6話
朝食を終えてキヨさんが片付けをしている間に、俺は自室から昨日頑張ってくれたカードの束を持ちフォレスター君達を労う為に居間へ移動する。
広々とした居間にある古いけど磨き込まれた三面鏡が俺の目当てだから、その前にフォレスター君に妖力をあげて実体化させる。
ぽんっと現れた彼は、昨日と変わらぬナマケモノみたいなのんびりした体型に背中が苔で覆われたゆるキャラみたいな姿。
ナマケモノ似なだけあって温厚で眠たげなフォレスター君だけど、今は目がキラキラしててオシャレ好きが丸わかりだ。
『ンァ!!ンーーッ』
「焦らないでね?フォレスター君には約束通りスキンケアを教えるよ、俺はオシャレの先輩として君みたいなやる気がある可愛い子に手抜きはしないから安心して!まずは鏡の前に…」
フォレスター君はやる気十分で俺が言うまでもなくふわふわした体を鏡の前に運ぶので、自分のスキンケアセットを取り出した俺はステップバイステップで説明を始める。
最初にクレンジングをするよー、因みに化粧品は特殊な物で動物だろうがモンスターだろうが使える不思議製品だから便利だね。
爺様が発案して練り上げたこの化粧品を作る妖術の方程式は、櫻井家の企業秘密だよ。
「水で汚れを優しく落とすんだ、君の苔はデリケートだから軽く撫でる感じでね。畳が濡れるのは気にしなくていいよ、俺が妖術で作った水だからすぐ消せるんだ」
『ンゥ…?ン、ンクッ!』
フォレスター君はナマケモノに似てるだけだから、結構俊敏な動きで自分の身体の汚れを落としてるね。
大丈夫だよー、そんな悲しそうな声出さなくてもちゃんと届かないところは俺がマッサージもしつつやっておくからね。
ナマケモノは食習慣と体力の面で、セーブした動きをしているけど食事が必要ないカードの彼がそれを無視して、自由に動いてるのは見ていてちょっと面白い。
気持ちいい?それなら良かった、けど声は抑えよっか。声帯は変わらないからナマケモノの悲壮感ある鳴き声が、柔らかくなって喘いでるみたいな声になるのが気まずい…
この前、違いを探そうとお茶の間でガラケーを弄って検索してみた時にキヨさんの前で喘ぎ声みたいなナマケモノの声が大音量で流れたのを思い出すよ。
「…フォレスター君は真剣なんだから、俺も気を取り直してっと。次は化粧水をパッティングして浸透させるよ、乾燥はオシャレの大敵さ」
『ンンンゥ……』
「そうそう、良い感じ!上手だね流石オシャレ番長君〜じゃあそのまま仕上げの乳液、クリームと進めて、UVケアまでちゃんとやって君の緑が褪せないようにしよう」
彼は真剣に鏡を覗き込んでマネしてるけど、苔の部分がぴょんぴょん跳ねて可愛いんだよね。そんな彼に対して、いつの間にか後ろに居たキヨさんが横から浅めの皿で飲みやすいお茶を差し入れつつ励ます。
「フォレスター様、蓮様の教えを活かしてよりお美しくなられましたね」
フォレスター君はキヨさんの言葉に満足げに頷いて、俺に感謝の視線を送ってくる。
いつもお世話になってるお返しだから気にしないで良いんだけど律儀だね、けどこれだけじゃ終わらないよ…次は服のコーデかな?
そろそろ注文の品も出来た頃合だろうなと考えていると、静かにキヨさんが少し湿っている手を拭く為のタオルと呪符を渡してきた。
「そうだね、徒歩で行くのは面倒臭いし転移の呪符を使おうか」
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