あの子が震える理由
平本りこ
あの子が震える理由
荒い鼻息が折り重なるように響く一室で、彼女は震えていた。大きな目を見開き、身体を硬くして、床に落ちた獰猛な影を見回している。
彼女は、そそり立つ壁のような巨漢に囲まれている。
ある者はだらしなく舌を伸ばし、涎を垂れ流す。ある者は獣の目で、彼女の全身を舐めまわすかのように眺めている。
筋骨隆々な者、細長い者、白い者、黒い者。周囲には様々な姿があるが彼女ほど小さくか弱い存在はいない。
「ところで」
低い声が、彼女に問う。
「おまえは、なぜ震えているんだ」
彼女はなおも全身を小刻みに揺らしながら答えた。
「わたし、チワワだからです」
ぷるぷるぷるぷる……。
屈強な雄犬らの真ん中で、小さなチワワが怯えるでもなく、しかし震えながら佇んでいる。
身体が小さいチワワは体温を保つため、震えて熱を生み出すのだとか。
<完>
あの子が震える理由 平本りこ @hiraruko
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