誘引
Butaneko
第1話「誘引」
あいつが死んだ。
長年親友だった、あいつが死んだ。
あいつが死んでから、1ヶ月と少し。
空が青い。あいつが死んだのが嘘みたいだ。
あいつの葬式は、友引の日だった。
友引の日。その名の通り、友を引く日だ。
その日に葬式をすると、故人が誰かを一緒に連れて行ってしまう。
だから、友引の日には葬式はあげられない。
でも、どうしてもすぐに葬式をあげなくちゃいけなかった。
死体の損傷が激しすぎたんだ。
車に引きずられ、頭部破損。
身元は落ちていた財布の免許証でようやく判別ができたほどだったらしい。
犯人はまだ捕まってない。
轢き殺されたのは、その前の日の夜。
安置もできず、そうこうしているうちに友引の日になり、
そのまま火葬に入った。
何でかなあ。あいつ。
昔からタイミング悪かったしなあ。
友引の日に葬式をあげるときに、
一緒に身代わりとして焼いてもらう人形がある。
「友引人形」
白い箱に金色の箔押しでそう書かれた箱は少し線香臭かった。
箱を開けると、こけしのような、だけど少し角張った木でできた人形が入っていた。
この人形を一緒に焼けば、あいつは安らかに逝ってくれる。
そう思い、俺は入れた。棺桶に。
…でも燃えなかった。
人形は燃えずに、あいつの燃え残った少しのかけらの横に真っ黒になって、
それでも原型をほぼ留めて、そこにあった。
とはいえ、形式上一緒に入れただけで、呪いや幽霊の類を信じなかった俺は、
特に気にせず、気味悪がる親族を尻目に、
骨壷とともに和紙に包まれたそれを、記念に持って帰った。
そこからだった。
葬式から7日後、俺は指を怪我した。
料理中にスパッと切ってしまった。絆創膏を貼り、料理を続けた。
それから7日後、俺は転んで膝を擦りむいた。
石に躓いた。やっちまったと思っていた。
そして、また7日後、また7日後と、俺は7日ごとに怪我をした。
最初は、毎週⚪︎曜日には怪我をするなあと思っていた。
だが、どんどん怪我は大きなものになっていく。
ついに6回目の怪我をした俺は、本当に命の危険を感じていた。
そしてあの人形を思い出した。
あいつが俺を連れて行こうとしている。
包帯を身体中に巻き、あの人形を持った俺はタクシーを使い、葬儀をしたあの寺へ向かった。
起きたことを話す。
すぐにお経を唱えてもらい、その場で人形は引き取ってもらった。
そうしてそれから6日がたった。
深夜に電話があった。
眠い目を擦り電話に出ると、興奮した住職からだった。
「あの人形、ふと気になって、周りの黒いところを剥がしてみたんです。そうしたら、ただの骨の欠片が出てきました。きっと、そこだけ火が弱かったりしたんでしょう。」
意味がわからなかった。だとしたら、なぜ俺は今怪我をしている?
そのとき、恐ろしい想像が頭に浮かんだ。
俺はタクシーを急いで呼び、ある場所へ向かった。
11時30分。霊園は車の乗り入れができないため、近くの山道でおろされる。
俺は松葉杖を使い、必死になって急いで霊園を探した。
友引き人形はまだ燃え残っていて、あいつと一緒に墓に入っているとしたら。
人は死んでから49日経つと成仏する。
11時59分。俺は歩道のない山の中の道路を必死に進む。
あいつが成仏するまでの間、
あいつが俺を必死にあっちに引き摺り込んでいたら。
49日はあと1分で来る。
その日の成仏とともに、あいつが俺を殺しに来るとしたら。
折れた骨が軋み、激痛が走る。その場にへたり込んでうずくまった。
浅く呼吸をし、肺が痛い。
目の前がぼやける。
心臓が太鼓のように鳴り響く。
痛い、やばい、逃げ、
0時0分。目の前からトラックがやってきて動けない俺を轢き殺した。
もう少しで霊園につけたのに。
あいつは本当にタイミングが悪い。
あいつの彼女と隠れて付き合い、一緒に家にいたところに、
出張が早く終わったあいつは帰ってきた。
激怒したあいつは、「訴える。慰謝料を請求する」と言いやがった。
だから殺した。車であいつを轢き殺してやった。
車は彼女のだから問題ない。指紋も拭いた。
人形が燃え残ったのは、もしかしたら、人形を身代わりに生きようとする俺を逃したくなかったあいつが、わざと燃やさないようにしたのかもしれない。
皮肉なもんだな。「友を引く日」は「友を轢く日」でもあったんだから。
走馬灯に流れた49日は、男の意識を奪って消えた。
誘引 Butaneko @butaneko0407
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