〔Side:Shino〕-1. つきおか しの
小学生の頃に勢いよく伸びた身長。スポーツも勉強もそれなりにできて、ピアノ教室に通っていたお陰で色んなスコアを弾けた。
保健委員で高学年にあがる頃には、擦り傷や打ち身などの軽い手当ならウチにもできるようになっていた。
男女問わず友達も多くて、ピアノ教室のない曜日には予約がいっぱいだった。
そんなウチが中学にあがると、周りでは男女別々のグループと派閥ができるようになり、男女混合で過ごすのはカースト上位とカップルくらいなものだった。
ウチはカースト上位にいたけど、その頃は全く意識したことはなかった。
ウチはそのころ色恋には興味がなく、女子だけのグループのそういう話題にはついていけなかった。
同じグループ内では、ウチが恋愛に興味無い事は割れていて、そういう話題もそれほど振られることなく、男子のFPSの話を聞いたり、女子の話題の映画やアイドルグループ、ストリーマーの話を聞いたりで、色んな話題に聞き手として付き合うことが多かった。
そこそこ順調だったのはその辺までだった。
中学1年半ば、音楽の授業でピアノが弾けるということで、合唱コンクールの伴奏を担当することになった。
一人で昼休みに音楽室へ行きピアノを練習していたら、他のクラスや別の学年の女子たちの間で噂になったらしい。
その頃から割と頻繁に、体育館裏に呼び出されたり、音楽室に押しかけられたりして、女子から告白?を受けることが急増した。
その全てを何とか傷つけないように断っていたら、同じグループ内でもその話が伝説のような扱いをされるようになってしまった。
男子たちには校内一の女子キラーなどと不名誉なアダ名まで付けられて茶化された。
中1の秋、合唱コンクールが終わり、夏休み明けから付き合い出したカップルたちが別れ、寒くなり始めたことでまた徐々に男女のペアが増えていた。
そういう噂が多くなり、その時期に友達からすすめられた少女漫画の読めるサイトでいくつか読んだ影響もあって、やっとウチも色恋というのは良いものと思い始めていた。
またも体育館裏に呼び出された。
しかし今度の相手は男子だった。
しかも、ウチのグループの女子の間でも、ウチと並ぶ女子モテ具合だと言われていた学年首位の生徒会書記の人だった。
ウチとその男子のことは監視か何かをされているかのようで、体育館裏が見える窓や体育館の影には沢山の人だかりがあった。
初めての男子からの告白と、ギャラリーの雰囲気に飲まれて、ウチは相手のこともよく知らずにその告白に、はい、と頷いた。そしてそこからがウチの地獄は始まった。
そもそもウチは男女で付き合うのがどういうことなのか理解していなかったことに加え、相手の男子とはとことん相性が悪く話が噛み合わなかった。
私にとっての初交際は1週間にも満たなく終わってしまった。ほとんどなんの思い出にもならない交際だった。
ウチは元のグループに戻るだけと思っていたら、そのグループには相手の男子を好きだった女子がいて、もうウチと同じグループは嫌と言われてしまった。
グループのみんなも、ウチがグループよりもその男子を取ったという認識だったのか、ウチは戻る場所を失ってしまった。
その男子と付き合ったことは学校中に知られていたし、その男子と別れた後に相手の男子がウチのことをボロボロに批判していたことも知られたようで、校内でウチは呪物扱い……つまり、誰からも相手にされることがなくなった。
女子たちを散々振った後に男子と付き合ったのも良くなかったのかもしれないと、かなり後になって気がつくことになった。
誰とも話すこともなく、授業だけ受けて帰る。帰ると趣味のピアノに没頭する。
ピアノを弾くのには体力がいるので、朝のランニングの日課も欠かせなかった。
そうして誰とも交友を結ぶことなく、もちろん色恋もなく、中学生活は終わることになった。
相手の男子 矢野くんは2年で生徒会長になり、卒業式の日も壇上から卒業生代表のスピーチをしていた。
高校に入って、矢野くんはもっと上のランクの高校に行ったけど、ウチの入った高校は同じ中学からの進学が多く、ウチの状況はさほど変わらなかった。
たまに見ず知らずの人に嫌そうな顔をされることもあったから、ウチのことを嫌う噂かなにかが流れていたのかもしれない。
ショートの撮影が流行ってクラスの女子たちがくねくねしたダンスを撮影していたけれど、ウチはその動画の音源の方に興味があった。
けれど、音楽の話題をする相手もいなくて、そんなだから部活も馴染める気がしなくて、帰るとひたすらピアノを弾いた。
その頃からウチはジャズに興味を持ち始め、お小遣いやお年玉は衣服やコスメよりもスコアを買うのに使った。
ピアノが弾けない登下校中や休み時間はもっぱら音楽配信サービスでジャズアレンジの楽曲を聞いて過ごした。
ウチにはそれしかなかったし、目を瞑って音楽をきいていれば誰の声も聞かず、顔もダンスも見なくていい。
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