第二十三話 演奏会の出前

 スミレ達の為に、シェリアは長い休みをとり。大掛かりな魔導具を作っていた。魔石か、指で触れて魔力を充填するとハンドルが一定速度で回転。羊皮紙か普通の紙をセットし、それには穴が開けられていて。穴の部分に爪が出ていて爪を押すと音が鳴る。


 仕組みの関係上曲は、三分までの曲しかセットできない。代わりに紙と穴という制限が許しさえすれば百四十色以上の音色を出し。様々な曲に対応する。紙がセットされる場所と、紙が回収される籠以外の大半を閉めている煙突の様な物体が歪に密集し、リアカーの車輪が取り付けられているという。一見するとさっぱり判らないものだった。


 しかし、リアンナとスミレはこれから出る音を聴いて。滂沱の涙を流して拍手喝采。


 スミレに対して「これが先日言ってた、お礼の魔導具なんだけど喜んでもらえるかな」と顔を赤らめてる主人に対して、何度も何度も力強く頷いた。


「これを喜ばないアリは、私の群れにはいりません」と真顔で返事をする程度には気に入ってしまっていた。早速、紙をすいて作るアリ、乾燥担当のアリなどに分かれ。これに、演奏させる音楽を制作。


 もちろん、シェリアが最初につけてくれた曲の紙は大切に保管され。穴が同じレプリカを宴会の始まりに演奏する事が勝手に決まった。


 ちなみに、これは二台作られていて。もう一台は、冒険者ギルドの横で客寄せに使おうと考えていた。


「店長、私こんな魔導具見た事がないんですけど」



「仕組み的にはカラクリ式のオーケストラよ。中を見れば木琴や太鼓、管楽器やピアノ線やカリンバとかが入ってるでしょ」



 言われてリアンナが眼を凝らすと、確かに駆動するだけの隙間を空け。音が響く状態で様々なミニチュアの楽器が入っているのが判る。琴やハープ等の弦楽器は、煙突の様な部分が音の増幅機になって小さな本体でも美しい音色を実現。それだけではなく、樹で作られた精巧な人形がその舞台の上で踊る様なギミックや、曲の始まりと終わりにカーテンの切れ端から作ったであろう幕が上がり下がりする。


 正直、脱帽だ。しかも、これはリアカーに全て搭載されている移動式。これで客寄せをすれば、冬の寒空の下でも。屋台は大繁盛だろう。


「これで客寄せして、売るのはおでんとかですか?」


 リアンナが尋ねると、シェリアは新メニューをご用意しました。とかドヤ顔で胸を逸らしているのですごく嫌な予感がした。


「じゃじゃーん⭐︎」シェリアが両手をひらひらさせながら。一つの寸胴を示し、リアンナが覗き込むと。そこに入っていたのはただのシチューだった。肉は無く、ミルクと野菜で仕上げられたそれは、一見すると問題ないように思えるが。頭の中で警告がガンガン鳴っているので。取り敢えず、味見用の小皿に少しのせ。人参を一欠片乗せた。



 そして、味見をして吠える。




「なんじゃこりゃぁ!!」乙女に有るまじき奇声をあげ、眼を凝らして。じっと見るもただのシチューだ。でも味が全然違う。



「凄いでしょ」シェリアはまだドヤ顔をしているが、リアンナは正直殴りたくて仕方がない。こんなものを売れば、たちまち売り切れて、突き上げをくらう。



「店長……、これはダメです」



 え? 何でといった表情になり。リアンナの方をみた。「何を入れたか聞いても?」「溶ける、ケロスのチーズと。廃棄予定のレッドボアの脂身をすりおろしたモノを麻袋に入れて、染み出した旨味だけを利用した……」



 そこで、頭をスパコーンと叩く。「そういう、脂を感じられるモノを入れちゃダメなんですって」「おいしいよ?」「おいしすぎるから問題だっつってんのよ。また、問題になりますよ」



 口を尖らせているが、毎回毎回それで仕事が増えてスローライフ(偽)になってんでしょうが。雑貨屋(笑)も追加してやろうかこのアホ店長。いつも、いつも美味しいものとか作るからいつまで経っても雑貨が売れないんでしょう。



「ちなみに、この音楽を奏でる魔導具ですが。名前をリモネッタと名付けました」



 リアンナもスミレもリモネッタについては素直に素晴らしい逸品だと認める。今まで録音再生やオルゴールなどはこの世界にも存在していた。ただ、それは一品に一曲ないし。十曲といったように決められた曲が入っているだけのもの。これは穴の空いた紙さえ用意できれば、事実上無限に再生する曲を用意できる。それだけではない。


 この手のものは再生媒体がダメになってしまったり、使い物にならなくなったり、販売されなくなったりしたら再生不能になってしまうが、これの再生媒体が紙というのが秀逸。紙がこの世から消える等は早々ないし、分厚い紙でも多少悪い紙でも問題なく再生できるように爪が金属になっていて押さえさえはまっていれば送り込みで詰まることもない。穴が空いてればいいので、コピーも楽。


 模造品は作れるだろうが、本物はまず目の前のアホ店長にしか作れないだろうという確信がリアンナにはあった。というのも、このリモネッタとかいう魔導具で一番驚いた点がそこでボタンが認証式になっていて、魔力の波長が合わないと再生ボタンが押せない様になっている。


 魔力は親族なら近いので、起動できるが。個人によって違うので、他人はまず起動できない。そして、起動出来なければ車輪が動かないようになっている。


 スミレやクラウの様な筋力をしているのならば、車輪など使わなくて持ち運べるが。アイテムボックスも車輪も無しで動かすのはかなり難しいほどデカくて重量がある為、少なくとも自分では逆立ちしたって動かせそうにない。



 これを一週間で二台、店を休んでいたとはいえ作りきってしまったのだから。



 更に、この数日後。スミレから、シェリアに「アリ達が作曲したので、感想を下さい」と紙束を持ってこられ、試しに聴いてみるとどれも素晴らしい曲だった。シェリアは、作曲者の名前をARIとスタート部分の穴が空いていないところに書いて。更に曲の印象や感想などを書き込んでスミレに返却した。そして、レプリカが欲しいとスミレに伝えると。次の日にはシェリアの手元にレプリカが届いた。「これって、屋台で流していい?」とシェリアが尋ねると「お嬢様の屋台を盛り上げるというならば、アリ達も喜ぶでしょう」


 実際は喜ぶどころか、狂気乱舞し。特に、シェリアから感想が貰えたアリなどは本体を大切に保管し。同じ事を書いたメモ書きを抱きしめて寝ている。


 それに、嫉妬した他のアリ達は名曲を作るべく。切磋琢磨を始めてしまっていた。



 実際、リアンナも聴いてみたが。街の劇場で演奏を聴くよりもアリ達の作曲の方がはるかに質がいい事に戦慄を覚えた。それもその筈で、楽器というものはこの世界では基本フルオーダーで職人が作るもの。値段も高く、プロでも一品を買ったらそれを一生どころか後継者に引き継いでいくほどのもの。つまりは、一つの魔導具でそんな複雑で様々な楽器の音が出せるものなど存在しなかった。


 それを、人間などより遥かに音に関して優れたアリが使って作曲しているのだから。



 スミレも、リモネッタの音色にすっかり魅せられ。もっと長い曲を演奏できればと、頭を悩ませている。アリ達はアリ達で、今まで焚き火を囲んで宴会をしていたのだが。リモネッタの置いてある場所から少し離れて柵を設け、柵の外側で自分達が作った曲やシェリアが最初にくれた曲のレプリカを眼を閉じて聴いたり、踊ったりしている。


 その手にもっているのが、先日滅ぼしたモンスター達の残骸でなければ。きっと楽しいパーティーにも見えただろう。



 おいしいものを作り、偶に狩りをし。毎日が華やかになる。



 ただ、問題があるとすれば。このリモネッタは、量産には全く向いていない。楽器というのはそれ一つを作り上げるのも相当なノウハウが必要だからこそ、一人で幾つもの楽器と魔導具のノウハウを持っているシェリアでなければ到底作りようがなく。しかも、シェリアは既に回復飴やら弁当やら。復興支援屋台やらといった仕事を抱え、日頃世話になっている取引先の専業農家に報いたいという事で関係各所に頭をさげてこれを作った。



 仮に複数のものが力を合わせてこれを作ったとすると、魔導具としては機能するかもしれないが。この様な大型のカラクリ楽器は振動に弱い事も多く、絶妙なサスペンション機構搭載で毎日店と臨時屋台を往復できるような代物にはならない。


 実際、作曲家ARIの名はこの街に広まりつつある。ペンネームのようなモノだと思われているが、まさか本当にアリが曲を作っているなど街の人間は夢にも思わないだろう。



 リモネッタの音色や踊る人形は、特に街の子供にはすごく人気だ。仕組み上音は変えられるが、人形の動作は常に同じ。



 この人本当に、職人や料理人をやってた方がいいんじゃないのかと思うぐらいには商売がド下手だ。良いものを考えて、良いものを出せばいいと思っている辺り。


「とにかく、焼きトウモロコシや甘酒みたいな当たり障りの無いものにして下さいね」


「ふぁい」


 冒険者ギルド横の屋台群は寒いが、人を集めるという目論見は魔導具の成功もあり。後は、店側だけでも温かくならないかと考える。やってみれば判るが、客は歩くし。寒ければ帰れるが、店側は吹きさらしの中を待つ為に、店側のが寒いのだ。



 売り物に手をつけるわけにもいかず、目の前に温かいものがあるのに寒空の中をずっと耐えて待たなければならない。



 自分が作る魔導具は、基本的にシェリア以外の人間が構造上作れない事もあり。だからこそ、誰でも作れるもので何とかできないかとずっと考えていた。


 考えているだけで、答えは出ていないが。



※作者からの元ネタメモ


リモネッタの元ネタは手回しオルガンをリアカーサイズに圧縮して合体させサイドに太鼓など別楽器をとりつけて連動で動くようにして、移動もできる様にしたものです。曲調を早くしても問題の無いものに作中ではなっています。興味がある人は検索してみてね。


 

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