閑話 シェリアの過去話

 シェリアはオヤツが大好きで、元々料理が得意というよりは、ただ自分が甘いものが好きというだけ。色々なオヤツを自分で作っていた結果、副産物として料理ができるようになったクチだ。生クリームを使った、スイートポテトを始め。ソフトクリームなども作っていた。子供の頃から、甘くて冷たいものが売っていない事に腹を立て。材料を投入して、手で回せばアイスが無限に食べられるそれを若い頃から作ってしまっていた。



 ちなみに、最初のソフトクリームを作る為の魔導具は父親の魔石をくすねて作り。母親がポケットマネーで買い取る形で許された。しかし、代わりにその魔導具は商会の食堂の端に設置され。シェリアだけでなく、全ての従業員が好きな時に食べる事ができるという形になった。当然、現在も母親が夏になるとフル稼働させるらしく。


 最近になって、弟がバニラ以外も作れる様にしてくれと頼みに来たばかりだ。


 シェリアは、ペーストになっていれば果物でもアイスに出来るとレシピをぶん投げた結果。母親から、お肉がついちゃったのよどうしてくれるのと抗議を受けた。シェリアは文句は味を増やしたいと言った弟にお願いしますと責任をぶん投げた。


 他にも、わらび餅を製造する魔導具やら。ケーキのクリームを均一に塗る魔導具等も作っていた。独立する前の若い頃は、実家で暇を持て余し。そのあふれる頭脳と情熱をスイーツを沢山食べたいという欲求のまま駆使し。父親も、商品として売れているだけに。文句を言えずにいた。


 そんな娘が独立して、雑貨屋をやると言い出した時に両親は大丈夫かと思ったものだが。結果は読者が知っての通りであり、不本意な商品ばかりではあるが繁盛はしているので。親としては微妙な気持ちのまま応援していた。


 彼女が料理を得意になった理由は単純だ。とにかく買い物の回数を減らしたい。安くて美味しいものを食べたいと商売が軌道にのるまではやはり暇だったので、料理を研究していた。肉そぼろ焼きそばから始まり、海鮮塩焼きそば、牛肉から炒め焼きそば、豚キムチ焼きそば、プチトマトとパセリの焼きそば、カレーナポリタン焼きそば、梅風味ツナ焼きそばといった具合に。まず、使いまわせる用に大量に蒸した麺を用意し。それを使って、焼きそばだけで二週間を過ごせるバリエーションを作る事で、買い物回数を減らす事にも成功し、副産物としてまとめ買いによる割引が適応されて安く買う事が出来ていた。



 シェリアは、仮に失敗してもアリ達に与えていた為。アリはアリで、美味しいものを研究し始めたのもこの頃からだった。しかし、スミレと自分の出会った記念日という事でホールケーキを与えたのは失敗だった。


 スミレは、その美味しさと美しさに感動し。シェリアに作り方を教えてもらうも、『特別な日に食べる。特別美味いモノ』という認識になっていた為。スミレの群では、新しいアリが生まれた時や豊作祝い等の『特別な日』に食べれるものとして特大のホールケーキは周知徹底された。


 改良に改良を重ねた結果、シェリアがスミレに味見を頼まれた時。余りの美味しさに涙を流し、完食後にもっと色々なオヤツを作ってもらえるかもしれないと。レシピ本を与えた結果、数年後にパティシエだけやるアリが出てきていた。


 この頃から、勝手に進化し。勝手に分岐し、せっせと自分達の為に改良を怠らない。結果として、シェリアもアリ達にスイーツだけじゃなく、料理も教えたら自分が楽できるんじゃないかと考えたが、アリは自分達で消費してしまうので。結局、自分の分も商売で使う分も自分で作らねばならない事に気がついた。シェリアがそれに気がつくまでに、アリ達は随分と進化してしまっていたが。


 最初に焼きそばベースで考えた理由も、ソースをトマトベースにすれば栽培が楽で、回数を収穫できるからで。焼きそばに使えなくても、トマトを潰してスパゲティで消費しようと目論んでいた。


 結果として、大量に作れるという部分がアリ達に大ウケし。大量に作れば、腹一杯好きなものが好きなだけ食べれるという事で、例の農場が出来上がったという訳だ。そんな調子で、本人はあくまで自分の為。ないしは怠ける下心ありで色んなことをやっていた訳だが。ことごとく違う方向に花開いて、大好評になるのはこの頃からだった。


 一人で黙々と開発し、実験し。美味しいものができた時は満面の笑顔で完食。ただ、細々と稼がねば材料も買うことができない。実家から、魔導具を偶に製作依頼がきて作り、結構な金額にはなるが。それは雑貨屋の仕事ではない。


 この頃から、雑貨屋としては流行っていなかった。


 実際の所、お弁当も冒険者達も干し肉などの保存食ばかりで大変だと街で聞き。お弁当を置いたら、うちの雑貨屋も認知してもらえるんじゃないかと始めた訳だが。『結果、冒険者ギルドでシェリアの弁当屋として大々的に受付嬢が勘違いして貼り出した結果。大人気なのは弁当だけというオチがついたのは皆様ご存知の通り』


 それからも、雑貨を売りたい一心で色んな商品を色んなギルドに売りに行った。しかし、何処でも雑貨屋としては認知されなかった。瀕死の冒険者に、疲労回復のつもりで持ってきた回復飴を渡したら。疲労じゃないものまで回復して、えらい事になったりはしたが。


 リアンナが店に来る前からこんな調子で、『定期的に休んでたそがれては、いやもっと違う商品を作ればきっと雑貨屋として流行る筈という。根拠のない努力を繰り返した』


 たそがれて、休むと本業だけの売り上げとなり、途端に貧困に陥り。川で魚を取る羽目になりといった具合だ。勿論、需要自体は関係者全員がどうやってシェリアに頼もうか真剣に悩んでいる位なので。当然、作れば作っただけ売れる。しかし、肝心の雑貨は羊皮紙の十枚束すらも中々でていかない。


 リアンナも最初は新たな職場で頑張るべく、仕事を覚えようとしたが。説明が雑な上、雑貨屋と聞いていたのに出ていく商品はそれ以外が殆どの為。最終的に、雑貨屋以外の商品を片っ端から覚える方が店に馴染めるし、貢献できると結論づけた。


 冒険者時代と比べたら、体力仕事には違いないが。命をはらなくていい上、絶対にオヤツを食べる為に休憩を取るという意味では当たりの職場と言えた。ただ、店長がほっとくとすぐに怠けようとする為。定期的に、店員が店長に仕事を催促しないといけないが。


 シェリアの作るおやつは本当に絶品だが、基本的に作らない日は皿の上に硬貨がのっていて。自分で買いに行けというスタイルだった。ちなみに、シェリアの作るものには及ばないが。十件程行った所にあるガレットを主力にしたお菓子屋が最近ではお気に入りであり、木の実のドーナツ等を買い込んで食べている。


 リアンナもスミレも、先日シェリアがアップルパイを焼いた時はテンション高く食べまくっていた訳だが。それを見て、自分が一人でそれを焼き続けている事にシェリアが拗ねて。また暫く、シェリアはオヤツを作らないだろうというのが、二人の共通の意見だ。働くうちに、スミレとリアンナは心通じ合う仲になっていた。


 スミレはお詫びに、リンゴの蜂蜜漬けをシェリアに贈ってみた所。蜂蜜のみを五本欲しいとお願いされ。二つ返事で用意した所。


 その蜂蜜を使ったチョコチップクッキーをありったけ用意し、スミレとリアンナはお預けにし。兵隊蟻たちに差し入れした。


 兵隊蟻達全てには行き渡らない為くじ引きとなった訳だが、引いた棒に紅い印がついてればクッキーというクジにも関わらず。アリ達にとって、それは自分達の為に焼かれたものであり、非常に形の整ったそれ。


 スミレもリアンナも絶対美味しい奴だとクジに参加しようとするも、シェリアがプンスカ怒ってそれを止めた。本当は全員分アップルパイがある筈だったんですからねとシェリアが言った瞬間、二人は針のむしろとなった。


 そんな訳で、シェリアはアリ達にもリアンナにも。かつては自分を喜ばせる為だけに作っていたそれを振る舞っている。


 では、外れたアリ達には何もなかったのかと言えばそうではなく。『洋梨の蜜漬けチーズタルト』なる特大のタルトをちょっとづつ、ハズレたアリ達に対しても配り始めた。余りの事にくじで当たったアリとスミレとリアンナが、放心していたのはご愛嬌というものだろう。


 シェリアにとって、アリは可愛いペットである。ただ、彼女が与えるものによってアリたちがまた変な方向に進化をしていくだけだ。彼女が甘やかして、美味しいものを与える度に、アリ達は毎日食べたいと声を大にしてそれを目標に様々なものを追加していく。


 シェリアが天然でやらかしているそれを、リアンナが見る度に喉の奥から何かが迫り上がってくるような気持ちになるだけだ。


 シェリアという女性の周りでは、苦労が絶えない。


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