シェリアの雑貨屋さん

めいき~

プロローグ ルプテンブルグの小さなお店

 ここは、アンテスタン王国。衛星都市ルプテンブルグ。中継都市であり、様々な人と物が行き交う活気のある都市だ。その中にあって、西門を少し行った場所にその雑貨屋はあった。


「シェリア、おっはよ~」元気良く現れたのは、常連のミスカ。腰の両サイドに短剣を装備した。所謂冒険者という奴で、ミスカは戦闘はそこそこできるが料理が全くできないのでシェリアの店に朝一できて弁当を買っていくのが日課になっているのである。


「も〜、ミスカ来るの早くない? はい、日替わり弁当三つで良かったわよね?」とシェリアが尋ねるとミスカが満面の笑みを浮かべて頷いて、銅貨を机の上にある木の皿に並べて置いた。


「これで、今日も頑張れる」拳を握りしめてそんな事をいう、うきうきのミスカに軽くため息をつくと。「後、これはオマケよ」とミスカに小さなケースに入ったものを手渡した。「何よこれ、魔石?」「そんな高価もの、弁当のおまけにつけられる訳ないじゃない。飴よ飴、回復効果付きだからお試しも兼ねてね」とシェリアがウィンクする。「ありがとう、どうだったかはちゃんと言うわね」と店を出て行った。


 十四歳の頃からシェリアはこの店をやっていて。何処にでもある、小さな雑貨店。豪勢には暮らせないけど、飢える程じゃない。ミスカの様な冒険者は死と隣り合わせで、毎日こうして顔を合わせていても。突然、居なくなる。


 同い年のミスカは、今年で二十歳になる。商売がら、錬金術ギルドにも料理ギルドにも商業ギルドにも製菓ギルドにも登録はしているが、扱っている商品は多岐にわたっているだけで、他の雑貨屋と大差はない。だからこそ、今回この『砂糖を使わず、付加効果のある飴』を作ったのだから。とは言っても、初級の自分につけられる効果などたかがしれている。それでも、この飴にシェリアの今後がかかっているのだ。


「頼むわよ……」


 両手を合わせて、祈っていると。店の入り口につけていたベルがからんと鳴った。「シェリアちゃん、ポーションあるかい?」「ノックスさん、いらっしゃい。低、中品質、毒、麻痺、スタミナなら在庫がありますよ♪」ノックスは首からかけた布で頭と額を乱暴に拭くと「ふぃ〜、助かるぜ。中品質五本とスタミナを三本もらえるかい。あぁ、後は火打石もだ」ノックスは、店内の丸椅子に座るとお金を置いてからちょいと休ませてくれと言って息を整える。シェリアは、ポーションをクッション付きの木箱に丁寧に入れると蓋を開けた状態でノックスの目の前にもっていき中身を確認してもらう。そして、確認後に蓋をしっかりと閉じた。


「いや〜、ここが最後の希望だったからなぁ。ポーションを扱ってて信用出来るとこなんてそう何件もある訳じゃねぇし、消耗品な割に在庫は少ないのにいるときゃいるからな!」ガハハと笑うノックスに、内心呆れた表情をしながらも表面上は営業スマイル。


(ポーションは基本錬金術師に依頼して作ってもらうものよ!)


 という心の叫びは、寝坊した時の押し入れに布団を突っ込むように押し込んだ。シェリアは利益が少ない割に原価がクソ高い。しかし、需要があるので店に足を運んでもらうためには置かざる得ない品物のうちの一つ。


(これ自作でも、利益がスレスレなのよね。中以上なら利益の美味しい商品だけど私は中でも一割届かない位でしか作れないし)


 低品質なんて、駆け出しの冒険者しか買わないのよね……。なのに在庫は山程ある。だから、もう飴に混ぜてしまおうという事で回復の飴が爆誕したのだった。


 隠し事多め、のシェリアのスローライフにはまだまだ遠い……。


※明日から毎話を予定しています。m(__)m

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