第3話 審判

 重い空気が張り詰めるギルド会議室。

 今日は特別に扉が開かれ、ギルドホールに集まった冒険者たちが傍聴できるようになっていた。

 俺の処遇と、元仲間たちの罪を見届けるために。


 ボッズ、マリー、バトン、アンナ――そして俺。

 四人は死人のように青ざめ、俺はただ静かに彼らを見ていた。


 ギルド長が厳しい声で告げる。


「マッジの証言、君たちの証言は食い違っている。その内容は冒険者としての信義を揺るがす重大事案だ。このままでは、公正な判断ができん。よって審判魔法を行使する」


 ギルド長の合図で、審議官は静かに進み出る。

 手を掲げるとふわりと淡い光が立ち上がり、俺たち全員の頭上に小さな光球が浮かんだ。


「真実なら青、虚偽なら赤。答えはイエスかノーのみ。異論は認めぬ」


 冒険者たちのざわめきが会場を揺らす中、質問が始まった。


「君は男性か?」――青。

「君は今朝、朝食を食べたか?」――青。


 当たり障りのない質問で空気を慣らしたのち、ついに核心に迫る。


「君はマッジを嫌っているか?」

「…ノー」――赤。


 赤く光った瞬間、背後から「やっぱりな」「ほら見ろ」と声が飛ぶ。

 ボッズは額に汗を浮かべ、必死に視線を逸らした。


「マリー、君はマッジの女か?」「…イエス」――青。

「マリー、君はマッジと結婚の予定があったか?」「…イエス」――青。

「マリー、君はボッズの女か?」「…ノー」――赤。


 真紅の光が、彼女の震える声を否定する。

「嘘つき女め」「結局利用していただけか」「ビッチが」――冷笑が浴びせられ、マリーの涙は止まらなくなった。


「ボッズ、君はマッジを襲ったか?」

「ノ、ノーだ!」――赤。


「バトン、アンナ、君たちはその事実を知っていたか?」

「「…ノー」」――赤。


「マリー、君はマッジの死を望んだか?」

「そんなこと……ない!」――赤。


 赤い光が無情に真実を暴き続ける。


 そして最後に問われた。

「君たちは負傷させたマッジをモンスターハウスに放置したか?」

「「「「…ノー」」」」――赤


 俺も同じような質問をされたが、全て――青。

 もはや誰も庇う言葉を紡げない。

 背後にも、確信めいた空気が広がった。


 審議官の声が響く。


「全ては明らかとなった。マッジは被害者であり無実。ボッズ、マリー、バトン、アンナはパーティーメンバーへの殺人、虚偽報告を罪に問う」


 絶望に染まる四人。

 審議官がギルド長へ視線を送る。


「では裁定を」


 一礼すると、ギルド長は冷徹に告げた。


「ボッズ。主犯として冒険者登録を抹消。賠償金を命じ、重犯罪奴隷として鉱山労働に従事せよ」


「ふざけるな!俺は悪くない!こいつが!マッジが弱いから――!」

 椅子を蹴り上げ暴れようとするが、警備兵にねじ伏せられる。

 観衆からは嘲笑と罵声が浴びせられた。


「バトン、アンナ、マリー。共謀者として冒険者登録を抹消。賠償金を命じ、財産を没収、不足分は借金奴隷として償え」


「いや…!私は違うの!ボッズが勝手に――!」

 マリーの泣き叫ぶ声も、頭上の赤い光が無慈悲に否定した。

 彼女の必死の抗弁は、冷ややかな空気の中で誰にも届かない。


「全員が加担していたことは魔法により示された。責任は逃れられぬ」

 審議官は冷徹に言い放った。


 四人は罪人として連行されていく。

 背後からは「ざまぁねえな!」「二度と戻るな!」という罵声と拍手が混ざり合った。


 ギルド長は俺を見据えた。


「マッジ君。君は不当に扱われた。この件の賠償金は全て君に支払われる。審議官の報酬とギルド手数料を差し引いても相当な額だろう。今後はソロでも、新たな仲間を探してもいい。選ぶのは君だ」


 俺は一度だけ、連行されていく彼らの背中を見た。

 だが、胸に湧き上がったのは怒りで哀しみでもない――ただ、決意だった。


「…俺は、ソロで活動します」


 そう告げ、会議室を出る。

 手にした賠償金の書類はずっしりと重い。


 これで武器を揃える。

 もっと強くなる。

 誰の助けもいらない。


 ――俺の新しい冒険が、今始まった。



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