🦊火霊さまが語る、ニンゲン観察録 ~たたらの灯(ひ)に咲く葉より~

緒 とのわ

第一火 葉乃香(24)の観察禄。

 ※『第二章 第1葉と第2葉』を参照。

 ──────


「……チッ、また物好きが来やがったか。

 覗き見なんざ趣味わりぃな、読者ぁ」


 夜に気持ちよく寝てるときに現れやがって……ま、暇つぶしにはなるか。

 しゃーねぇ、今日のネタを見せてやるよ。



 ──あそこ見ろ。

 月明かりの下でコソコソ歩いてんのが、“野宮のみや葉乃香はのか”だ。

 よく知ってんだろ、穂音ほのねさとの鍛冶師の女だ。


「って、あのメソガキ、また夜中に石拾いかよ……」


 あいつな、夜な夜な竹籠たけかご背負って、材料探しするクセがあんだよ。

 メソガキのくせに、林に入ったり、山登ったり……

 ドジ踏んで転げ落ちりゃ一巻の終わりだってのに、ぜんっぜん気づきもしねぇ。


 ──ほら見ろよ、顔が緩みきってんだろ?

 崖下付近の鉱石見つけりゃあ、ニヤニヤして……。

 夜中だっつーのに、ツルハシ振って岩ガンガン砕いてやがる。


 ……ったく、夢中になりすぎて後ろの悪霊あくれいどもにも気づいてねぇ。


「チッ……鬱陶うっとうしいなぁ。

 オレのナワバリに出てくんなっ! クソどもがっ」


 ──狐火きつねび一発で、灰すら残さねぇ。

 あーいうクソ霊どもはさっさと消さねぇと、増えてめんどくせーんだよ。


 それでも本人は「今日はいい石が取れました〜」なんてご満悦まんえつだ。

 オレの火の早さに気づいてねぇが……呑気のんきな面しやがって。


 ま、あのメソガキってのはそういうもんだったな……。

 こっちが尻拭いしてんのも知らずに、呑気に石抱えて帰るんだぜ。


「見ろよ。鍛冶場の外の机で、また石コロ並べてやがるぜ。これで終わらねぇんだよ、あいつは」


 火打ひうとうにかざして割ったり叩いたり……その顔だけは妙に真剣なんだよな。

 夜な夜な探しては、拾ってきたガラクタを、宝物みてぇに見てやがる。


 ──って、おい。

 椅子の足に思いっきりつまづいて、かごひっくり返して鉱石ぶちまけやがった!


「カッカッカ! まぬけづらが真っ青になって、必死に拾い集めてんじゃねぇか!」


 おーおー、暗くて見落としてやがる。

 せっかくの真剣な顔も台無しだな、あのメソガキは。


「オレは助けねぇのかって? なんで火霊さまがニンゲンのケツ拭きしてやんなきゃなんねぇんだよっ。

 ククッ……明日の顔が見物だなぁ。あの坊主からまた小言こごとがくるかもなぁ」


 ……ま、今日の話はここまでだ。


 ……あん? もっと他の奴も知りてぇのか?

 ほんっと物好きだな。


「ま、次はあのツンツン坊主でも笑ってやるか……気が向きゃあな」


 続きが気になるなら、また勝手に来りゃいい。

 ただしオレは、気が向いたときにしか話さねぇぞ。


「カッカッカッ! あばよ、読者ぁ……」

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