ホタル女

@wanko-y

完結編

 カズとロクは小学校の同級生だ。

中年オヤジ二人は今も仲がいい。


今日は男二人でとあるビーチにやってきた。


「女がいっぱいいるとこへ連れてってやるっていうから、とっておきの香水つけてきたのに砂浜ってどういうことだよ」


ロクは眩しそうに目を細めて言った。


「ほら、見てみろよ。ギャルがいっぱいいるじゃねーか」


ロクは辺りをキョロキョロ見回した。


「ギャルって……最近おまえ目が悪くなったな。どー見てもアマさんしかいねーじゃねーかよ」


「おう……この時間はな。朝早いんだから仕方ねーだろ。いい女は昼からよ。それまでパラソルの下で飲もうじゃねえか。はい、パラソルとイス……それとおまえの海パン」


カズのちょっと気の利くところが憎めない。


カズは軽トラから荷物を取り出すとロクに手渡した。

二人はビーチへ歩いて行った。


二人はチェアに寝転んで穏やかな波を見ていた。

時が止まっているように感じた。


「気持ちいいもんだな。海からの風がスゲーいいじゃん」


ロクはサングラスを少しずらして水平線を見つめた。


「だろー。夏を満喫するなら海だ!って閃いたのよ。俺って天才だな」


「連れてきてもらって言うのも何なんだけど、夏🟰海って誰でも思いつくんじゃねーの?」


「じゃあロクに聞くけどよ、おまえさ、俺がいなきゃ海なんか来ねーだろ?」


「まぁ……そりゃあそうだな。悪かったよ……ここはひとまずカズに感謝ってことでカンパーイ」


「なんか流れ的に納得いかない気もするけど、まぁいいや。俺とおまえの仲だもんな……ところでロク……ホタル女って知ってるか?」


「ホタル女?……聞いたことねーな。堀の女なら知ってるぜ。この前、ラブホから出てくるのを見たんだよ。堀のおっさん見かけによらずスゲーな……確かもう60才超えてるぜ……」


「そーじゃねえよ。最近、夢に出てくるんだけどよ。寝ようと思って部屋の電気消すだろ……で、しばらくするとあちこちにポッ、ポッとつ小さい灯りがついたり消えたりするんだよ」


「カズ、それって人魂ってやつじゃねえのかよ。幽霊の炎みたいな……だとするとヤバいぜ。変な女の霊に取り憑かれてんだよ」


気にしてカズの方を見るといつものようにモゴモゴしている。


「それがさ、いつの間にか濃紺のスクール水着を着た女が六人、部屋にいてホタル女参上とか叫んでるのよ……で、俺の腰から足の上に背中合わせに座ってピカピカ、ブルブル動くのよ。光った瞬間、電気がはしってその後、ほどよく暖かさを感じるんだよ。要するにビリあったか気持ちいい……みたいな」


「何だよそれ。まるでいつも行ってる整形のリハビリじゃねーか……」


(くだらねーな。真面目に心配してやりゃあ、カズはいつもこれだよ……)


ロクは海風の心地よさと酔いもあってだんだんと意識が遠のいていった。


と次の瞬間

「ホタル女参上」


サンバの曲とともに六人のスクール水着女が踊りながらロクの周りを回り始めた。

懐かしい椅子取りゲームの椅子状態だ。


ロクは動けない。


中年ババアのサンバは続く。



曲が終わると六人はサッとロクの上に腰をおろしてピカピカ、ブルブル……と微妙な動きをし始めた。


「おい、やめろ、おまえら降りろよーー重いよ……ビリビリするだろ……おい……ほんのりあったかい……ビリあったか気持ちいい……」


ロクは気を失った。


「おい、ロク。起きろよ。いつまで寝てんだよ」


ロクが目を覚ますと空は夕焼けに染まっていた。


「あれ?……悪い……俺、いつの間にか寝ちまったんだな……」


「いいってことよ。疲れてたんだろ。おかげでロクが寝てる間に……」


ロクは寝ぼけ眼でカズの方を見ると小学生くらいのスクール水着を着た女の子が隣に立っていた。何故かサイリウムペンライトを手に持っている。


「俺が寝てる間に子供ができたってか?」


「ちげーよ。迷子になっちまったんだとよ。ちょっとそこの海の家まで行ってくるよ」


「おう、わかった。こっちの片付けは任せろ」


女の子はロクにニコッと笑ってペンライトを振った。


「なぁ、カズ」


ロクは歩き出したカズを後ろから呼び止めた。


「そういえば、さっき、ホタル女がどうとかって話してたじゃん……」


「はぁ?……ホタル女?……なんだそれ……水でも飲んで目を覚ましとけ」


カズはロクを一人残し遠ざかっていった。


残されたロクは狐につままれたような気持ちでふぅーっとため息をついた。


「全部、夢か……」


ロクは青春を思い出してちょっぴりセンチメンタルな気分になった。


遠くで灯台の灯りがオレンジ色に点滅していた。

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