第5話
クロエに連れられてヒナコは食堂へ入った。子供たちは昼食を終えて食器の後片付けをしているところだった。ヒナコが食堂に一歩踏み入れた瞬間、やかましく響いていた子供たちの声がピタリとやんだ。
「みんな、注目! この方は北村ヒナコさんと言って、これからヒマワリ園のお仕事を手伝ってくださいます。まずはみんなの様子を見て貰おうと思ってここにお連れしたの」
クロエが子供たちの顔を見回して言った。みんな呆然とした表情をしている。どうやらヒナコの派手な見た目に驚いているようだ。
「お姉ちゃん、何歳?」
そばにいた4、5歳ぐらいの小さな女の子が、もじもじしながらヒナコに訊いた。
「60歳」
ヒナコは笑顔で言い放った。女の子は冗談を言われたと思ったのだろう、困った顔になって黙ってしまった。
「本当に60歳なんだよ。私はアンドロイドで今から六十年前に作られたの。見た目は18歳って設定だけどね。実際にはみんなのおばあちゃんぐらいの歳」
ヒナコの言葉を訊いて子供たちの表情が一斉に明るくなった。
「アンドロイドは永遠に生きられるんですか?」
頭の回転の速そうな、12歳ぐらいの女の子が興味深そうにして訊いた。
「理論的には永遠に生きられる。ただ、私には生身の体が無いから、人間みたいに生きてると言えるかは難しいところだよね」
ヒナコが微笑んで言った。そのまま質問ラッシュになりそうだったので、クロエが会話を遮って昼食の後片付けを続けさせた。みんな午後の時間にそれぞれやることが決まっている。名残惜しそうにしてヒナコを見詰めつつ、子供たちは食堂を出て行った。
「みんな、あなたにたくさん聞きたいことがあるみたい。私もだけど」
クロエがはにかんだような顔で言った。
「答えられることならなんでも答えるよ。遠慮しないで聞いてね」
落ち着いた声でヒナコは言ったが内心では結構ワクワクしていた。人間の子供って小さくてとても可愛い。あどけない表情とぎこちない仕草がたまらなく魅力的だ。60年間、一人の老人と暮らしていた自分にとってすべてが新鮮で面白い。子供たちと接したほんの短い間に、全身の血が体を駆け巡っているような感覚があった。もちろんアンドロイドに血液なんて無いのだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます