第7話 守り手


「築け!」

リフの怒号が響く。

リフと魔獣の間に、赤い円形の魔法陣が瞬時に浮かんだ。


魔獣はその魔法陣に勢いよく衝突し、咆哮しながら後退する。


魔獣は、茂みを踏み締めてこちらを見ている。


「C級魔獣グマズが6頭……これは、術を解除できないな」

リフはレイアとストーの肩に触れ、最後に赤い魔法陣を指す。

「囲め」

レイアたちを囲むように、四方に魔法陣が浮かぶ。

「……障壁空間固定術」

レイアは驚いて呟いた。


回復師のリフが防御魔法、それも中級魔法を使えるなんて、レイアは初めて知った。


しかも今回はレイア達3人を指定して囲むように術式を組んでいるので、

彼らが動いても常にその周りを防御壁が守ってくれるという優れものだ。

だが、発動中は常に魔力を必要とする、かなり厄介な術だ。


「グマズの獲物を検めたらすぐに退くぞ」

ストーが指揮を執り、一行はグマズのいる茂みに急行した。


木の根元に何か打ち捨てられている。

幸いなことに人体ではなかった。


3人でそれらを囲むように立って、残遺物を防御壁内に取り込む。


「背嚢と、……早足鳥の尾羽根と脚と……」


民間冒険者が他のエリアで狩った獲物の死骸や、人間界の装備だった。


レイアたちに驚いて、一旦退くグマズたちだが、それでも遠巻きにこちらの様子を窺っている。


「さ、撤退するぞ。遅れるなよ」

ストーとリフが、そのまま行こうとする。


「え、持ち主に届けないと」

レイアが慌ててその背嚢を手にするなり

グマズの群れがどっと防御壁ぎりぎりにまで迫ってきた。

爪で魔法陣を引っ掻き、吠えている。


ストーが深くため息をつき

「俺の指示不足かねぇ」

とぼやいた。


「強化」

リフの命令に魔法陣が一層赤く煌めく。

リフは額に汗を浮かべ、防御壁の強化に徹している。


「カーティ、何処にいやがる、早く来いってんだ」

ストーは一向に魔法を放とうとしない。

彼のバングルの、探知機能のない魔晶石はまだ濃い紫色なのに。


「すまない、ストー」

リフが苦しそうに告げると

ストーは自分のバングルをリフの手首につけてやった。

そのバングルの魔晶石の色がみるみるうちに薄くなっていく。


それだけの魔力を消費するのに、

最初はリフは魔晶石なしで、術を維持していた。

つまりリフは、魔晶石に貯留した魔力だけでなく、“周囲に満ちる”魔力も操りながら、防御壁を維持しているのだ。

「……エイルさんって、操作型魔法師なの?」

レイアの呟きに

「そ。だから、バングルおよび魔晶石の支給対象外。大変だよなぁ」

言いながら、ストーは自分の予備の魔晶石をリフの手に握らせる。

「これ、……あの子の石?」

リフの問いに、ストーは頷く。

「ありがとうございます。心強い」



まだグマズに囲まれて身動きが取れない。

木々の生い茂る森では、レイアの大剣は小回りがきかない。

今は魔晶石をリフの防御魔法に融通しているから、ストーは魔法が使えない。


ただひたすら、守るだけ。


魔獣は、この薄い壁一枚隔てただけの、すぐそこにいる。


鋭い牙と爪が、レイアを噛もうとして、見えない壁をがりがり掻き続けている。


魔晶石の力を使い切ったら、自分たちはもうなす術がない。

ストーがリフに渡した魔晶石も、もうほとんど無色透明だ。


「届いて……」

リフが祈るように呟く。


そして、強い衝撃と共に、魔法陣が掻き消えた。

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