〔Side:Shino〕16. 女子会


 リオ先輩が敗北を認めるのは数秒後だった。

 それでも笹原さんは容赦なく続行を宣言し、数分が経った。

 レギュラーメニューを終え、フードメニューの読み上げに入ったところ、笹原さんの気が晴れたようで、リオ先輩は開放された。


 荒い息をしてぐったりするリオ先輩と、舌なめずりをしてしたり顔の笹原さんがそこにいた。


「リオ先輩……お水、飲みます?」


「月岡さん、それ貸して」


 笹原さんにウチの手からリオ先輩のチェイサー用の水をスっと持っていかれた。

 笹原さんは水を口に含むと、リオ先輩に口移しをしはじめた。


 こぼすことなく飲ませる手際の良さに驚いていると、リオ先輩が起き上がった。


「紫乃……助けてよ」


 すねたように唇を尖らせるリオ先輩は、少し幼く見えた。


「アハハ……すみません」


 苦笑いで謝るも、今の笹原さんを敵に回すのは、少し怖いなと思ってしまった。

 こんな一面があるなんて、付き合っていた頃は知らなかった。


 ウチが席に戻ると、リオ先輩が口を開く。


「紫乃は、さ……あーしたちのこと、どう思う? 変、とか……思ってたりする?」


 よく分からない……というのがほんとのところ。


 でも――


「2人とも、お互いのことを好きなことはわかります。それはとても素敵なことだと思います」


 ウチはそんな風に、誰かを好きになったことがないから……ちょっとだけうらやましい、かな。


「そっか、ありがと。あーしはミウとこういう関係になれて、本当に良かったと思ってる。それを拒否らないでくれるのって、実はあんまりたくさんはいないんだよね。あんたは味方になってくれる数少ない後輩っていうか、友達ってことでいい?」


「はい。ウチは二人の味方です」


「私がこういうのもなんなんだけれどね。月岡さんには、誰かいい人はいないの? 学校にいた時も私が焦っちゃうくらいすっごいモテてたし、ルックスも性格もいいから絶対みんな好きになると思うけど」


「ルックスも性格も……どっちも自信ない、かな……でかいってだけで悪目立ちしちゃうし、着るものもあんまり良いの持ってないし、真面目すぎて面白くないとかも言われることもあるし……自分勝手で頑固なとこも……きっとあるし……誰かに好かれるなんて、恐れ多いというか…………でも……」


 ジュリはそんなウチのことを、一時的にでも1番って言ってくれたんだよね……


「「でも!?」」


「あ……いや、なんでもないです。特に無かったかなって。アハハ……」


「ガチめに〜? 怪しかったよ、今の間は」


「月岡さんは、ファーストキス……って、もうしたの?」


 唐突に笹原さんが真顔で尋ねてきた。


「……え?」


「したんだ」


 笹原さんの目が怪しく細められた。


「え!?」


「これは確定かな、ミウさっすが」


「だって、さっき私たちがキスしてるのを見ても、目を逸らしたりしなかったし、むしろ見つめてたから……そういうことができるのって、もうしたことあるのかな?って」


 図星も図星で、言い逃れできそうにもない……


「誰としたの? 男? それとも、女の子?」


 リオ先輩は興味津々でそう聞いてきた。


「……後者、です」


「女の子か〜。その子とは今も続いてるの?」


「あ、いや、付き合ってるとかではないので、続いてるとかはなくて……」


「なら、どっちからしたの? 月岡さんから?」


「……した、というか……事故みたいなもので、たまたま……みたいな」


「んなるほど? その後はどうなの? それきり?」


「いえ……それが……もう1回……向こうから……」


「わぁ〜やるね〜紫乃」


「月岡さんとその人は、どんな関係?」


「ええと……」


「もったいぶるじゃん。教えてよ〜。あーしらのキスをしっかり見ておいて、タダじゃかえさないからね?」


「アハハ……ルームメイトなんです、その人」


「ルーム、メイト……つまりそれって同棲ってこと? 待った。あーし今、一気に先越された気分なんだけど……」


「いや、そんなことないですって、全然最近までほんとにお互いそういうのもなくて、単なるルームメイトですから、今も。まったくリオ先輩と笹原さんの想像するようなことは何も……」


「それでも一緒にもう住んでるのとかすごいよ。私たち、近々一緒に住もうって部屋探ししてて……まだまだ不安がたくさんあるとこだし、ねぇ?」


 うんうんと顔を見合わせて頷き合う二人。


「ちなみにどこ? 都内だよね? 何駅?」


「ここのすぐ近くです。なんだったら、今日はルームメイトも帰ってこないので、見に来ます? いつもは無理ですけど、今日なら大丈夫なので」


「月岡さん、ほんとにいいの? 急に声をかけたのに、部屋まで……悪いような……」


「二人で住む所を探してるなら、ウチのいるとこは女性専用マンションで、かなり良い物件なのかなって。部屋探しの参考にはなると思って」


「紫乃、ちょっとだけ見せてもらってもいい? あれだったら観覧料とか払うし」


「観覧料なんてそんな、リオ先輩のおかげでウチは笹原さんへの誤解もなくなりましたし、笹原さんも勇気を出して話しに来てくれたので、ウチとしても部屋を見せるくらい何ともないです。特にやましいこともありませんから、良ければ来てください」


 本当は、ジュリが帰ってこない部屋に一人で帰るのが、少しだけ寂しいと思っていた。

 2人が来てくれたら、その寂しさが少しは紛れるかもしれない。

 お酒が入ったことで、きっとそのさみしさに抗う力が弱まっていたんだと思う。


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