つめながら、
沙華の足は、村を離れていた。
⸻
◆【シーン4:流浪】
森の道、山の頂、誰もいない廃神社。
沙華は各地をさまよい続ける。
誰とも交わらず、
誰からも受け入れられず、
ただ、たい焼きの味を確かめながら。
「……感情を斬った。命を守った。助けた……はず」
「なのに、どうして。皆は、あたくしを……嫌いますか」
答えはない。
けれど、どこか胸が少しだけ、
“チクリ”と痛んだ気がした。
彼岸花が、夢の中で、赤く揺れている。
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