勝利を目指す

 ローレライの能力を理解したエルクリッドは深く息を吐く。ローレライの白い煙が攻撃の布石となり移動範囲となるなら、いかにそれを維持していけるかが課題となる。


(今のあたしの手持ちにローレライと相性がいいカードはほとんどない、というかわからないな。あの光の攻撃も魔力もすごく使うし、ここから勝つには考えないとね)


 魔獣故にどのカードと適性があるかわからず、能力行使のために使われるリスナーの魔力も多くエルクリッドの余力はない。その中でも冷静沈着にシリウスとバロンに勝つ方法を模索し、どのカードをいつ使うのか、シリウスはどう動くのか、集中力を研ぎ澄ませて行く。


 対するシリウスはエルクリッドのそうした姿勢を感じ勝利を譲るべきかとも思えども、真っ直ぐな彼女の目や態度に対しそれは無礼と感じカードを引き抜いた。


「ホーム展開、獅子王の陵墓」


 何もない場所に形成されていくのは大きな獅子の頭持つ騎士が鎮座する彫像が祀られた舞台。獅子王の陵墓呼ばれるかつて存在した遺跡を再現するもの。


 エルクリッドも知るそのカードからシリウスの狙いがドラマにあると読み、彼がいつそれを仕掛けるかを考えつつカードを抜く。


(獅子王の怒りってドラマがあったよね……発動条件は手傷を追った状態のビーストハート対応アセスがいて、ビーストハートを使用済みで同じ条件の対応ツールを装備してるアセスがいる時だったはず。で、まだバロンは傷はないけど、一発で決めなきゃ反撃される)


 ボックの街にてたまたま寄った本屋にて見つけたリスナーの教本に書いてあった事を思い返しつつ、エルクリッドは残り魔力と手持ちのカード、シリウスが構築してくるであろう戦術の想定をし勝負をかけに行く。


「スペル発動アースバインド!」


 まずは基本となる足止めからエルクリッドは取り掛かる。陵墓の石畳を割って伸びる木の根の拘束を避け、絡め取られても力で引き千切るバロン相手には有効打とならないのは想定内、シリウスに動きはなくエルクリッドは心を通してローレライへ意思を伝え、白い煙をヒレから吹き出しながらとぐろを巻いたローレライの姿が煙へ消える。


「スペル発動ウインドボルト」


「ツール使用魔除けのランタン!」


 煙を吹き飛ばさんとするシリウスに対しエルクリッドが魔除けのランタンを使い、落下し壊れたランタンから弾け飛ぶ火がウインドボルトの風をかき消す。

 その間に白い煙はより厚みを増して足下に充満し、その中を素早く蛇行しながらローレライは泳ぎバロンへ迫る。


 次の瞬間にバロンが後ろへ飛びつつ陵墓の壁へ爪を突き立て張り付き煙の外へ逃れ、だがローレライも垂直に壁に沿って身体を伸ばし一気にぶつかって強引にバロンを壁から引き剥がし、しかし空中を蹴るようにバロンは体勢を変えるとローレライの身体に爪を立てそのまま押さえつけつつ身体を潰す。

 

 刹那にローレライが潰された場所を起点に身体を丸め始め、咄嗟に離れたバロンだったが素早く身体を伸ばすと共に上の方へと飛んだ白い煙が身体に触れ、ローレライの口が開き赤い光に照らされる。


「ツール使用獣王の鎧!」


 身体へ素早く装着される鎧ごとローレライの光がバロンを焼き尽くし、火だるまとなって落下ししばし燃え続ける。が、すぐに炎は振払われ極彩色の鎧を全身に纏って勇ましさを増したバロンが姿を見せ、シリウスが反撃へと繋ぐ。


「ドラマ展開、獅子王の怒り!」


 陵墓の彫像の目が光ると共にバロンが高らかに咆哮し、赤き光の獅子王の影を纏いドラマが展開する。

 発動されてしまったドラマを前にエルクリッドは額に汗を流しながらも、ローレライがまだ戦える事や己の魔力もまだ尽きてないと感じ声を飛ばした。


「ローレライ! 登って!」


 壁の凹凸を利用しローレライが登った先にあるのは目を光らせる彫像。バロンが足に力を入れて飛びかかろうとしたが寸前に止まり、それにはシリウスも舌を巻きつつも冷静にカードを切る。


「獅子王の怒りの攻略法を見抜く、か。しかし彫像を壊さねば意味はない、スペル発動アースチェーン」


 彫像に絡まるように止まるローレライへシリウスがスペルを発動し、何処からともなく伸びてくるツタがローレライを締め付け動きを封じ込めた。と同時にバロンが助走をつけて走り出し大きく跳び、壁を駆け上りローレライにトドメを刺しに向かう。


 勝負が決まる瞬間、その場にいたエルクリッド以外は目を疑った。突然バロンの位置がローレライと入れ替わり、アースチェーンにより拘束されていたのだから。


「スペル発動ゴーストップチェック、拘束されているアセスと動いているアセスの位置を入れ替えさせてもらったよ!」


 条件付きの位置を入れ替えるスペルに使用にシリウスはやや目を大きくし、勢いがついていた分すぐに止まれないバロンを誘ったのだと悟ると同時に、ローレライがいた事でバロンの身体が白い煙の中にいる状態と気づく。


 刹那にローレライが口を開いて赤い光を放ち、間もなくバロンごと陵墓の彫像が焼き切られ粉砕された。


(このシリウスがアースチェーンを使わねばゴーストップチェックは不発のままだった。そうなれば勝敗はまた変わっていたろうが……いや、これは純粋に勝利を目指したものの勝利、だな)


 崩れ行く陵墓と共に落ちてくるバロンが炎の中で燃えながら立ち上がるも静かに沈み、その反射による痛みと衝撃が襲う中でシリウスは小さく笑みを浮かべながら片膝をついて軽く血を吐き出す。


 最後の最後までエルクリッドは勝利を目指していた。その思いの強さは、シリウスに妹スバルの面影を感じさせていた。

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