第37話

 レオナルドとポチ太郎は谷底の洞窟を目指して歩いている。一見行き止まりのような所や、ワイヤーのはしごで数十メートルを昇り降りする部分もある(その場合ポチ太郎はおんぶをしてもらっている)。地図があったとしても、レオナルドの経験がなければ先に進むのは困難だっただろう。ポチ太郎はまるで主人に忠実な犬のようにして、彼に続いて歩いている。

「ヒナコ達の様子はどうですか?」

 レオナルドがポチ太郎に話しかけた。

「ちょうど今、侵入者を撃退しました。しかし次の刺客が迫っています。あまり良い状況とは言えません」

「……」

「最期の手段として、ヒナコさんが高次の世界にアクセスを試みています。なんとかなるかもしれません。彼女を信じましょう」

 ポチ太郎が励ますようにして言った。

「そうですね、あいつなら何とかしてくれそうな気がします。いつもみたいに、無理やりなんとかしてくれそうだ」

 笑顔を取り戻してレオナルドが言った。

「つかぬことをお伺いしますが、レオナルドさんはヒナコさんのパートナーなのですか? 弟さんとエリザベスさんのように」

「……はい。俺は恋人だと思っています。でもヒナコの方はどうかな。キミーの方が本命かな」

 少し笑ってレオナルドが言った。

「彼女は本当に感情豊かになりました。レオナルドさんに接しているときは、まるで恋する乙女のように見えました」

「そうですか。俺も、もっと恋人らしいことをすればよかった……」

 たそがれたような感じでレオナルドが言った。

「生き延びたら、ヒナコさんと良い時間を過ごしてください。彼女もきっとそれを待っています。しかしこの発言は死亡フラグですね」

 ポチ太郎が楽しそうにして言った。レオナルドが声を出して笑った。

「スラムで暮らしていると、死亡フラグなんて気にならなくなりますよ。毎日、死と隣り合わせなので」

「それは心強い情報です。運気が高まってきたような気がします」

 ポチ太郎がしっぽを振った。

「あなたと話をしていると祖父を思い出します。だいぶ前に亡くなったのですが、街の人々にも尊敬されていました。女癖は悪かったけど」

「私も女性は好きですよ。仲の良い人間の女性が一人いて、バーチャル空間でよく話をしています。もちろん向こうは、私がアンドロイド犬だとは知らないのですけれど」

「直接会いたいとか言われないんですか?」

「言われません。話をするだけで、お互いに満たされています。しかし私も恋をしているかもしれないな……そういえば」

「だったら絶対に生き延びないと」

「そうです。生き延びなければなりません」

 ポチ太郎が力強く言った。

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