第二話 [輪の解放]~白焉修道院篇~


 ベッドが溶けた日の夜、龍惺りゅうせいは一人眠れずにいた。

 「昼間に手から出た蛇はなんだったんだ?あの謎の液体はなんなんだ?ベッド溶かしやがって…」

 そう考えているうちに、気付けば朝になっていた。

 「今日は修行日じゃない、早く修行をして蛇と謎の液体の正体を突き止めたい。」

 そう思っていると、大焚おおたき先生に呼び止められた。

 「龍惺さん。あのベットはなんなんだい?穴が空いていたけど。」

 いつも敬語で、優しい大焚先生が、少し、怒気のこもった声で問いかけた。龍惺は、まだ十歳で、このような雰囲気をまとった大焚先生は初めてだった。龍惺は恐る恐る応えた。

 「先生…ごめんなさい、昨日の夜、お昼の修行の時間に手から出た蛇が気になって…煌橙こうだい珀爾はくじと一緒にりんを発動させてしまって…そしたら、手から変な紫色のドロっとした液体が出て、ベッドを溶かしたんです……」

 ちゃんと理由を聞くと、大焚先生の表情は和らいだ。「そういう事でしたか、理解しました。しかし、今後は修行日以外の時に、輪を勝手に発動しないように!何が起こるか分からないので。わかりましたね?」

 龍惺は、大焚先生の言うことを真剣に聞き元気よく返事をした。

 今日は修行の日だ。龍惺はワクワクだ。珀爾と煌橙も、今日こそはと言う気持ちで修行に臨んだ。しかし、龍惺の手からは蛇も、謎の液体も出てこず、その日の修行での成果は何もなく終わった。

 あれから、一ヶ月程たった頃。これまでの修行では何も成果はなく、みんなのやる気もなくなっていた。そこで、今日も修行の日だ。みんな、大焚先生から教えてもらったイメージで、挑戦してみた。すると、珀爾の手からひんやりとした白い煙のようなものが上がった。立て続けに、煌橙の手からも、眩い光が照った。それに負けじと、龍惺も手を差し出すと、ようやく、龍惺の手からも、小さな蛇が出てきた。みんなは相当喜び、大焚先生からもとても褒めてもらった。それからは、みんな気合いが入り、毎度の修行では、輪の放出は当たり前になり、輪術を扱えるようになってきた。

 それから一年。みんなも、輪を発動できるようになった頃、大焚先生が、

 「もうそろそろ、輪術を確定して、技なども創っていきたいですね。」

 と、修行中に言った。

 「皆さん、今から皆さんの実力を測ります。輪術を本気で放出してください。まずは、龍惺さんから、お願いします。」

 龍惺は、返事をして、手を掲げた。すると、てのひらから、七十センチメートル程の白い蛇がシュルシュルっと飛び出し、口から毒液を吐いた。その毒液は、修行用の木製人形を、煙を立たせながら溶かした。あの日の晩、ベッドを溶かした謎の液体は、蛇の毒液だったのだ。龍惺は、蛇の毒液を蛇からだけでなく、自身から放出することもできるのだろう。大焚先生は、

 「なるほどぉ……」

 と呟きながら、記録した。

 「すみません、もう日が暮れてきたので、今日の修行は終わりにします。私がこの話を切り出したのが遅かったですね、煌橙さんは明日お願いします。特別に明日は修行日にします。いいですか?」

 大焚先生は、申し訳なさそうに聞いた。二人ははしょうがないと言わんばかりな表情で返事をした。

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