ゴッドノイズ

@midoru_3

第1話 生きるため、殺すため

 人とは醜い生き物だ。不都合を隠し、争い、死ぬ。運命とは残酷だ。平和な日々は永遠じゃない。争いが始まったのならば全て崩壊する。生きるため殺し合い、自分が何をやっているのかも分からなくて、気づけば世界は屍だらけ。終わりを迎えていた。


 僕もその1人だろう。自分も「生きたい」そんな理由で人を殺した。それを繰り返していた。気づけば僕は世界の破滅を目の当たりにしていた。僕の足下の屍が話かけてきた。


 「いったいお前はなんのために争う……?私はただこの世界を平和へと……」


 僕の足を掴んでいた手がそっと離れた。指先が僕の足に触れていた。その指は少しずつ冷たくなっていくのを感じた。僕はあの言葉が脳に焼きついた。なんのため?平和?そんなこと考えていなかった。ただ、生きたかった。いや、死にたくなかった。僕は愚かな人間なんだろうか。恐らく僕以外に人間はいないだろう。この荒廃した地で孤独に生きる。そこになんの意味があるのだろうか。気づけば僕の目から涙が溢れた。ただ今は、謝りたかった。全ての人たちへ。平和を望み、明日が来ることを願った人たちへ。


 僕はいつの間にか膝から崩れ落ちていたのだ。疲れたのか。そうだ。疲れたんだ。このまま休もう。僕の意識が失われかけた時、後ろから気配がした。おかしい。だって、もう俺しか人はいないはずだ。恐る恐る僕は振り向いた。


 「こんにちは。シン」


 僕の全身に電流が走った気がした。なぜなら、俺以外に人間はいないはずなんだ。

そして何より、俺は全く知らない人なのに俺の名前を知っていることだ。


 「誰なんだ?お前……」


 その言葉を聞いて彼は少し考えたあと、ニヤリと笑った。


 「俺はヘヴン。端的に言うと、この世界を終わらした神だ」


 フラッシュバックした。あの言葉が。僕は彼を睨んだ。


 「どういうことだ……!」


 彼は「フフフ……」と不敵な笑みを浮かべ答えた。

 

「簡単なことだよ。君のために沢山の犠牲を払った。それだけ」


 僕は、咄嗟に重ねてしまっていた。こいつと僕を。自分のことのために多くの命を奪った者同士。だが、なんだろう。この込み上げてくるものは。こいつに対しての感情。あぁ。分かった。僕はこいつに嫌悪感を抱いているんだ。


 動かなかったはずの身体が動いた。元気が戻ったとかそういうんじゃない。こいつを殺さないといけないと本能が叫んでいたのだ。僕は、近くにあった剣で思いっきり斬りかかった。しかし、止められた。しかも片手一本で。


「まだその程度か……。想定より遅い。がっかりだよ」


 一言一言に虫唾が走る。握った剣を強く握りしめた。死んだみんなの想いを込めて。


「うおおおおおおぉぉぉ!」


 あの世に届くぐらいの雄叫び。この一撃でやつを殺す。はずだった。「パリン」その音と共に異様な光景を見た。手で剣を折った……?勢い余ってヘヴンに倒れかけた。その間に首を掴まれた。


「誰かのためだとか、誰かの想いを背負ってだとか、そんな甘い動機で神を殺せると思うなよ?もっと殺意を込めろ。あいつだけは確実に殺す。死んでも殺す。全てを賭けて殺す。そのぐらいじゃないと、通る刃も通らねえよ!」


 更に強く握られ、地面に叩きつけられた。全身に電流が走るかの如く、身体が痛いと叫ぶような痛み。もう動くことも精一杯なのに。地面に背を向けた。見れば薄暗い空がある。僕はヘヴンの言葉を思い出した。ああ。俺だって痛いよ。俺だって辛いよ。俺だって死にたくないよ。みんな考えることは同じなんだ。もう、死んでいった人々とかどうでもいいや。でないと死んでしまいそうだ。やつを殺せなくなさそうだ。僕は思いっきり拳に力を入れた。


「その目、薄っぺらい正義は捨てたな?」


「あぁ。クソが」


 僕はなんとか立ち上がり、深く呼吸をした。一撃でやつを殺すぐらい。いいや、殺す。大きく振りかぶった。僕の右腕はそのままヘヴン頬に吸い込まれるかのように、僕は一撃を入れた。強烈な僕の拳にヘヴンは吹っ飛ばされた。


「遂に目覚めたか……。マナの力に……!」


 刀をも素手で折る身体なのに、なぜ俺のパンチは効いたのか。答えは恐らくそのマナという存在にあるのだろう。だがもうどうでも良かった。僕は落ちている剣を再び持って立ち向かった。一直線に縦に一刀両断を試みた。


「少しばかり力を解放するか……」


 ヘヴンが言っている隙に剣はヘヴンの頭蓋骨へ向かった。


「拾式・盾完」


 振り下ろした刀は、ヘヴンの目の前で弾かれた。恐らく見えない壁が生まれたとかの現象だろう。僕は流れに身を任せ距離を置き構えた。できないならば、何度でもやればいい。すると、ヘヴンはほんの少し口角を上げた。


「今から君を殺す。普通なら死ぬだろう。だから、普通になるな。異質なまでに思うんだ。俺を殺すとね」


 彼の周りには砂埃が起き始めた。風圧とかだけじゃない。感じ取れるオーラが尋常じゃない。こんなのを相手にしたら確実に死ぬと本能的にわかるくらい。落ち着け。呼吸を整えろ。そして、やつを殺せ。右足を一歩前に置き踏ん張る。この一撃を受け止めて反撃をする。すると、途端に空気が静まり返った。その一瞬だけで死がよぎった。


「拾式・螺旋光」


 螺旋をなぞりながら爆発的なエネルギーがこちらへと向かってくる。急に足が震えて動けなくなった。これはまずい……。


「死ぬ……!」


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