#小説に諸説あり

αβーアルファベーター

第1話 呪いの小説

◇◆◇


深夜二時。

佐久間蓮はベッドに寝転びながら、

スマホの画面を指先でなぞっていた。大学の課題に追われているわけでも、友人と連絡を取っているわけでもない。行き場のない眠気と退屈を持て余し、怪談系の掲示板を漂っていただけだった。


そのとき、

不意に目を引くスレッドが現れた。


「読むと死ぬ小説【小説に諸説あり】」


タイトルを見た瞬間、

背中に薄ら寒いものが走った。

こうした与太話は珍しくない。

だが、なぜかこのスレには異様な引力があった。


スレを開くと、

最初のレスに短くこう書かれていた。


> 「気をつけろ。必ず

 #諸説あり が付いてるはずだ。」




それに続く書き込みは断片的で、

どこか狂気じみていた。

 「友達が読んで消えた」

 「小説はネットの奥底にある」

 「舞台は実在するらしい」

 「読んだら最後まで読むな」


蓮は半信半疑でスクロールし、

やがて貼られたリンクを見つけた。


開くかどうか、一瞬迷った。

けれど理性よりも好奇心の方が勝った。


タップした瞬間、

画面が真っ黒になり、

白い文字が浮かび上がる。


――これは実在する場所を元にした小説である。

――諸説あり。


蓮の喉がひくりと鳴った。

ページを下へ送ると、

支離滅裂な文章が続いていた。

「赤い橋」「鏡の部屋」

「消えた人影」……どれも意味のない断片のようで、

奇妙に心に引っかかる。


そして最後に必ず付けられているタグがあった。


#諸説あり


蓮は画面を閉じた。

閉じたはずだった。

だが数秒後、

再び勝手にブラウザが開き、

同じ小説のページが表示された。


心臓がどくん、と強く脈打つ。

そのときふと気づいた。

ページの冒頭に、

小さく追加された一文がある。


――⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎へ。


蓮は思わずスマホを取り落とした。


暗い部屋の中、

液晶の光だけが淡く床を照らしている。

画面にはなおも文字が浮かび続けていた。


――次は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だ。

――諸説あり。




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