第5話 信号虫ロボット
てんとう虫を少し長くしたくらいの大きさ、楕円形で、ネオングリーン色の体の上に赤、黄、青の信号のような、ドーム型のボタンがついた小さな機体が飛んでいる。それは通称、信号虫とよばれているが、彼らは小型の精密な機械である。
元はシェアサイクルやレンタルサイクルの自転車の管理として開発され、今は「まごころ自転車」のような自動運転ができる自転車のハンドル部と合体し、自転車の自動運転を補助している。
見た目のとおり、道路上の信号機と連動し、止まるべきところで止まってくれる。
操作も簡単で、この丸いドーム型のボタンはトンボの眼を参考に改良されたもので、様々な機能を搭載している。
黄色いボタンを押して指紋認証、顔認証、声の認証など、いくつかの認証から選択できる。
青いボタンで行き先を告げ、セットする。セット完了すれば、赤、黄、青のボタンがキラキラと順番に光り、誘導してくれる。
赤いボタンは緊急事態に光って警告として使わられり、リセットボタンとしての機能が備えられている。
個別の学習機能は搭載しておらず、自転車運転中の急な体調不良などに対応するよう備えはされている。そのせいか、利用者の感情に過剰に反応してしまう。稀に何度か利用している人のルートだと、自宅に真っ直ぐ帰らずコンビニに寄ったり、行きつけのカフェに寄ったりしてしまうとの報告がある。
どうやら利用者の「疲れた」「休みたい」の感情に大きく反応しているようだ。幸いにも利用者からは休めて良かったと言ってもらえることが多く、大きなクレームにはなっていないが、信号虫が一部「野生化」している影響があるのかもしれない。
以前は自転車と信号虫の数が一致していたが、修理や廃棄になった自転車があり、帰る場所がなくなってしまった信号虫が増えてきてしまった。
今となっては灯京の都市部を漂う虫になっている。ふわふわと風に乗って飛んでは止まり、飛んでは止まりを繰り返している。飲食店のテラス席でも、信号虫が飛んできても気に留める人は少ない。
彼らは太陽光で動いており、飛翔にもそんなにエネルギーを消費しない。夜でも飛べるため、その独特のネオングリーンカラーとドーム型ボタンが照らされ、蛍とはまた違った、微かに光る虫を演出している。
灯京の夜空には蛍より信号虫の光の方が多くなった。住民は気に留めないが、彼らはずっと帰る場所を探し続けているのかもしれない。
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