繋がる思いーSiriusー
あたしはあたし
それは欠片から生まれた。
それは生まれ歩き出す。
やがて精霊と呼ばれたもの。
やがて魔獣と呼ばれたもの。
何処から来て何処へ向かうのか。
生命を持つものと同じなのか。
生命を持つものと違うのか。
ーー
浮遊城アリアンでの戦いから四日が経過し、エルクリッド達は地の国ナーム北部の街ボックへ訪れていた。
エタリラ最大の農耕地帯であり、安定した気候や土地柄から保養地として街は機能している。
この場所は各々の土地主が専属のリスナーを雇っているのもありリスナーが仕事として訪れるような場所ではなく、それ以外の者達がゆっくりと流れる時を過ごす為の場であり、エルクリッド達も休息目的の為に訪れ穏やかな時の中を過ごす。
柵で囲われた牧場を進み歩きながらのんびりと過ごす家畜の姿をエルクリッドは見回り、ゆったりと流れる時間の中で一人でいた。
(一人でいるのも、なんか久々……あ、ヒレイ達はいつもいるけど)
(確かに仲間と共にいた時間が多かったからな……タラゼド殿の言うようにこういう時間は必要だろう)
心で対話するヒレイの言葉を聞いてエルクリッドは宿でのやり取りを思い返す。ヒレイ達エルクリッドのアセスが戦えない状態であるのや、十二星召ハシュから浮遊城アリアンから得られた情報解析などにまだかかるという連絡を受けたのもあり、各々自由時間で過ごすという形となった。
その間にエルクリッドは伯父であるシリウスと会う為にエルフの持つ言語存在復元を利用する為に、またたまには一人で過ごすという目的の為にこうして出歩いている。無論カードに宿るアセス達は常にいるが、今は新しくアセスとなった魔獣ローレライもいて少し騒がしい。
(エルクリッド! なんなんですかこいつは! 新人なのに麗しのエルクリッドに甘えまくって……!)
(気にしないでくださいエルク。いつもの戯言です)
(戯言とはなんですか! そもそも僕よりずっと昔からいたとかなんとか……!)
ギャーギャーと一人騒ぎ立てる
(お母さんがあたしを守る為に概念化して……あたしの思いを食べながら育ったんだよねローレライは)
心の中で呼ばれたローレライが振り向きながら半透明の身体の光を点滅させて意思を伝える。しかしリスナーの力があっても具体的な言葉としてではなく、感情の強さとしてしかわからない。
ただ恐るべき力とは裏腹にローレライは穏やかで幼いらしく、ヒレイらとも仲良くしたいのか自ら寄っていき、セレッタ以外とは挨拶を終えているのはエルクリッドにも伝わる。
(セレッタ、ローレライと仲良くしないと追い出すよ?)
(む、むむむ……そう言われてしまっては、新人のことは、認め、ます)
渋々といった様子でローレライの近づける鼻先に軽く触れて一応挨拶をセレッタは済ませ、それをエルクリッドが感じ終えると改めて言語存在復元を利用してシリウスを招く方法を思い返す。
(エルフにとって言葉や思いは魔法と同じ、それが魔獣を作り出したりできるって話で、会いたい人の事を思えばそれを叶えられる……か)
エルフ族の事は名前は知られども詳しい事はエルクリッドもよく知らない。タラゼドも言語存在復元の理屈は知っていたが、何処まで応用できるのかはわからないという。
だがエルフ同士ならば、血の繋がりもあるならできるであろうという可能性は見出しており、エルクリッドも何となくではあるができる予感があった。
穏やかな空気に包まれ優しい風が吹く中でエルクリッドは目を閉じて右手を胸に当てる。思い描くのはシリウスとの出会い、そこで話した事、戦ったこと、伯父とわかったこと、今会いたいという思いを鮮明化させていき、静かに魔力が逆巻く風を呼ぶ。
(シリウス伯父さん……あたしは、あたしの事を知る為にあなたに会いたい。会って聞きたい事がたくさんあります、あたしの事も、お母さんの事も、エルフの事も……あたしは、あなたに会いたい)
素直な思いを描き願う。誰もが当たり前にできるものをする、だがそれは特別な意味となる。
エルクリッドは自分の意識が天高く飛んでいく感覚の中で、大地を見下ろしやがて高速で景色が進む。そして何処かにいて振り返るシリウスの姿を捉えると目を開く。
言葉にはできないが確かな手応えを感じ、タラゼドの言ったシリウスを招く、というものができた事を実感し、またそれが自分の中に流れるエルフの血がなせるものというのを再認識する。
「エルフであっても、そうでなくても、あたしは、あたし……だよね!」
悩む事もある、抱える事もある、怖さや恐れも、だがそれでも共にいてくれるアセスや仲間がいる。
かつてシリウスに言った言葉を振り返りながらエルクリッドは大きく深呼吸をし、両頬をパンっと叩き目に光を灯す。
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