一 天からふってきた亀
むかーし昔のことです。
ヒト族と
十二歳の
夜な夜な、何者かが大声で泣き
この世のものとは思えないおどろおどろしい泣き声に眠りをさまたげられた貴族や女官たちは、
――鬼が
と、おびえました。
声は聞こえども、姿は見えず。兵士たちが
宮殿内の庭園、女官たちの部屋の前の
しかも、時を同じくして、
「これは、
そんなウワサが都の民たちの間で流れ、言い知れぬ不安が広まっていました。
そのような
空から、亀がふってきたのです。
「あらあら。お正月を祝う
宮殿の庭にポトンと落ちた亀を女官にひろって来させると、少女の帝はその小さな亀を抱っこして、儀式の場にいた貴族たちに見せびらかしました。
「吉か凶かは、専門家に聞いて見なければわかりません。急いで
「こんな小さくて愛らしい亀さんが不吉なはずがありませんよ。きっと吉兆です。……ほら、左大臣も
帝がニッコリ笑いながら亀を押しつけようとすると、小太りのおじさんは嫌そうな顔をして「い、いえ。けっこうです」と言い、ちょっと引きぎみになりました。どうやら、亀が苦手のようです。
このおじさんこそが、
自分の出世のためなら平気で他人をおとしいれるあくどい人で、先代の帝は倉持の陰謀で帝をやめさせられました。
先帝の奥さんは、倉持の妹。そして、先帝のお子様である今の帝は、倉持の
(まだ子供で自分の姪である雲母さまを帝の位につけたら、ワシのやりたいように政治ができるはず。帝を操り人形にしてやるぞ)
そんなふうにたくらみ、雲母さまを帝位につけたのでした。
ですが、当の本人の帝は、あんまり倉持の思い通りになっていないご様子で……。
「そう言わずに、撫でてあげてくださいよ。ほらほらぁ~」
「わ、わ、わ! 顔に近づけないでください!」
嫌がる倉持をおちょくっていました。まだ十二歳の子供なので、いたずら精神がたっぷりのようです。見た目は、おしとやかそうな女の子なのですけどね。
「もぉ~。こんなにも可愛いのに、どうして嫌がるのですか?」
帝はそうつぶやきながら、亀の
すると、おどろいたことに、亀がいきなりしゃべりだしたのです。
――
ちょっと
帝と貴族たちが「ええ⁉」とびっくりしている間に、予言(?)を告げた亀はドロンと消えてしまいました。
「
帝にそう申し上げたのは、朝廷でナンバースリーの
「なぁ~にふざけたことを言っておるのじゃ、大納言どの。けがらわしい動物の妖怪どもが都を救うじゃと? いくら正月でも、昼間っから
倉持がツバをペッペッと飛ばしながら言いました。
夜麻登国はヒト族と妖怪族が
「いや、オレは酔っぱらってなど……。うぃ~ひっく!」
「馬鹿め! やはり、酔っぱらっておるではないか! ふふふ……フージワラワラ! フージワラワラ!」
梅酒を小馬鹿にした倉持が、不気味な笑い方をすると、その場にいた多くの貴族たちも「フージワラワラ! フージワラワラ!」と大笑いしました。
このおかしな笑い方をしている貴族たちは、全員が藤原一族の人間です。朝廷の重要な
ナンバーワンの左大臣は、もちろん倉持。ナンバーツーやナンバーフォー以下の官職も、ぜんぶぜーんぶ藤原氏だったのです。お子ちゃまの帝を尊敬しておらず、藤原氏が
ただひとり心から帝のことを思っているのは、梅酒のみ。みんなに笑われて、「ぐ、ぐぬぬぅ~。やけ酒が飲みたい……」とくやしがることしかできません。
そんな梅酒に助け舟を出したのは、心のお優しい帝でした。
「左大臣、めっですよ。大納言をからかうのはやめなさい。いじめ、かっこ悪いです」
「し、しかし、大君。この酔っ払いが馬鹿げたことを言うものですから……」
「わたしは、大納言の言うことはぜんぜん馬鹿げているとは思いません。『肉球の手を借りて、天下は平和となる』とは、妖しのケモノたちを帝であるわたしのそばに置きなさいという天のお告げなのでしょう。強い霊力を持った妖しのケモノならば、鬼の邪気をはらうことも可能なはずですから」
「は、ははぁ……。なるほど……」
いくら忠誠心がなくても、主君と家来です。面と向かって帝のお言葉にさからうのは、さすがによほどのことがないかぎりはできません。
(……でも、人の姿に化けているあいつらの手には肉球などないぞ? 動物要素はモフモフのケモノ耳と尻尾だけだぞ?)
と、倉持は心の中では反論していましたが、帝のお言葉を大人しく黙って聞いていました。
「コホン……。みなさん、よろしいですか? さっきの不思議な亀は、天がつかわしたたいへん
帝は、幼いながらも
倉持たち貴族は、「帝はいったい何を思いついたのだろう?」と
「まず勅命ひとーつ! ここのところ不吉な事件が続いているので、思いきって縁起をかついだ年号に変えます! 新しい年号は、亀のお告げの『肉球の手を借りて、天下は平和となる』から字をとって『
「えええーーーっ⁉」
「勅命ふたーつ! もうすぐわたしの身の回りのお世話をする女官たちの採用試験がありますが、今年はヒト族だけでなく、妖しのケモノの女の子からも採用しちゃいます! めざせ、明るくてモフモフな宮廷生活!」
「えええーーーっ⁉」
というわけで、ここからが物語の本番!
モフモフな動物妖怪の少女たちが帝や都の人たちを守るために戦う物語の始まり始まりぃ~!
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