第2話(前編)――「フォケーアへの船出」

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挿絵は、『エーゲ海地域』です。

https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/16818622176533796305

出典は、『岩波現代選書「ヴェネツィア」W.H.マクニール著。清水廣一郎訳。巻頭の図』です。

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前書き

スタンブールを発ちマルマラ海—ガリポリ—ダーダネルス海峡を抜けアナトリア西岸へ、まずイズミルで絨毯を売却して資金を回しフォケーアで綿織物を仕入れ、鉱夫やキオスの採集人への販売まで視野に入れた“試される船旅”が始まる。


本文


 イスタンブールを出発した。フォケーアまでは3日程度の船旅である。マルマラ海を順調に航海し、水夫たちも5人で良いところを10人乗船させているので、余剰の水夫たちはアイユーブの持つ望遠鏡であちこち眺めている。


 ガリポリの港やダルダネルズ海峡を通り過ぎると、右手にアトス山、左手にレスボス島が見える。レスボスの南東にあるアナトリア半島の都市がフォケーアだ。フォケーアからはイズミル、キオスが近い。先にイズミルで絨毯を売却してからフォケーアに寄る。


☆1522年4月20日日曜日午前10時:イズミル


 イズミルで絨毯800荷を売った。50荷を1ドゥカートで買い付けてくれた。約2倍の値が付いた。距離が近いのでこんな物だろう。800荷÷50荷✕0.97=19.4ドゥカートの収入である。仕入れ値が8.24ドゥカートなので、11.16ドゥカートの儲けだ。


 イズミルで地元産の綿織物や絹織物を仕入れるかどうか随分悩んだが、フォケーアの明礬みょうばん鉱山の従業員やキオスのマスティハ採集人たちも綿織物の需要はきっとあるだろうと判断した。


 綿織物は値段も安いから売れなければ廃棄してしまえば良い。結局綿織物を1ドゥカート40荷で800荷購入した。仕入れ値は800÷40✕1.03=20.6ドゥカートである。


 フォケーアに到着した。ザッカリーア家所有の明礬みょうばん鉱山を探す。半日費やしたが、デイヤーブさん所有の倉庫が見つかった。


 アイユーブは鉱山中を探し歩き、鉱夫たちに綿織物を売った。幸い、鉱夫長が1ドゥカートに付き25荷で購入してくれた。個人購入だから税金は支払わない。売却値は800÷25=32ドゥカートとなり、利益は32-20.6=11.4ドゥカートになった。


 倉庫番に説明すると、明礬みょうばんを100荷出してくれた。これでキオスへ出発できる。


 出発しようとすると、倉庫番が「お前たちに頼みがあるんだ。明礬みょうばんを1,000荷積載したカラベル船(水夫30名、可能積載量2,000荷)をキオスまで運んでくれないか。運んでくれたら、明礬みょうばんを100荷やるよ。空の船はキオスに置いとけ」と言う。カーミルが船長を引き受けた。


☆1522年4月21日月曜日午後1時:キオス


 カーミルはカラベル船を港に停泊し、明礬みょうばん900荷を指示された倉庫に入れ、残りの100荷はスループに積み込んだ。


 キオスのマスティハ農場へ行き、親方「農園長」を捕まえて、値段の交渉を行った。粘ったが、1ドゥカートでマスティハを30荷の仕入れは変わらなかった。


600÷30✕1.03=20.6ドゥカート支払い、マスティハを600荷入手した。


 スループには明礬みょうばんを200荷とマスティハを600荷積み込んでいる。


 アイユーブは手持ちの現金を計算してみた。カラムさんから受け取ったお金は50ドゥカート、マスティハの仕入れ値は20.6ドゥカート差し引き29.4ドゥカートである。


 途中の利益は11.16+11.4=22.56ドゥカートだから、手持ちの現金は29.4+22.56=51.96ドゥカートある。




 イスタンブールへ帰る準備をしているアイユーブたちを捕まえて農園長が「今度来る時は食料を持ってきてくれないか?小麦やぶどう酒が不足しているんだよ」と言う。


アイユーブが「本土(フォケーア)から届けてくれないんですか?」と聞くと、


「フォケーアからはイスタンブールに送る食料が殆どでここまで回ってこないんだよ」


と言う。


「ああ、そうか。イスタンブールは繁栄する一方だもんね。近隣からは人がどんどん入ってくる一方で出ていくことはないからね」とアイユーブが答える。


「そういうことだ。サロニカ辺りから仕入れてきてくれよ」


「分かりました。何とか考えましょう。でもこの船では積載量が足りませんでね。ご期待に添えないかも知れません」


「お前たちが持ってきたカラベル船をやるからそれを使えば良いよ。水夫たちも食料も3ヶ月分あるし、しばらくは問題ないだろう」


カーミルが即答した。


「どうも有難うございます。早速使わせていただきます」


後書き

3日の航海を経てイズミルで絨毯を処分し約2倍の値で11.16ドゥカートを得、フォケーアでは鉱夫に綿織物を売って利幅を重ね、明礬100荷の受取りと1,000荷積みカラベルの回送依頼を取り付けてキオスへ——初動の資金繰りと航路設計が噛み合った。

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