第六話 [燃える鬼]~白焉修道院篇~

 深紅の炎が燃え盛る修道院の中へ入って行った龍惺りゅうせいを眺め、頭から血を垂らし、門の前で氷室ひむろ先生と座り込む大焚おおたき先生は、

 『 気付くのが遅かった』

 と後悔していた。しかし、先程まで鬼と闘っていた大焚先生は、朦朧もうろうとしていた意識が途絶えたのだった。それに気が付いた氷室先生は、大焚先生を木陰に隠し、氷系統の輪術で、消火を再開したのだった。

 一方、修道院内部では大人達が龍惺の存在に気が付き驚いた。それを見た龍惺は真剣な顔で

 「俺も闘う」

 と、子供ながらに啖呵をきったのだ。大人達にとっては龍惺がどうなろうと正直どうでも良かったので無視しようとした。だが、大焚先生の知り合いなのだろう。

 『もしここでこの子を死なせては一茶いっさに何言われるか…』

 大人達一同はそう思って、龍惺を守りつつの戦闘を開始した。

 目の前にいるのは二メートル程の、大柄の人間程度の大きさの鬼がいた。なつめのような赤い肌に、髪全体が炎のように燃え盛っている。その鬼が、こちらに気付き話しかけてきたのだ。

 「なんやお前ら、ワシに喧嘩売るんか?ええやろ、掛かって来い。ワシは鬼の中でも輪術りんじゅつに長けた種。「紅鬼こうき」やぞ。」

「紅鬼族か、面倒な相手だな。」

 一人の大人がそう呟いた。それに、その場にいた大人達も頷く様な素振りを見せた。だが、皆集中しているのだろう。首を振ることもなければ、返事をすることもなかった。

「先手必勝!!」

 先程呟いた大人は、言動通り面倒臭がりなのだろうか。早々に勝負を着けようとし、技を繰り出した。

 〈電荷飛電でんかひでん〉!!

 すると、技を出した彼の指から紅鬼の鬼に向かって、紫色にギラつく電気がバチバチと音を立てて飛んで行った。その技を見て、もう一人の大人がコンビネーションバッチリのタイミングで

 〈水泡爆すいほうばく

 別の技を繰り出したのだ。

 途端に、紅鬼の鬼の頭上に水の泡が出現し、爆ぜた。泡の中に溜まっていた水だろう。一瞬で紅鬼の鬼はびしょびしょになった。そこで、電気系の輪術を使う大人が再び技を出した。

 〈雷放らいほう

 すると、先程の飛んで行った電気を、相手に気付かれないように帯電させていたのだろう。一気に放電したのだ。水系の輪術でびしょ濡れだった紅鬼は通常より尚更感電した。

 紅鬼の鬼は煙を上げながらも耐えていた。

「お前らなかなかにあるなぁ。おもろいやんけ。でもそれだけじゃあワシの首は取れんぞ。ほなワシの番と行こか!」

 〈紅炎髪乱こうえんはつらん〉!

 すると、燃え盛っていた髪の毛が伸び何本かの束になり、辺り一帯を縦横無尽に暴れだしたのだ。しかも、その髪は燃えている。触れるものを切り刻みながら燃やしていく。

「なんて乱暴な技なんだよ…!俺たちの修道院をめちゃくちゃにしやがって」

 龍惺は怒りで目の前が真っ赤になった。

「いい加減にしろ!クソ野郎がぁぁ!!殺してやるー!!」

 龍惺は紅鬼の鬼に向かって走り出した。

「これが俺の初めての技だ!くらいやがれクソ野郎がぁぁ!!」

 〈飛千蠱ひせんこ〉!

 なんと、無数の小さな蛇の式神が龍惺の足元から湧いてきたのだ。

 立て続けに、龍惺が、紅鬼の鬼に負けないほどの鬼の形相で叫んだ。

 〈紫閻海しえんかい〉!!

 すると、飛千蠱で出現し、龍惺の操作で紅鬼の鬼の周りに浮いていた大量の小蛇達の口から、毒液が噴射されたのだ。途端に辺りは毒液の海となり、大人達は後退りをせざるを得なかった。

 その技を見て大人達は全員思った。

 『子供でこれって最強かよ…』

 しかし、そんなことを考えてる暇はない。相手は鬼。仕留めたかを確認し、トドメを指すのが輪術師の勤め。

 毒液は案外早く蒸発した。しかし、この場の空気が悪くなってるかもしれないともう一人の大人が

 〈浄化じょうか

 と、唱え空気は確実に澄んだ。そして、大人達は鬼がいた場所に近づく。

 だがそこには、ベテラン輪術師の彼たちも目を背くほどの悲惨な事態になっていたのだった。

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