皇帝の調色師 昇龍を白は彩る

干野ワニ/角川文庫 キャラクター文芸

「なんだよその白い衣。今日もまた誰か亡くなったのか?」

 そう言ってさいぎよくの着る衣を笑った少年は、鮮やかな朱色のほう(上衣)を着ていた。それはじようげん節のめでたい席にふさわしく、初春の庭にいろどりを添えていた。

 この正月で八つになったばかりの彩玉は、真っ白なくん(スカート)をぎゅっと握りしめ、必死に返す言葉を探した。だが自ら『白』を嫌っている彩玉に、反論など思い浮かぶはずもない。

 すると隣にいた少女が、先に不満げに声を上げた。

「ちょっとさんにい! 彩玉ははくだから、れいは白に決まっているでしょ」

「でも白って普通は喪服だろ?」

 意地の悪い薄笑いを返す少年へ、少女はこぶしを振り上げた。の子を散らすかのように、少年とその仲間たちは逃げてゆく。

「彩玉、うちの三兄がごめんね。その白い礼衣、清らかでとってもすてきよ」

 そう微笑んだ少女は、真っ赤な晴れ着をまとっていた。午後の明るい陽光が、あかを縁取るきんしゆうをきらきらと輝かせている。

「……ありがとう。あなたのあかい礼衣は華やかで、今日も本当にきれいね」

「ふふ、ありがと。朱色って、ちょっと派手すぎる気もするんだけど」

 けんそんしつつも、しゆの少女は誇らしげに裙の脇を持ち上げる。冬枯れの白い庭園に、大輪の朱たんが花ひらいた。

 その屈託のない笑みの輝きが、いっそう彩玉の心に影を落とす。

 なぜ自分は、白氏なんかに生まれたのだろう。白氏に生まれたばっかりに、こんな祝いの席ですら、いつも地味な白い礼衣をまとわねばならない。

 ──私ももっと、きれいな色の礼衣を着たかったのに……。


 はくは葬式を表し、白忙むだぼね白眼けいべつ白吃くいにげ白費むだづかい──『白』には、ろくな意味がない。

 悲しくて、悔しくて、うらやましい。

 もっと、もっときれいな色が──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る