これは西の国に住むアルマンドの息子のノエルの話
ノエルは西の国に住む王、アルマンドの一人息子だ。アルマンドにはたいそう可愛がられ、大事に育てられてきた。でも、ノエルはそんなアルマンドの態度にうんざりしていた。最近は反抗期に差し掛かっているというのもあるが、どうもアルマンドの態度が気に入らない。だから、最近は城内を勝手に出ていっては市場などに出向いて遊んでいるのだ。
今日も東の国の国境付近の市場にやってきていた。最近の趣味はネズミ駆除用の煙を焚くことだ。市場には所狭しと果物や香辛料が並び、甘く熟れた匂いが漂っている。そんな中、ちらほらとネズミの姿が見えるたび、店主たちは眉をひそめていた。だからだろう、少し前に煙を焚いているのを見かけたのだ。すると穴からネズミがわんさか出てきた。それを見て、これは楽しそうだと思ったのだ。それでその日からネズミの駆除用の煙を焚いて遊んでいるのだ。装置の扱いを間違えると、煙の発生装置が暴発することもあるらしいが、これまで何度も使って問題がなかったため、ノエルは高を括っていた。まあ、これまでも大丈夫だったし、今回も問題ないだろう――そう高を括っていた。今日も物陰に煙装置を設置する。
「これでセット完了。離れてから、3・2・1でドンだ!」
煙が焚きあがるのを待っていると、
「あなた、何をしてるんですか? それがここで爆発したら大変なことになりますよ!」
そんな声が急に背後から聞こえてきて、驚きのあまり煙を噴射するためのリモコンを落としてしまった。その瞬間、ものすごい爆音とともに真っ白な煙に包まれて、そのままノエルの意識はブラックアウトした。
次に目を覚ますとノエルは自分のベッドの上だった。自分はなぜここにいるのか記憶が徐々に戻り、自分のしたことを思い出した。自分の後ろにいた人は大丈夫だったのか、その安否が気になり、部屋を飛び出して近くにいた執事に聞いた。
「ノエル様、お目覚めになりましたか! アルマンド様が相当心配しておられましたよ……」
「ちょっと待ってくれ、あの人、僕が煙を焚いていた後ろにいた人は?」
すると、執事は戸惑ったような顔をして、
「あの少女が爆弾を仕掛けたんじゃないんですか?」
意味のわからないことを言い出した。
「何を言っているんだ? あの煙は僕がネズミ駆除用の煙を焚いていたのだが?」
すると執事は急に青ざめた顔をして、
「その話は本当なんですか?」
「本当だが……」
すると執事は更に青ざめた顔で言った。
「アルマンド様は今までの爆弾をあの少女が我々への敵意を示して仕掛けたものだと判断しました。だから、その報復にといってその少女を縛り上げて、火炙りの刑にするとおっしゃっていました。」
ノエルは自分が本当に大変なことをしてしまったのだと悟った。もし冤罪でその人が焼かれたとなれば……
「今すぐ中止にしろ! 父上はどこだ!」
「い、いつもの部屋にいらっしゃいますよ」
あたふたとする執事をよそにノエルは駆け出した。
「父上!」
ノックもせずに乱暴にドアを開け叫ぶ。
「おぉ、ノエル起きたか! 私は心配で心配で……」
「今すぐ火炙りの刑を中止にしろ!」
アルマンドの言葉も待たずにノエルは言った。
「ど……どうしたのだ? ノエル、あの女は悪人で……」
勘違いしているアルマンドにノエルは言った。
「違う! あの人は僕が爆弾を仕掛けていたのを止めようとしてくれていたんだ。声をかけられた時に僕が驚いて起爆させてしまっただけで……とにかくあの人は無罪だ! なんなら僕の恩人だ!」
アルマンドは大きく目を見開くと、
「では、今まで市場で煙を焚いていたのも、お前だったのか?」
「そうだと言っているだろう!」
アルマンドは青ざめて、唾を飛ばしながら叫んだ。
「今すぐ火炙りの刑を中止しろ! 理由は後だ、まず火を消せ!」
ノエルもあの人が無事であることを願った。しかし……
「アルマンド様、もうすでに火は止まっております。あの少女はすでに炭と化しました……」
ノエルは膝から崩れ落ちた。自分のせいだ。自分の軽率な行動によってなんの罪もない人の命を奪ってしまった。ノエルは、喉の奥から何かがこみ上げてくるのを感じた。それは叫びにもならず、ただ嗚咽となって彼の肩を震わせた。
「あんなことしなければよかった……」
そうこぼしても時が戻ることはない。そしてノエルは大粒の涙を溢れさせながら自分の口の中だけで呟いた。
「この世はなんて理不尽なんだろう」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます