〔Side:Shino〕6. 寝落ちもちもち
「ただいま、のんシャとフォカ。今日も仲良しだね」
ジュリと一緒に水族館に行ってから、家に帰るとのんシャとフォカがウチのことを出迎えてくれるようになった。
7時過ぎに家を出るウチは、自分のベッドからのんシャをソファーにそっと移してから家を出る。
そうすると、後から家を出るジュリがフォカをのんシャの隣に座らせてくれている。
そうしてウチが帰宅すると、今日も2人が仲良く出迎えてくれる。
「あ、のんシャ、フォカ。ジュリが帰ってきたみたいだよ。また玄関までお迎えに行こ」
リビングから玄関に面したドアを開けると、靴を脱いで上がったジュリと目が合う。
「おかえり、ジュリ」
すると最近は、ジュリがパタパタと駆け寄ってきて、のんシャとフォカの頭をなでることが定番化してきた。
「たっだいま~、はぁ~疲れたぁ~……うんうん、よしよし、フォカものんシャもお出向かいありがとね」
「ウチもいるよ」
「シノン~、ただいまのぎゅぅ~」
「こら、歩きにくい。ご飯できてるよ。一緒に食べよ」
「ありがと~!!」
ジュリが帰ってくると、こんな調子でウチとのんシャとフォカの3人で「おかえり」と出迎える。
以前よりも反応のいいジュリの緩んだ表情を見られるので、ウチの中での新たな楽しみの一つとなっていた。
寝る時はそれぞれのこをベッドへ連れて行く。
ベッドに行ってもジュリはのんシャとウチがどう過ごしているのか、ビデオ通話でみたがった。
もちもちで肌触りの良いのんシャをふにふにとカメラに向け、ジュリの話を聞く時間はいつもよりも気が緩んでしまっていた。
「……ノン? ……しも〜し……いい……お……このま……っと眺めてようかな〜んふふふ、かぁわいいなぁ」
「……んえ? あっ! ごめ、寝ちゃってた、ウチ? ほんとごめん!」
「いいよいいよ、いつも私が先に寝てたんだし。それに、よかったわよ、寝顔」
そんなことを真顔で言われても困る。
「すっ……ごい、かわいかった! あ〜ぁ、もっと見てたかったなぁ。なんで起こしちゃったの私」
「いやいやいやむりむりむりいやいやいやいや……ぜっぜん、全っ然! こんな醜態見せらんないからいつも気張ってたのに。ごめん、ほんと忘れて。キモかったのに無理して褒めようとしなくていいから。次からすぐ、もう速攻で通話切って! というか切ってください!」
「えー? そんな勿体ないことしないよ~、私。シノンの寝顔なら無限にみてられるもん。ほら見てこのニッコニコの顔。嘘なんてついてないよ、ねぇフォカちゃん?」
フォカの手をパタパタさせながらの笑顔は嘘だと決めつけるのには情報が足りない。
けど、ウチの心が全力でそれは無いと言っている。
目の前の笑顔を信じてあげることが出来ず、やるせないけれど、まずは今の状況を改善しようとスマホに手をかける。
「い、いやほんと無理。こんな醜態……見られたくないので、もう画面は切りますからね」
「あぁー……シノンだけじゃなくて、のんシャまで見えなくなっちゃった……」
スマホからはジュリの残念そうな声がする。
ごめん……でも……今までこんなことはなかったから、ほんとにどうしたらいいのかがわからない。
「もう。それなら、今度一緒に寝よっか? 私、夜通し見てたいから、次の日が休みの日にしなきゃね」
「い、一緒になんて絶対寝ませんから。というかそしたら私、朝まで眠れないじゃないですか」
無意識に敬語がでてくる。
ジュリには年齢差があることを意識しちゃうからやめて欲しいと言われていたけれど、今は口から出てくる言葉を意識している余裕なんて……
「えー? そんなこと言っていいのかな〜? ここの部屋の主は誰だったかしら〜?」
「……まさか、追い出したりなんて……しない、よね?」
「それはもう、シノンちゃんの態度次第じゃないかしら〜ん?」
「う……ずるい……今までそんなこと言わなかったのに……どうしたの急に」
「言うことを聞かなきゃどうなるかはご想像におまかせするけど、私のお願い聞いてくれるのなら。私もシノンのお願い聞いてもいいよ? それでおあいこなのはどう?」
「う〜ん……」
むにゃむにゃと眠そうなジュリのとろんとした声が可愛かったから、これまでは寝落ち通話も付き合っていられたのに、どうして……どうしてこんなことに……
「なんなら今日から毎日でも私は――」
「今度! 1回だけ……ぁ……!」
「やった。お願いはなにか考えておいてね?」
ジュリのいたずらっぽい表情で、自分が乗らなくてもよかった舟に自分から乗っていってしまったことに気が付いた。
「う、ん……わか、った……」
こういう人の乗せ方をジュリは仕事上よく知っているらしい。
今まで周りにこういうタイプがいなかったウチとしては、毎回してやられている気がして悔しくもある。
でも、よく考えればウチが先に眠らずに、ジュリよりも先に目覚めればいい話。
これまでずっとそうしてきたのだもの、一日くらい余裕で乗り越えられるはず。
とりあえず、一番濃いエスプレッソを用意して置こ……
――
そんな約束をしてから、ジュリは眠くなる前に寝室に向かうことが多くなった。
そして通話を繋ぐのはほぼ毎日になった。
それはジュリの戦略らしかった。
通話を繋ぎながら、ジュリはゆったりとした声で話すようになり、聞き心地の良いその声を聞いていると、手練の睡魔がウチを襲う。
以前はジュリが眠るまで意識を保つのにも、まだまだ少し余裕があったはずなのに、今では連敗することもあるくらいで……ビデオ通話の時も何度か負けそうになっている。
じつに……じつに由々しき事態である。
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