夕空に、君の名前を
此本心菜
第1話
第一話
放課後の風が、校舎の隙間をすり抜けていく。
中学二年生の瀬川琴葉は、昇降口で靴を履き替えながら、ふと空を見上げた。
茜色の空が、今日の終わりを告げるように染まっていて、琴葉の胸の奥が少しだけぎゅっとなった。
「…今日も、話しかけられなかったな」
目で追っていたのは、同じクラスの幼なじみ——楠原里音(くすはら りおん)。
昔から一緒に遊んでいた仲。でも、いつの間にか彼を目で追うようになっていた。
そして今は、話しかけることさえできなくなっている。
「お姉ちゃーん!」
遠くから聞こえてきた明るい声。
振り返ると、小学三年生の妹・瀬川奈帆が、ランドセルを揺らして走ってくる。
その横には、奈帆の幼なじみ、楠原玲音(れおん)の姿もあった。
「ことはお姉ちゃん、今日もお迎え遅かったー!」
「ごめんごめん、部活が長引いちゃって」
「いいもん!玲音くんが待っててくれたから、寂しくなかったよねっ♪」
そう言ってにこにこ笑う奈帆。その横で玲音は少し照れくさそうにうなずいた。
——ああ、奈帆も気づいてるんだ。玲音のこと、好きなんだなって。
琴葉は妹の想いに気づいている。
だからこそ、自分の片思いを重ねてしまう。年齢は違っても、気持ちはきっと同じだ。
その日の夜、姉妹は並んで布団に入り、そっと話し始めた。
「ねえ、お姉ちゃん。好きな人って、どうしたらこっち向いてくれるの?」
「……うーん、簡単じゃないよ。だって、私もずっと片思いだもん」
「そっか……でも、がんばる。玲音くんに好きって、言えるくらい、がんばる」
その瞳のまっすぐさに、琴葉の胸が少しだけ痛んだ。
大人になっていく道の途中で、恋の痛みを知る。
でも、きっとその痛みさえも、誰かを本気で想った証なんだ。
そして、二人の恋は、少しずつ動き出す——。
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