この世界は優しくない

にわとり先生

この世界は優しくない

僕がまだ三歳の時に、ママは亡くなった。死因は交通事故だった。お盆でばあちゃんの家に帰省していた時だった。僕が「おやつが欲しい!」って、わがままを言ったから。ママは僕のためにスーパーマーケットまで行こうとした。その時に、飲酒運転をしていたおっさんと衝突事故……と、ばあちゃんから聞いた。

「ゆうちゃん、お母さんはねんねしてるから……バイバイしようね」

当時まだ病死していなかったばあちゃんは、小さい僕を抱き上げて、「ねんね」しているママの顔を見せた。幼かった僕は、その顔を見て本当に寝ているのだと思った。

そして、ママは二度と戻ってこなかった。


ママが亡くなってから、十数年の時が流れていった。僕はすっかり高校生になった。何とか志望校に合格して、アルバイトをしながら通っていた……が、決して、平和ではなかった。

「お前、お母さんがいないんだろ?」

「……はっ?それが、どうしたんだよ…って、そもそもどこでその話を……!」

いつの間にか噂となって知れ渡っていた、ママのこと。僕が声を荒らげてクラスメイトの男に問い詰めるが、クラスメイトの男はおろか、他の取り巻き、傍観してきた他の奴らも、クスクスと笑って面白がっていた。

「かわいそ〜、ママがいなくて寂しいでちゅよね〜」

「やめてやれよ〜、優斗が泣いちゃう〜」

僕のこと……いや、ママを死を笑いものにされている気分で、腹の底が煮えていく。

「……おい、ママッ……か、母さんのことを笑うな!」

「何そんなにマジになってんの?」

「そんな真に受けなくていいのに〜」

まるで僕が「おかしい」と言うように、皆は僕にそんな言葉を吐き飛ばしていく。

「お前らー、席に早く……」

「っ、あ、せ、先生……」

「センセー!聞いてくださいよ〜、優斗の母さんの話したら、優斗が怒鳴ってきました〜」

ヘラヘラした調子で教師にそう言った。その姿は、何でも告げ口したがる小学生と、何ら変わらない。

「またそんな……はぁ、優斗、大人になれ。言われて嫌な気持ちになるのは分かるが、いちいち怒るな。子供っぽいぞ」

僕の顔は真っ赤になった。恥ずかしくて、イライラして、悲しくて……今どんな感情になっているのか、分からない。ただ、わかることは、僕の味方はいないことだけだ。

顔を赤くして立ち尽くしている僕に、クラスメイトの男は軽く頬を殴ってきた。口元が切れて、糸みたいな細い血が流れる。

「……お前さぁ、うるさいんだよ。黙って笑いものになってろよ」

「……」

僕は言い返せる訳もなく、ただ俯くことしか出来なかった。

どこへ行っても、僕は好奇の目で見られてばかり。そんな僕を、世界は笑っているんだ。

どうやら、世界は僕に優しくないみたいだ。


クラスメイトからは笑いものにされる高校生活。家に出る度にヒソヒソとうわさ話をする近所のおばさんたち。そして、いつも仕事ばかりで帰ってこないパパ。……僕の居場所は、無いに等しい。

起きて、朝ごはんを食べて、学校に行って、笑われて、とぼとぼと家に帰って、風呂に入って、寝て……そんな毎日ばかりを繰り返して、 嫌になってくる。世界がいかに僕のことを嫌っているのか、僕がどれだけ惨めなのか、いつも思い知らされる。そして、ママがそばにいない現実も。

眠れずに、フラフラと通学路を歩いていると、ふとあることを思い出した。通学路の道を外れて、路地を抜けた先には小さな神社があるのだ。……どうせ学校に行っても、きっと。

「……どうせ、サボっても、誰も僕のこと、心配してくれないよな」

僕は後先考えず、その小さな神社へと向かうことにした。

しばらく路地を歩いていると、その先はけもの道になっていった。どうしてこんな場所を知っているのか、僕は覚えていなかった。ぼんやりとした頭で歩き続けてから二十分後、小さな神社に着いた。

人の手入れが行き届いていないのか、石畳は苔まみれ。木でできている鳥居は腐っていた。

「……お参りでも、するか」

僕は小さな賽銭箱に小銭をそっと入れて、二礼、二拍手、一礼……と何も考えずに、作法をした。

「……はぁ、なに、してんだろ」

言ってしまえば、僕は学校をサボっている。あの場所が息苦しくて、行ったとしても、誰も僕を歓迎することはない。その代わり、嘲笑う声が響くばかり。言い返せば、僕が大人げないと言われ、時には殴ってくる。

パパは仕事で忙しいし、迷惑をかけるわけにはいかない。

「……こんなとき、ママは、なんて言うんだろう」

抱きしめてくれるのかな?それとも、励ましてくれるのかな?……それすら、分からない。自身のつま先を見ながら、そんなことばかり考えていると、正面に誰かの気配がした。人?……いや、人の気配とは、何だか違う。

異質なその気配の正体を見るために、顔をゆっくり、ゆっくり上げていった。

「……へ」

その正体を目の当たりにした時、思わず音を外したラッパみたいな、間抜けな声が出た。

目の前には、髪の毛も肌も真っ白で、目元は沢山の小さな白い花で覆われていて、頭には角のようなものが生えている。巫女さんのような服を纏っており、風もないのに袖はフワフワと浮いていた。……どう見ても、人じゃない。得体の知れない「何か」だった。

「……あ、あのぉ…名前、は?」

「……」

僕の問いに答えることはなく、ただ、僕の目を見ているような仕草をした。場所も場所だから、きっと神様だ。そう思った。思い込んだ。

「……あ、えっと…」

何を話せばいいんだろう?

気まずい空気が僕と目の前の「何か」の間を抜けていく。どうしようと考えている僕より先に、「何か」は僕の手を取り、地面より少し浮きながら、どこかへと向かい始めた。

「え、あ、ええっ!?ちょ、ど、どこに行こうとしてるんですか……?!」

僕の声が聞こえたのか、こちらに顔を向けた。そして、フッと微笑んだ。その笑顔に、僕はどことなく、ママの面影を感じてしまった。

街中を抜け、「何か」は何かを探しているように周りを見渡している。僕も同じように、周りを見渡してみた。他の人たちは、「何か」の存在を認識していないようで、やはり「何か」は人ではないと、改めて思った。

「何か」は見つけたのか、僕の手を引き、ある方向へと一目散に向かい出した。着いた場所はファミレスだった。僕とママ、パパがよく行っていたファミレスだ。

「こ、ここに入るの?」

僕がそう聞くと、「何か」は「うん」と言うように首を縦に振る。仕方ない、と思いながら、僕は一緒にファミレスに入った。

「いらっしゃいませ!」

店員の明るい声が店内に響く。「一名様でよろしいでしょうか?」と聞かれ、思わず「いいえ」と言いそうになり、慌てて首を何回も縦に振った。やはり、「何か」は僕以外には認識されていないみたい。

案内された席に座り、メニュー表を見る。懐かしさと、ママのいない寂しさを感じながら、メニューを見ていると、「何か」はメニュー表のとある項目に指をさす。

「……チーズハンバーグセット…?」

小さい時、僕の誕生日にママとよく食べていたセットだ。中にトロトロのチーズが入ったハンバーグに、デザートとしてプリンがついているものだ。……あっ!

何かに気づき、僕はスマホで日付を確かめると……僕の、誕生日だった。

「……」

「何か」は何も言うことなく、笑顔を向けている。僕のことを知っているのか?と思いながら、僕は「何か」が指をさしているメニューを頼むことにした。

「……君は、なにか頼む?」

「……」

僕の問いに対し、「何か」は首を横に振った。

注文をし、チーズハンバーグセットが届くまでの間、僕は「何か」について考えた。僕のことを知っている人物で、人ではない。そして、僕にしか見えない。まさか、幽霊?と思ったが、幽霊の怖さなど微塵も感じないくらいの不思議で優しい気配だ。神様か?と思いもした。

「……んー、ねぇ、君って名前あるの?」

「……」

「何か」は僕の問いに対し、頷く。

「じゃあさ、教えてくれるかな。これに、書くとかして……」

僕はリュックからノートとボールペンを出して、「何か」の前に差し出した。「何か」はしばらくノートを見つめて、ボールペンを手に持って見つめる。そして見つめた後に、細い線でノートに名前が綴られていく。

「……えーっと…、ひ、な…こ……?」

ノートには「ひなこ」とひらがなで記された。「何か」基「ひなこ」はノートとボールペンを僕に返してくれた。丁度その時、頼んだチーズハンバーグセットが来たようだった。

「うわー……久々だな、ハンバーグ」

僕は何年も食べていなかったチーズハンバーグに目を輝かせる。小さい頃はこうやって、ママとハンバーグを食べてたなぁ…そう思いながら、僕は手を合わせる。

「いただきます」

ナイフとフォークを持ち、チーズハンバーグに切り込みを入れて、食べやすいサイズに切っていく。その様子をひなこはじーっと見ていた。一口サイズに切ったチーズハンバーグを、僕は自分の口に入れた。ママとの思い出を噛み締めながら、チーズハンバーグを食べていく。

「……久々に食べたけど、美味しいな、ほんと」

思い出の味に、僕は思わず呟いた。ひなこはその様子すらも逃すまいというように、僕のことを見ている気がした。しばらく食べ進め、僕はペロリと完食した。

「ごちそうさまでした……会計しないとだね」

僕は会計をするために、レジへ向かった。最近は電子化も進み、このファミレスのレジもセルフレジになっていたみたい。画面に表示された値段を見て、僕は財布を出そうとしたその時、

「レシートをお取りください」

「……っ?」

ふと画面を見ると、既に会計済みになっており、いつの間にかレシートが出てきた。

「え、ど、どういう……?」

僕は何がどうなってるか分からず、思わずひなこの方を向いた。ひなこは、僕を見て、笑っていた。

「……これ、君が?」

僕がそう聞くと、ひなこは頷いた。どうやら、ひなこが既に会計をしてくれていたみたいだった。

何ともスッキリしない気持ちの中、レシートを財布に突っ込んで、店の外に出た。外に出ると、ひなこは有無を言わさず、また僕の手を引いていく。

「え、あ!こ、今度はどこに行くの?」

「……」

ひなこは答えることもなく、僕の顔を見て、微笑むだけ。……ひなこ、ひなこ……どこかで、聞いたことのある名前な気がする。

「……あ」

ママの名前と、同じだ。僕はそう気づいた。


次の場所は、広くも狭くもない公園だった。僕が小さい時にママと言った時は滑り台やシーソー、ブランコとかあったのに、今ではブランコがポツンとあるだけ。いくら安全が必要とはいえ、思い出のものを捨てられたような気持ちになってくる。

「……?あれ、ひなこ?ひなこー?どこに……って」

いつの間にか手を離していたひなこ。僕は慌てて辺りを見渡すと、ひなこはブランコのそばでフワフワと浮かんでいた。ホッと胸を撫で下ろし、僕はひなこのところへ行った。

「ブランコに乗りたいの?」

「……」

ひなこは、「ここに座って」というように、ブランコを指さす。僕はひなこを見る。ひなこは相変わらず微笑んでいる。座らないと話は進まない……僕はひなこの指示通りにブランコに座り、ブランコをぶら下げている両側の鎖を掴んだ。すると、ひなこは僕の背中を押し始め、ブランコはユラユラと動く。

「わっ、わっ!ひ、ひなこ!?僕そんな歳じゃないってば……!」

嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちなのか、僕の顔は熱くなる。僕はひなこのいる後ろ側を見る。ひなこは、微笑んでいた。でも、その笑顔は何だか……ママと似ていた。

小さい頃、ブランコに乗った時、こうしてママに押されていたな……なんて、僕はふと過去を振り返った。

「……ふ、あははっ!」

しばらくしているうちに、僕は思わず笑い声を漏らした。ママと遊んでいる気分になれたからなのか、それとも、昔みたいに遊具で遊べて楽しいからなのか、僕には分からない。でも、分かることとすれば……こうして笑えたのは、久々なこと。

「あははっ!いけいけー!」

「……」

あの時みたいに、僕は声を上げた。その声に反応するように、ひなこは空に届くくらい、強く背中を押してくれた。

押してくれるその手は、どこか懐かしい気がした。

存分にブランコで遊んだ後も、ひなこは僕の手を引いて、僕の知っている場所へと連れていってくれた。

小さな小屋の駄菓子屋、絵本を買った本屋、スーパーヒーローのおもちゃを買ったおもちゃ屋……ひなこが連れていってくれる場所は、どこも僕とママの思い出の場所ばかりだった。

照れくささはあるけれど、思い出の場所に行くたびに、ママと過ごした記憶が最近のことのように思い出せる。そうしてママとの思い出の場所巡りをしているうちに、日が暮れていった。


ひなこは、夕暮れが綺麗に反射する川にある堤防に着くと、夕暮れを見ていた。僕も夕暮れを見ようとそっちに目をやった。夕暮れは眩しいくらいの橙色だ。何も変わらないその夕暮れと街並みを見て、僕は現実にズルズルと引き戻されていく。

「……はぁ…」

現実に引き戻された瞬間、体が重くなり、立っていられなくなった。そして、あの笑い声が風と一緒に耳を撫でてくる。その感触が気持ち悪くて、僕は膝を抱えて堤防に座り込んだ。

「……ひなこ、今日は、ありがとう」

「……」

ひなこは、拗ねた子供みたいな情けない姿を見せてしまっている僕の隣に座って、僕を見る。

「……久しぶりに、楽しい思いができて、楽しかった。ママ……か、母さんとの過ごした時間を思い出せたし」

「……」

「……でも、明日は学校行かないと。パパ……と、父さんに、心配かけちゃうし」

「……」

「……でも、学校、行きたくない。いつも、笑われて、見せ物みたいにされるんだ」

本当は、こんなことを人前で話すなんて情けないし、惨めだって分かってる。分かっているのに。そこに、いる気がしてしまう。そう思い込んでしまうから、次々と内に秘めていたものが口から吐き出されていく。

「パパは、いつも仕事でいないし。近所の人達からは、ヒソヒソ話されるし……みんな、僕を面白いおもちゃみたいな目で、見てくるんだ」

「……」

「世界は、僕のことが嫌いなんだ……僕が惨めなのを、笑ってるんだ。僕のママを、笑う奴らに言い返せない僕だから、情けないって……」

簡単に思えていた世界は、複雑で、無常で、僕を突き放してくる。僕に対して「お前のせいで、ママは死んだんだぞ」と指をさしているんだ。

「……僕のせいで、ママは死んじゃったんだ。僕が、わがままを言ったから」

世界は僕に優しくない。僕は、わがままでママを死なせた人間だから。世界は優しくしてくれないし、周りは笑う。僕の寂しさも、悲しさも、後悔も、自己嫌悪も……周りにとって、世界にとって、ちっぽけなものでしかない。

「僕が、わがままを言わなければ、ママは、いてくれたのに……ごめんなさい。ごめんなさい……こんな、子で、ごめんなさい」

謝罪の言葉しか、浮かんでこない。きっと、ママはこんな僕に、失望してるに違いない。わがままを言って、ママを死なせた酷い子だって。ママ、ごめんなさい。ごめんなさい。

「こんな惨めな子供として、生まれてきて……ご、ごめんなさ……」

ごめんなさい、と言いかけた時、僕を抱きしめる人がいた。

「……」

「……ひ、なこ…?」

ひなこだった。強く、僕を包み込むように、抱きしめている。そして、その顔は、酷く、泣き出しそうに、口をキュッとさせている。そして、小さな花の涙が僕の顔へと落ちていく。僕はわけも分からず、手のやりどころに困っていると、ひなこら小さく口を開いた。

ご、め、ん、ね。

「……え?」

僕は思わず声を漏らした。どうして、謝るのだろうと、そんな疑問が頭をよぎる。ひなこはママ、なのか?…そんな淡い期待を抱いてしまった。ママの温もりと、あまりにもそっくりだったから。

「……ひな、こ」

「……」

「ひなこは、ママなの……?」

僕の問いに答えることはなく、ひなこは僕を抱きしめたまま。「知らない方がいい」と、言いたいのだろうか。

「……ひなこは、どうして、僕に優しいの…?こんな、こんな親不孝者なのに、情けない人間なのに」

嗚咽の混じった声を、僕は漏らしてしまった。僕には分からなかった。人に優しくされるような人間ではないのに、ひなこは僕を責めることをせず、小さな子どもをなだめるように、優しく抱きしめていて…ひどく、僕は泣きそうだ。

「……ゆ、う、と」

「……?」

「ゆ、う、と……自分のこと、せめない、で」

たどたどしい、というよりは聞き取りずらい声…というのが正しいのだろう。でも不思議なことに、その声は不快なものではない。優しくて、泣きそうな声。

「……ゆうとは、やさしいこ。ママを、大切に思ってる子。ゆうと、ママは、ゆうとのこと、大好きだよ」

「……ひな、こ…?」

「世界は、やさしくない。誰かの悲しみ、にも、寄り添ってはくれない。誰かの苦しみを、救ってくれない。世界は、誰かを待つこともなく、動き続ける」

「……でも、わたしは、ゆうとの、そばにいるよ」

ひなこはそう言って、僕の目を見て、手を握る。僕より小さい手だ。この手に僕は引かれていたんだな。

「…きっと、これからも、ゆうとは悲しいと、思う時もあるし、苦しいって、思うこともある。わたしは、ゆうとの悲しみを、全部拭うことはできない。でもね、忘れないで。姿が見えなくても、わたしは」


「ゆうとの、そばにいるよ、ずっと」


そう言って、微笑んだ。泣きそうな、別れを惜しむような笑顔だった。ひなこは小さな花びらになって、空へと吸い込まれていく。

ひなこが空へと吸い込まれていった後、僕の手の中には何かがあった。小さな巾着袋だ。ママが、大事に持っていたものだ。

「……あ、中になにか入ってる」

僕ほそっと巾着袋を開けてみると、小さく折りたたまれた紙が入っていた。その紙を丁寧に、丁寧に開いていくと……

「……!…ママ、ずっと、大事に持ってたんだ」

それは、僕が小さい頃、クレヨンで描いたママと僕の絵だった。かなりの時間が経っているせいか、紙は少し黄ばんでいて、ヨレヨレになっている。

「……ありがとう、ひなこ…ママ」

ひなこが何者だったのか、僕は分からない。でも、ひなこが何者であろうと、僕のそばにいてくれた人であることには変わりない。世界はこの先も変わらない。僕に優しくないことも、他のみんなの悲しみにも寄り添ってくれないことも。世界は、平等に無常なのだ。

「……そばに、いる。…か」

僕は、ひなこの言葉を何回か頭に巡らせる。世界の代わりに、ひなこが僕のそばにいてくれた。そして今も、姿が見えずとも、そばにいる。きっと、ママも姿が見えないだけで、僕のそばにいる。

この優しくない世界で、僕も誰かの悲しみに寄り添えるような、そんな人になりたい。ひなこが、ママが、僕のそばにいてくれるように。

僕は大きく息を吸って、ゆっくり吐く。紙を巾着袋に入れて、大事に手に持ちながら、僕は夕日に照らされる堤防を踏みしめた。

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