俺が魔法少女を堕とす触手怪人になった件

テンタクル マスター

第1章 堕天したち (Fallen Stars)

第1話 喋る石

俺はソファでぼーっとしながら、ニュースで魔法少女がインタビューされているのを眺めていた。真剣に見ていたわけではなく、半分寝ぼけていたようなものだ。フリフリのカラフルな衣装を着た少女たちが、マイクに向かって楽しそうに何かを囀っている。くだらねぇ。


視線がドアに向かうと、そこにはパンパンに膨らんだゴミ袋が二つ。そうか。ゴミの日か。


俺はため息をつき、テレビも消さずにソファから身体を起こした。ゴミ袋を掴み、ひんやりとした夜の空気の中へ足を踏み出す。月は高いビルに隠れ、辺りは暗かった。

ふと空を見上げると、一つの影が夜空を横切っていく。また魔法少女だ。一体何をやってんだか。


金属製の階段をガタガタと下り、ゴミ袋をコンテナに放り込む。アパートに戻ろうとしたその時、微かなきらめきが目に入った。すぐ隣にある、真っ暗な路地裏からだ。もう一度、闇の中で何かがチカっと光った。


嫌な予感がしたが、退屈していた俺は好奇心に負けてしまった。その光の方へ、そっと路地裏に忍び込む。


ゴミ箱の上に、そいつはあった。血のように赤い筋が走る、黒い目玉のような宝石。金属の鎖につながれている。

心臓がどくんと跳ねた。俺は手を伸ばし、それをひったくる。首にかけると、鎖の冷たさが肌に伝わった。


宝石を手のひらに乗せる。魂の奥底まで見透かされているような気分だった。俺は慌ててそれをシャツの下に隠した。


その時、声が頭の中に響いた。深く、厳かで、古めかしい声だった。

『ほう…貴様が我の新たな主か』


「うおっ、喋る石だと?」

俺は思わず呟き、ペンダントを再びシャツから取り出して見つめた。


宝石は手のひらの上で冷たく、ただ黙っている。表面は黒いが、中心にある赤い目玉のような模様が渦を巻いているように見えた。

声は耳からではなく、頭蓋骨の内側に直接響いてきた。

『我はただの石ではない、人間よ。我は武器。そして今、貴様のものとなった。貴様に素質を感じたゆえ、選んでやったのだ。その矮小で哀れな世界に対する、深い不満という素質をな』


声はそこで一度途切れ、まるで俺を品定めしているかのようだった。

『見えるだろう? 魔法少女どもが。実に清く。実に正しく。万人に愛されている。その反吐が出るほど甘ったるいヒロイズムに、嘔吐感を覚えはしないか?』

宝石の赤い核が一度だけ、俺の心臓の鼓動と同期するように、深く脈打った。


「ああ、それがどうした?」俺は肩をすくめて言い返した。「別にアイツらに嫉妬してるとか、喧嘩を売りたいとかじゃねえよ」そして付け加える。「それに、俺を魔法少女にしようなんて考えるなよ。俺は男だ、このクソ石が」


冷たく乾いた笑いが、頭の中に響いた。それは音ではなく、純粋な、相手を見下した愉快さの感覚だった。

『魔法少女になるだと? 愚かな人間め。その単純な脳みそは、最もありきたりで哀れな結論に飛びつくな。なぜ貴様が、あのような退屈で甘ったるい光の器になりたがる? ……否。我の目的は、はるかに面白い』


宝石が再び脈打ち、見えない指が俺の思考をふるいにかけるような、探るような奇妙な感覚がした。

『どれ、見せてもらおうか…博人いろと、年齢二十九。無職。このガラクタ部屋で一人暮らし。そして貴様の最も深い欲望は…ほう、これは実に哀れだな。金でも名声でもない。ただ、女に、どんな女でもいいから、憐れみ以外の目で見られたい、か』

『ただ必要とされたい。この惨めな人生で、何か一つでもいいから支配する力が欲しい、と』

声に同情の色は一切なかった。ただ冷徹に、確定事項として事実を述べているだけだ。

『我は貴様を英雄にするために来たのではない。貴様が真に望むものを与えにきた。力をやろう。奴らをくれてやろう! 英雄としてではない。貴様の玩具として。喜んで堕ち、お前に仕える、従順な下僕としてな』


「へっ、お前も大概な性格してんな、このクソ石」

俺は悪態をついたが、本気で怒ってはいない。この状況自体が、あまりにも奇妙すぎたからだ。

「わかったよ。俺のことは全部お見通しなんだろ。お前のくだらないゲームに乗ってやる。ちょうど退屈してたところだ。で、次は何だ?」


俺の頭の中で、宝石が満足げに喉を鳴らすような、低い振動が感じられた。

『退屈…上出来だ。この「くだらないゲーム」が、実に…面白いものだとすぐに分かるだろう』


突然、手のひらの宝石が熱を帯び、脈打つような熱が腕を伝って広がった。

『ゲームの開始だ』声が命じる。『近くに一匹いる。新人だ。パトロールを終え、自分は一人きりだと思い込み、街の灯りを浴びながら自己陶酔に浸っている』

鋭く、的確な情報が脳内に流れ込んできた。

『名は青山美姫 (あおやま みき)』宝石の声が説明する。『自らを魔法ハートプリンセスと名乗っている。奴の最も深い欲望は、名声だ。ただ英雄になりたいのではない。スーパースターになりたいのだ。グッズ、トークショー、全世界が自分の名を叫ぶこと。奴の善行など、その虚栄心を満たすための踏み台に過ぎん』

『奴はヒマワリ百貨店の屋上にいる。ここから東に二ブロックだ。行け。対峙しろ。この街に新たな力が生まれたことを、奴に見せつけてやれ』


宝石の熱が強まり、今まで感じたことのない力が筋肉に宿るのを感じた。

「はいはい」俺はため息をつき、宝石が導く方角へ歩き始めた。「で、そいつを見つけたらどうすんだ? 話すのか? 殴り合いか? アイツら、力を持ってるんだぞ」


『奴の力など子供の花火よ』宝石が頭の中で答える。『やかましくて派手なだけで、貴様が今手にした力の前では無力。恐れるな。恐れるべきは、奴の方だ』


前方にヒマワリ百貨店が見えてきた。その陽気なヒマワリのロゴが、暗闇の中では不気味にさえ見える。

建物の側面に鍵のかかった通用口を見つけた。ドアノブに手を伸ばすと、宝石が脈打つ。カチリと音を立てて錠が開いた。


『作戦を授ける』声が指示する。『まず、奴の幻想を打ち砕け。我の教えた情報を使え。奴の本名と、その哀れな名声欲を。魔法少女の最大の強みである匿名性を剥ぎ取ってやれ』


暗い倉庫を抜け、コンクリートの階段を上る。いつもは怠惰でなまった身体が、慣れない軽やかさで動いた。

『奴の心が折れれば、魔法の力も弱まる。そうなれば、あとは制圧するだけだ。殺すなよ。奴は…作り変えれば、我々にとってより価値あるものになる。拘束する手段は我がお前に与えよう。貴様がただ…望めばいい』


階段の最上部にある重い扉を押し開け、砂利の敷かれた屋上に出る。眼下には街の光が広がっていた。

そして、彼女はそこにいた。


魔法ハートプリンセスが、俺に背を向けて屋上の縁に立っていた。その衣装はピンクと白のフリルでごてごてと飾られた、馬鹿げたデザインで、スカートはほとんどないに等しい短さだ。鮮やかなピンク色の長いツインテールが、夜風に揺れている。

「ああ、また一つ、罪なき人々を守ってしまったわ…」彼女は映画の女優のように、街を見下ろしながら芝居がかったため息をついた。「ヒーローの重責は大きいけれど、笑顔で背負ってみせるわ!」

彼女は俺に気づいていない。


俺の口元に、にやりと笑みが浮かんだ。内側から湧き上がる力に、自信がみなぎるのを感じる。

「ずいぶんとご満悦だな、美姫? それとも、ハートプリンセス様とでもお呼びした方がいいか?」


少女は、まるで平手打ちでも食らったかのようにびくりと震え、全身が硬直した。

ゆっくりと、彼女が振り返る。その顔は無垢を装った仮面だったが、今や急速にひび割れている。頬から血の気が引き、その視線は俺の顔と胸の黒い宝石との間を行き来し、恐怖と信じられないという表情が混じり合っていた。

「なっ…なんで、私の名前を…?」彼女はどもりながら一歩後ずさった。「だ、誰なのよアンタ!? 近寄らないで!」


彼女はハート型のワンドを構えようとしたが、その手は震えていた。ヒロイックなポーズは消え失せ、ベッドの下の怪物が実在し、しかも自分の名前を知っていると知った子供の、生々しい恐怖に取って代わられていた。

「急に自信がなくなったな、おい。さては新人か?」俺は口に出して言った。そして頭の中で尋ねる。「おい、クソ石、次はどうする?」


胸の宝石は言葉で答えなかった。ただ、どくんと邪悪なエネルギーで脈打った。

びちゃり、と肉が裂けるような生々しい音が背中で響き、奇妙で不自然な圧迫感を感じた。

ぬらぬらと黒く輝く四本の触手が、俺の背中から突き出した。それらは肉ではなく、微かに赤い光を放ちながら蠢く、固形の影のようなものだった。


魔法ハートプリンセスは、喉が詰まったような、恐怖に引きつった悲鳴を上げた。それは戦闘の雄叫びではない。本物の化け物を初めて目の当たりにした子供の悲鳴だった。

「け、化け物っ! な、なんなのよアンタはっ!?」


彼女は後ずさり、自分の足にもつれて屋上に無様に転んだ。フリルのついたスカートがまくれ上がり、ピンク色のパンツが丸見えになる。彼女は涙と恐怖でぐちゃぐちゃになった顔で慌ててスカートを直し、震えるワンドを俺に向けた。その先端に、ちっぽけなピンク色の光が集まり始める。

「は、はーとふる…しゃ、シャインっ!」

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