転生したら、女勇者たち専用のMP電池(奴隷巫女)にされてしまいました。
八塚みりん
第1話 奴隷巫女
「永い眠りから覚めてください」
女性の声で、意識を取り戻した。そこには何もなくて、ただ真っ白だ。
白い服の神秘的な女性が目の前にいた。白い髪は床まで届きそうで、身体の前で手を組んだまま、ずっと目を閉じている。
「わたくしは女神イア。あなたは命を無くし、ここにやって参りました。当時存在した消失前人格の中で最も高い適合率を示した巫女候補であったため、死後わたくしの世界へ魂を取り寄せることとなりました」
死んだ……? そうだ、確かあの台風の日、落下する看板から女の子を助けようとして……
思えば平凡な学生のまま、結局何も手にせず死んでしまったってことか。無念だ。
「あなたは人格……いわば魂のような状態でここに存在しています」
確かに、思考だけがあって、自分の手足や身体は見えなかった。実体がないのに視覚や聴覚だけがあるような、不思議な感じだ。
「こちらがあなたの、次の器です。以前とは生物学的性が異なるとは思いますが、適合しているので問題ありません」
女性のすぐ隣に、まるで水の中に浮いているように、もう一人の女性が現れた。
その女性は長いウェーブの薄桃髪で、一糸まとわぬ肌は白く、傷一つなかった。
女性らしい、かといって太過ぎない曲線的な肉付きをしていて、胸は一般的な女性より少し大きく、それでいて腰は綺麗なくびれを見せていた。
顔立ちは、美しくもどこか幼さを残していて、長い睫毛と小さな鼻、ぷっくりとした唇は、思わず見とれそうになる、人形のように美しい造形だった。
「わたくしの世界は、復活した魔王の侵略により危機に瀕しているのです。既に多くの国々が滅ぼされています。そんな状況を打破するため、あなたにはわたくしの世界で、この器に入って巫女となっていただきます」
転生させてくれるってことみたいだけど、なんだか危ない世界みたいだな。
器って、その女性の身体に入るってことか? ……それに、巫女だって?
「巫女とはわたくしの力を他の英雄に橋渡しする、いわば媒介者です。この役目は女性にしか務まりません」
俺は男なんだけど。巫女なんてできるわけないだろ。
「誰よりも適合しており、問題ありません。そして、自身の性別や、出自をほのめかすような発言は、わたくしの世界では控えるようおすすめいたします。大変なことになりますので」
問題ありありだよ、何でもかんでも勝手に決めて! 元の世界に生き返らせることはできないのか?
「新たな生を迎えられることは、一握りの幸福です。傲慢になり過ぎませんよう。さあ、こちらに。器にあなたの人格を注ぎましょう」
女神が手のひらを差し出すと、自分の身体……いや、実体のない魂が、ボールのようにその上に引き寄せられるのを感じた。そして、女神はその手をそのまま女性の胸に当て、俺自身をぐっとその胸に押し込んだ。
うわああぁぁっ!?
近づくにつれて視界一杯を女性の胸が覆う。まるで自分が小人になって、巨大な女性の身体に押し付けられているかのようだ。
「あなたはわたくしの世界で、最もわたくしに近しい存在。娘同然です。どうか、その旅路が幸福に満ちたものでありますよう」
女神のその言葉を最後に、俺は意識を失った。
「ん……」
次に目を覚ました時、俺は大きな魔法陣の真ん中に仰向けで横たわっていた。魔法陣は小さないくつかの炎に囲まれていて、それぞれの炎の下に、ローブを目深く被った怪しい奴が一人ずつ立っていた。
身体を起こすと、胸の辺りがたゆん、と揺れるように重く動き、遅れて重心が前へと傾く。視界に映るふんわりとした薄桃の髪が見える。肌の色は光を受けて眩しいくらいに反射する白色だ。
「この身体……!」
聞き慣れない、高く綺麗な声が、間違いなく自分の口から頭に響いた。
間違いない。先ほど女神に見せられた、あの美人の身体だった。
白く細い手は思い通りに動き、態勢を変えれば白い胸が遅れてたゆたゆ揺れ動き、長い髪がさらさらと肩や背中を撫でる。
思わず股間に手を伸ばせば、引っかかるはずのものは無くなり、平たくなってしまっていた。
本当に、間違いなく、自分の身体があの美少女の身体に変わってしまっている。
取り返しのつかなさのようなものを感じて、冷や汗が噴き出してきた。
「成功した……”奴隷巫女”だ」
「やったぞ。これで我々の世界は救われるかもしれない!」
「美しい。奴隷巫女にうってつけの身体つきじゃ……!」
全裸の身体を四方八方からじろじろと見られて、何やら評価されている。
奴隷巫女って何のことだ? 女神はただ、巫女としか言わなかったぞ?
なんか嫌な予感がするんだが……
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