【完結】現代日本でJK転生した異世界の騎士様、前世で恋仲だった姫君と再会する。その姫が俺
マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)
第1話 姫と騎士、運命の再会
「……姫、お久しゅうございます。わたくしです、専属騎士のエリオットです」
眼前で跪くのは、長くて黒い髪の麗人。その髪が地面に触れるのも構わず、その人物はこちらの手を取り、こう続けた。
「お待たせして申し訳ありません。ですが、こうして再び出会えたことを、心より嬉しく思います」
整った顔立ち、凛々しい表情。そんな人物が、目の前にいる。
「かつて、わたくしはあなた様を守り切れず、添い遂げることがついぞ叶いませんでした。……ですが、今度こそ。あなた様を最後までお守り致します」
そしてその人物は、こちらの手の甲に顔を近づけ、告げる。
「死が二人を分かつまで……いえ分かつとも。変わらぬ忠誠を、あなた様に捧げます」
その人物は、こちらの手の甲に口づけをした。まるで騎士が主に忠誠を捧げるかのようなその仕草は、傍から見ればさぞかし絵になっただろう。まるでアニメか漫画のワンシーンだ。
「今生でもよろしくお願い致します、姫」
「……な」
その人物の自然な動きに流されてしまっていたこちら―――俺は、正気に戻って声を絞り出す。
「? 姫、如何されましたか?」
「姫って呼ぶな……! 俺は男だ……!」
そう、俺は男である。確かに名前は
「何を仰るかと思えば……あなた様は間違いなく、カルステン王国第三王女、ミリアーナ・スン・カルステン姫君です。今の性別なんて関係ありません」
「知るか! なんだお前、頭電波受信してんのか!? 中二病は中二で卒業しとけ!」
「中二病ではありません、姫。わたくしをお忘れですか? あなた様の忠実なる騎士にして、前世で愛を誓い合った男、エリオット・ワーレンですよ」
「いや、男って……」
叫び散らす俺に対して、冷静なトーンを乱さない中二病患者。そいつの発言に、俺はその人物―――彼女を見やった。長くて艶やかな黒髪。整った綺麗な顔立ち。すらりと長く、それでいて明らかに男には存在しない膨らみのある体。そしてその身を覆うのは、この学校指定の女子用制服。どこからどう見ても女である。これで男を名乗るのは無理がある。いや、某国民的漫画にそんな感じのキャラがいた気がするが……中二病じゃないならトランスジェンダーか?
「……確かに、わたくしも最初は戸惑いました。かつて姫と引き離され、姫を誑かしたという理由で極刑になったと思ったら、この体に意識が宿っていました。この世界では「異世界転生」と呼ばれる現象でしょう。ですが、性別なんて関係ありません。いいえ、姫が男性の体に宿っていらっしゃるのであれば、むしろ好都合でしょう。身分制度もないこの社会であれば、今度こそ添い遂げることが叶うのですから」
立ち上がり、胸に手を当て、堂々とした佇まいでそう宣う騎士様(自称)。……確かに異世界転生はここ最近の流行、というか最早定番であるが、実際にしましたとか言われても中二病としか思えない。
「……大体、何で俺がその、ミリ何とか姫だって思うんだよ? 女に間違われるような見た目はしてないぞ」
中二病患者の戯言は一旦置いておくとしても、俺が姫呼ばわりされるのだけは納得出来ない。俺はどこにでもいる普通の男子高校生だし、女に思われるような容姿はしてない。名前を知っていれば渾名に思い至ってもおかしくないが、この女は初対面だから俺の名前を―――ミリ何とかはともかく―――知らないはずだ。何を思って俺を姫役に据えたのか。もっと女顔の奴を選べよ。
「見た目など関係ありません。この魂が、あなた様がミリアーナ姫であると訴えているのです」
「話にならねぇ……」
しかし、こいつにとって見た目はどうでもいいらしい。ここまで話が通じないと、俺には手に負えない。
「ともかく、俺はその何たら姫じゃない。他を当たってくれ」
「あ、姫……!」
付き合ってられない。俺は彼女に背を向けて、校舎へと歩き出す。……今までこの問答は、校門の前で行われていた。登校してきて校門を潜ろうとしたら、こいつに声を掛けられて、あの展開になったのだ。お陰で、他の生徒から注目されてしまっている。
「お待ちください姫……! わたくしもご一緒します……!」
「ついて来るな! 自分の教室に行けよ!」
そんな俺の後ろを、自称騎士様がついて来る。まさか教室までついて来るつもりか……? こいつが何年何組かは知らないが、少なくとも同じクラスにこんな女はいなかったはずだが。
「……分かりました。では、後ほど」
しかし、彼女は昇降口のところで、意外なくらいあっさりと別れてくれた。何だったんだ……?
「ったく……」
何はともあれ、迷惑電波中二病女は去った。俺は自分の教室へと向かうのだった。
「突然ですが、このクラスに転校生がやって来ました」
「……マジか」
朝のホームルームにて。担任教師が、開口一番にそんなことを言い出した。その隣にいる生徒を見て、俺は頭痛を堪えるので精いっぱいだった。
「では、自己紹介をお願いします」
「はい。……わたくしの名前は岸辺絵里。父の仕事の都合で、この町に引っ越してきました。皆さん、よろしくお願い致します」
担任の隣で綺麗なお辞儀をしているのは、今朝校門で出会った自称騎士様。まさかの、同じクラスに転校してくるパターンである。
「はい、ありがとうございます。岸辺さんの席は、窓側一番後ろに用意しておきました。姫野君、お隣さんですから、色々助けてあげてくださいね」
「げ……」
担任の言葉に、俺は思わず呻いた。……いや、確かに違和感はあった。うちのクラスは机が6×6で並んでいる。しかし人数が35人なので、1つ余る。故に、窓際一番後ろの席は今まで欠けていたのだ。そして、その1つ廊下側の席に座るのが俺だ。故に、今までは左隣のスペースが空いていた。だが、今朝教室に来た時、その空白のスペースに何故か机が置かれていたのだ。まあ転校生が来るのかもしれないとは思っていたが、まさかあの中二病女とは思わなかった。
「よろしくお願いしますね、姫」
「姫呼び止めろ」
隣の席に着いた自称騎士様、もとい岸辺は、ニコリと微笑みながら相変わらずの姫呼び。お近づきになりたくないと思っていたのに、まさか隣の席になるとは……。
「では、学校では姫野君と呼ばせて頂きますね」
「……」
凛々しくも可愛らしい、文句なしの美少女。そんな転校生が隣の席になるなんて、普通に考えたら相当ラッキーなシチュエーションなのだが……今の俺には、運命を呪うことしか出来ないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます