名前のない言葉たち

二見風理

「辛い」

「辛い」


どこにいても、いつでも、だれでも言ってしまうこの言葉。

まるで魔法のようにそれは世界の色を消す。

終わらない仕事、他人との埋まることのない格差、鳴りやまぬ怒号や罵声、様々な「辛い」がこの世にはあふれる。

けれど、皆はさもそんなものはないかのように日々を過ごす。


自分だけか?

自分が愚かで醜いからか?

自分が他人よりも劣っているからか?

自分が周囲に関わるからか?

どうしていつもこうなんだ?


抜け出そうにも抜け出せない、そんな悪循環がすぐそばにあるのに、どうして?

考え続けても辛いことに変わりはない。希望も夢もそこにはない。

あるのは果てしなく続く「辛い」という感情に飲まれた色のない世界。

もはや世界ごと壊れてしまえばいいのにとも思えてしまう。


ある人は言うだろう。

「楽しいことがあるから、辛いことが存在する。だから今は耐えよう。」


そんな話が本当ならば、どれだけいいだろう

辛いと感じるとき、何をしていようともそれ以外を感じられない。

そんな絵空事を信じられるほど、自分を信じて期待するほど、心はうまくできていない。

何も変えられない自分を置いていくように変わっていく周囲、笑い声すら聞こえるほどに自分が自分を嫌い、信じられず、呪いながらただただ深い闇へと堕ちていく。


「辛い」


そうしてまた自分の心が闇に飲まれて壊れていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る