裏庭で飯を食う僕に、ダウナー系の先輩が何故か声をかけてくる
二郎マコト
第1話 とある昼、学校の裏庭で
昼休み。世の中高生がちょっと活気づく頃。だと思う。裏庭から見えるとある教室の中では、弁当を片手に男子高校生達が楽しそうに談笑している。
凄く楽しそうだなぁとぼんやりと考える。仲のいい友達と他愛もない雑談に花を咲かせる。それもまた良い休み時間の過ごし方だ。
きっとそっちの方がご飯も美味しく感じる……のかもしれないな。
だけど、僕はそうじゃない。
ご飯は1人でのんびり静かに食っていたい派だ。
「さて、と。いただきます……」
僕はそんな彼らを横目に裏庭のベンチで一人、購買で買ってきた弁当を開く。
その瞬間爽やかな晴れの日の風が、軽く僕の頬を撫でていった。ここはいい感じに日陰もあるし、芝生の敷地に木がイイ感じに植わってる。穏やかで好きな場所だ。
僕こと
中々ここに来る人達っていないし。うん、静かで気ままに飯が食える場所。最高じゃないの。
……一応言っておくと、学校に友達はいる。同じ部活では苦楽を共にする仲間がいるし、休日は遊びに出かけたりだってする。
ただ同じ部活のやつって僕の場合ほとんどがほかのクラスだし、そもそもさっき言ったように昼飯は静かに食べたい派だし。
なんて、なんか言い訳してるみたいだな。とりあえず飯食お、飯。
そう思ってプラスチックでできたフタをぱかっと開け、割りばしを割る。
今日買った弁当は日替わり弁当……らしい。サラダに唐揚げ、ウインナーなど食材が豊富だったものだから、それにつられて買った。
目についたウインナーを箸でつまみ、口に運ぶ。
そういえば……、ここでご飯を食べ始めてから1か月くらいは一人で食べてた。けど、最近なにかと現れては声をかけてくる人がいる。
今日も、来るかなあの人。ふとそんなことを考えていた、その時。
「やぁ。今日も隣、いいかい? 日暮君」
ふと、後ろから声が聞こえた。女性の声だ。
大人の声じゃない。僕と同じくらいの年の、でも少し大人びたような、そんな声だ。
やっぱり。今日も来たみたいだな。そう思って後ろを振り返る。
見ると今ちょうど想像していた人が、気怠げに軽く微笑みながら僕を見下ろしていた。
「――――――いいですよ。今日も来たんですね。星原先輩」
「まあね。私もここの雰囲気、好きだからさ。君と一緒だよ」
「そう、ですか。でもそれなら俺の隣じゃなくても別にいいような、気もしますけど?」
「わはは。そう言うなって。お互い学校の隅っこでひっそりご飯を食べる者同士なんだ。仲良くしていこうぜ」
そう言って僕の隣に腰を下ろしたのは
長い黒髪をストレートに伸ばしており、落ち着いているけど少しルーズな雰囲気も感じさせる。可愛い、というか綺麗な人だ。
そう。1ヶ月くらい前からこの人は、ここで1人でご飯を食べる僕によく声をかけてくる。
正直1人でのんびり食べていたいんだけど、「嫌だ」って感じるほどではないから。
だから隣に座って軽く話すくらいなら、別に構わない。なんて思ってる。
「まぁ断っても勝手に横に座って食べてるんだろうから、別に構わないんですけど、ね。そうでしょ?」
「んな、心外だな。断られたら流石に少し距離を置くさ。1m半くらい」
「それあんまり変わんない気がするけどなんか地味に傷つくリアルな距離……。わざとやってんじゃないかって疑うレベルですよ」
「っふふ。妙に具体的に言うじゃないか。もしかして君って意外と繊細なタイプかな?」
少し面白そうにそう言いながら、星原先輩は僕の真横に座る。そして、ふと気づいたように僕が手に持っている弁当を見た。
「へぇ。購買の日替わり弁当か。珍しいね。君、基本手作り弁当持ってくるだろ? 気が変わったのかい?」
「あぁ、今日は別に作りそびれちゃっただけですよ。基本早起きして作ってはいるんですけど、今日は寝坊しちゃって」
「ふふ、凄いな。何時もの様子を見てる限りだが毎日、弁当を作ってるんだろう? 殊勝なことだよ」
随分と細かいところまでよく見てるんだな、と少し驚く。
んで、今の僕の台詞にに反応するところが「寝坊したこと」ではなくて、「毎日弁当を作っていること」なんだ。それが少し意外だった。
なんかホント不思議で、変わった人だよなこの人。話し方とかもそうだけど、どこか普通とは「違う」雰囲気がある。
「ただ……、たまには休んでみるのもいいことなんじゃないか? 偶然か今日君は寝坊したことで『休む』ことが出来たみたいだが、どうだ?」
「まぁ、そうですね。そりゃもうグッスリでしたよ」
「わはは、そいつは何より。それに……いつもと違うこともあったはずだ。その日替わり弁当が正しくそうなんじゃないか?」
そう言いながら彼女は、再度僕の弁当を見て思わせぶりに笑う。
何となく、だけど。彼女の言いたいことが分かったような気もした。
「確かに。普段通りご飯作って来てたらこの弁当を買う事もなかったですね。こういった弁当がこの学校にあることにも、気づいてなかったかも」
「ふふ、そうだろ。そしてこの学校の弁当は意外にも美味しいんだ。そういった事にも気づけたろ?」
「そうですね。午後の授業も頑張ろっかなって、そう思えるくらいには……」
「そうそう。そんな新しい考えも得られる。そう考えれば、ちょっと寝坊しちゃったことも悪い事には思えなくなってくるだろう?」
普段とちょっと違うことが、新しいことに気づくきっかけになったりする。だから、なんであれその「違い」を、思い切り楽しんでしまえ。
そうすればちょっと気分が沈む事でも、面白いことに変えられる時がある。
多分星原先輩が言いたいことって、そういう事なんだろう。なんて思いながら僕は、唐揚げをつまんで口に入れる。
「そうですね。物は考えよう、とも言いますからね。ん、うめ」
「ふふ、ほっこりする顔で食べるじゃないか。可愛いな。まぁかくいう私も今日の弁当事情はいつもと違う訳だが……」
星原先輩の手に置かれている弁当は、タコさんウインナーやうさぎのリンゴなど、鮮やかに彩られた可愛らしいものだ。おそらくお手製のものだろう。
「おぉ珍し。ずっと購買のパンとかだったじゃないですか。一体どういう風の吹き回しで?」
「君に習って作ってみたのさ。朝早く起きなきゃいけなかったり献立考えたり……、ルーズな私にゃちょっと大変だったけどさ。いざやってみると案外楽しいものだったね」
そう、先輩は目を細めてにやりと笑う。
その笑顔は、普段ルーズで気だるげな彼女の雰囲気と何処かマッチしているようで。
少し、心臓が強く跳ねたような気がした。
「……ん。でしょ? 意外とやってみると楽しいものですよね。じゃなかったら僕だって入学してから3ヶ月、作り続けてないですし」
「わはは、違いないね。さて、気になる味だが……、ん、美味い。さすが私だ」
僕の誤魔化すようなそんな台詞に、そう言いながら星原先輩は柔らかく笑う。そしてご飯を頬張り、自画自賛。
「はは、自分で言っちゃうのかよ……」
そして僕も、それにつられて思わず笑う。
あぁ、なんかわかった気がする。できれば1人でご飯を食べていたい僕が、先輩のことを「嫌だ」って思わない理由。
この人の柔らかくて、気だるげで、静かな雰囲気が。
どこか絶妙に心地いいような、そんな気がするからだ。
そう考えながら頬張った唐揚げは、心なしかいつもより少し美味しいような、そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます