第17話・比呂のビーサン2006 .04 .25TUE))23:20

今日は、比呂がうっかりビーサン登校。体育も外掃除もビーサンで『リゾート気分でいいなあ』と言われ続けてた。で、部活後に一緒にジャスコに行ったんだけど、そしたら数学の岸先生に会った。



岸先生とは今朝学校で、比呂のビーサンの件で盛り上がり『ジャスコにいく』とか言ってたから、 会うかなーと思ってたら本当に会えた。比呂ががちゃがちゃで遊んでて、俺はその横で比呂を観察してて、そしたら背後で『よお、暇人。』とか言われたから振り向いたら岸先生がいるじゃん!


「先生、マジで来たの?」                     

「うん。きたよ。お前らいるかなーって思ってね」

「ほんとに?あ、そだ。結局ビーサン買った?」

「うん。黒白のやつを一足買ったよ」

「あーーー!まじ?!いいね!あれ、いかすね!俺も最後まであれと迷ったもん」

「そうか(にやにや)」


比呂と岸先生の会話を聞きながら、俺はニコニコと笑っていた。話をしながら比呂は俺の腕をぱしぱしたたいて笑ってるし、岸先生は、俺の頭をずーっとなでくりまわしてる。あはは。


ひとしきり話して笑ったあと

「俺、職員室のコーヒー買わなきゃいけないから行くよ」

といって、 岸先生が食品売り場のほうに歩いていってしまった。

「「さよならー!」」

って、比呂と手を振って、俺らも帰ろうって話になった。


でもさみしい。さみしいから「腹減ったね」って言ってみた。比呂は、あっけらかんとした顔で「わかる。じゃ、なんか食いに行こう」っていうと、ジャスコの店内図で店をチェックし始めた。やったね。誘導尋問(?)成功!!話し合いの結果俺たちは、ケンタで人生について語ることにした。 



ちなみに人生について語ることにしたってのは、俺が勝手に決めたことだけど。(しかも心の中で)


そしたらね。比呂が超ご機嫌なんだよね。何お前ってくらい、幸せそうに食ってるんだよ。『おいしすぎない?』『この世の物とは思えない』・・・とか言いながら食べてんの。笑っちゃうよ。



「好きなの?ケンタ」

「うん。大好き」

「知らなかったよー」

「つか、から揚げ全般が大好きなんだー」

「そうかー。そういや、なんか前にそんなこと言ってたよね」

「言ったかな・・俺・・」


おっもしれえな。から揚げ好きなんて。子供か。そんなことを思ってたらさ、比呂が急に俺に聞くんだよ。


「幸村ってさー頭いいじゃん」

「・・うん」


・・うん・・とか思いっきり言っちゃったよ、俺のあほ。


「すごいよね。家で一日にどんだけ勉強してんの?」

「俺?」


比呂は、俺を見て無言で頷く。だから俺は正直に話した。


「帰って最低2時間かなあ。塾があるときは塾の復習だけ。俺さあ、勉強好きなんだよね。なんか嫌味に聞こえるかもしんねーけどさ」

そしたら比呂が、ん?って顔をする。

「嫌味?なんで?」

「だってさ、勉強好きなんていうとさ・・嫌な感じしね?なんか・・」


そしたら比呂はげらげらと笑ってこういうんだ。


「なーんでだよ!お前、気にしすぎだよ!」

「・・・でも実際俺、それが原因でいじめられてたし・・」


・・そんな風に笑い飛ばしてくれるやつなんかいなかったし・・


「・・ねえ、イジメって、そんなひどかったの?」

「・・・無視ってさ・・すげえ、心にクるよね・・」

「シカトされてたって言ってたよな。前に」

「うん・・」

「・・・なんかあれだよな・・。みんながかわいそうな感じだよね」

「・・・?」

「だってあれだよ。お前無視してたやつの半数以上は、仕方なくやってたんだと思う。幸村その性格じゃん」

「・・その性格?」

「いいやつじゃん。お前。だからお前を無視するのって、周りのやつらも相当苦痛だったと思うよ。」

「・・・」

「イジメの首謀者とかっているの?」

「・・・ああ・・。まあ・・」

「名前教えろよ。俺が文句言ってやるよ。俺、ずっと思ってたんだ。こないだお前にそれ聞いてから」

「比呂・・」


比呂はもうニコニコしてない。


「ふざけたハナシだよ。ほんと、むかつくよ。幸村は本当にいいやつだよ?でもお前全然自分に自信ねえだろ。環境が悪すぎたんだ、絶対。お前は悪くない。お前は全部自分のせいだって思ってるけど、全然そんなことはないんだよ。わかれよ?そういうのはちゃんと」


・・やばい・・・勝手に涙が目に溜まる。こんなとこで泣くわけにはいかないのに・・。


「や・・でも俺にも落ち度がきっと・・あった・・と・・」


そこまで言うと、比呂は『店、出よう』といって、トレーを手にしてごみを捨ててくれた。そんで、俺のバッグをもって、俺の手を引いて店を出た。俺の目からは涙があふれる。ジャスコを出て駐輪場の手前の暗がりで俺はついにへたり込んだ。


比呂が俺の横にしゃがみこむ。

「・・落ち度なんかあるわけないよ。落ち度ってなんだよ。中学生だろ?落ち度もなにも、第一あれだよ、正しいイジメなんかないんだよ?無視するやつのほうが絶対悪い」

・・ついには嗚咽まで混ざる俺の泣き声。こんなに泣くのは初めてで、体がどうにかなりそうで怖い。

「無視は放棄だ。そうだろ?ね?考えてみなよ。お前が悪いなら、注意すりゃいいんだ。でもしない。なぜだかわかるか?注意するようなことがないからだよ。ただ気に入らないだけだったんだよ」


・・・比呂が、一生懸命話してくれてる。


「勉強できるし、性格いいから、妬まれたんだ。それしか考えられない。お前は何にも悪くないんだよ。お前はそれを、全部自分のせいにしてるみたいだけど・・もうまじで忘れな。忘れらんないんだったら、そいつらと会って、無視の理由吐かせようぜ。俺がやってやるよ」


駐輪場の前を車が通った。暗がりが一瞬車のライトで天国みたいに明るくなる。そしたら比呂の顔が見えた。目にいっぱい涙がたまってる。


光が通り過ぎて闇がもどる。あたりの静けさに思わず俺らは黙り込んだ。比呂が・・比呂が涙を拭って、はあっと息を吐いて夜空を仰いだ。


「入学式のとき・・お前が泣いただろ。あの時俺・・本当に困ったんだ」


比呂はあの時、自分がいった『エロ村ハゲ』で、俺が泣いたんだと一瞬思ったみたい。だけど俺が比呂にすがりついた時、理由は別にあるのかもって、ちょっと安心したんだって。でもその後に、俺は比呂に、自分の中学時代の話をした。それを聞いて比呂は思ったそうだ。


何であの時、無責任に、『俺が泣かせたんじゃなくてよかった』なんて思ったんだろうって。・・・考えすぎは比呂のほうじゃん。でも俺は、そんな比呂の性格に救われている。



結局その後、なんとなくその話を終わりにした俺らは、自転車を転がして、とぼとぼと帰り道を歩いた。比呂のびーさんがぺたぺたと、気の抜けた足音をだしている。


「ごめん」と比呂が言う。だから俺は「何で」ときいてみた。「なんか俺・・つい・・言い過ぎた・・」なんて申し訳なさそうに謝るから、「そんなことないよ。うれしかったよ」といって、俺は笑った。


ほんとだよ。すげえうれしかったんだ。比呂の口から『お前は悪くない』って言ってもらえた事が、どれだけ俺の気持ちを救い、楽にしてくれた事か。


すげー泣いた・・・。泣きすぎてのどが渇いて、帰りにコンビニに寄った俺は、炭酸買って一気飲みした。比呂は比呂で、遠くのほうで、タバコを吸って泣いていて、それを見てたら俺もまた泣けた。


ずっと気にしてたんだって。なんとなくだけど気にしてたんだって。

そんなやつには見えないのにな・・・。でも俺すっげえ、うれしかったよ。すっげえすげえうれしかったよ。


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