夕焼け

 クレーンゲームで乱獲してきた「森のくまちゃん」マスコットのマグカップと少年漫画のフィギュアは、中古屋での闇取引によってはした金に変身した。


「思ったより高くついたな。ホクホクしてるわ、ふところが」


「本当に、いけないんだ」


「うるせー。買い取るほうが悪いんだよ、こういうのは」


「その理屈、さっきも聞いたけどちゃんちゃらおかしいんだからね。わかってる?」


「知らねえよ。こんな世の中、真面目に生きてるほうがバカらしいさ」


「真面目に生きてる人に失礼だよ、そんなこと言ったら」


「じゃあ志帆、お前も大概バカだよな」


「…うざっ。絶交するよ」


「…ごめんじゃん」




 君の言うことも、間違ってはいないと思う。真面目な人間は、正直者は、いつだってばかを見るのだ。


 そのわけは簡単で、人間というのは群れの中の大多数が易きに流れる生き物で、それが習性として、何万年とかたく受け継がれてきたから。


 ばか正直な人や品行方正な人は、集団のなかであるべき姿としておだてられるのと並行して、不真面目な人がやらない損な役回りを押し付けられる。


 いじめられっ子を庇って、新しい標的にされたわたしもそのひとり。


 そうだよね。ばかだよね、わたし。


 頭の中で反省と後悔と、しかしもうどうにもならないという諦めを混ぜ合わせながらかび臭い中古屋を出ると、まだ蒸し暑さの残る秋の空は夕暮れの橙色と、夜の気配を微かに帯びた紫色に輝いていた。


 車がひっきりなしに行き交う県道の向こうは崖になっていて、少し低くなったところに送電線の鉄塔が刺さり、遥か彼方の大都会へと向かって、鉄塔は無限の行列を成して陽の光に輝いている。寝ぐらへと向かうカラスの群れが飛び去ると、そこに一番星が煌めいているのがはっきりと見える。


 いつも閑散としている大きな駐車場を抜けながら、わたしは思わず息を呑んでしまう。


「うわ、きれい」


「綺麗だな」


「この前はさ、夕立が来ちゃって見れなかったもんね、夕焼け」


「見たかったなあ、夕焼け」


「今見れたんだからいいじゃん」


「地元で夕焼け見たって、嬉しくねえよ」


「いいじゃん、地元だって。そりゃ海のほうがきれいかもしれないけどさ、でも、見慣れた町の見慣れた景色のなかに、宝物をみつけるのも悪くないじゃん」


「…うーん」


 君は頭を掻きながら、言う。


「まあ、お前と一緒にこうやって、過ごせるんだったら、なんでもいいんだけどな」




 心も身体も熱く湿って、今にも茹で上がってしまいそうなのは、残暑のせいだろうか。


「…ばか」


「あ?今なんか言ったか」


「何も言ってないよ。さ、帰ろ。もう夜になっちゃうから」

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