第16話 引き出される根っこ
「はぁ……ふぅ……」
「善瀬、家までもう少しだ。頑張れるか?」
「や、やってみます……」
全身が重たい。
もう地面しか見えない。
それでも家を目指す。
「着いたぞ!」
「やったぁ〜……」
家に着くなり、僕は玄関に座り込む。
マジで重たかった……酒ビンが明らかに過剰だった。
「大丈夫か善瀬?」
「ま、まあ……ギリギリです。ちょっとしたら立ちます」
僕は身をよじりリュックを降ろす。
同時に釘パイプとスコップは玄関の壁に立てかけた。
「荷物の整理……いや、まずは夕飯にするか」
*
僕らは一通りの食事を終えた。
「……結局飲みはしなかったが、ならばあの酒達は何に使うんだ?」
鶴美さんが不思議そうに言う。
「ああ、それは……火炎瓶でも作ろうかと」
火炎瓶。
お手軽、範囲攻撃……現実でも大概のゲームでも強力なアレだ。
「火炎瓶……というと、あれか。海外のデモなどで良く使われる……」
「それです。まあ、作り方は簡単ですし、ゾンビにも人にも効くと思うんですよ」
おまけに、着火して投げるだけで良いからな。
僕でも使える。
「善瀬は柔軟だな。……以前から、思っていたのだが」
「なんですか?」
「善瀬は何か、こういう状況に慣れているというか……知識が有るような立ち居振る舞いだ。何処で身につけたんだ?」
「いや、その、いやぁ……ゲームとか映画とかの知識をそれっぽく言ってるだけですほんとすいません」
「別に責めては無いが……私はゲームはさっぱりだが……映画か」
「鶴美さん映画見るんですか? ゾンビものの?」
「たまに友人との付き合いでな。まあ、ゾンビ系は一回限りだったが……」
「へぇ……好みじゃなかったんですか?」
しかし、鶴美さんはゾンビにも暴徒にも勇敢に立ち向かえている。
あまりそういうのが苦手とは思えない。
「いや、悪くなかったぞ。悪くなかったのだが……。後半の方で……」
ゾンビものの後半? 確かに鬱展開やえげつない化け物とか、強烈な要素が増えやすいけど……。
「主人公がチェンソーと言うんだよな? あの農具で大暴れするシーンがどうも……。もし私がチェンソーを向けられたらと思うと……」
……むしろ見せ場だなあ。
いや、苦手は人それぞれだ。
「チェンソーですか……最近なんか頭がチェンソーになる主人公も居るくらいですけど……」
「苦手なのだ! 轟音もそうだが防御を貫通するじゃあないか! あんなモノどうやって勝てば良い……」
鶴美さんは声を張り上げ、かと思うとトーンが一気にさがる。
……こう言っちゃなんだけど、鶴美さんの意外な一面が見れた。
いやまあ、何故か自分が勝てるか負けるかで考えてる所は彼女らしいけど……。
けど、苦手なままなのも辛そうだし……ここは僕の無駄雑学の出番だ!
「実はチェンソーってあんまり強くないらしいですよ」
「……なに?」
「結構繊細な道具なんで……布一枚巻き込むだけで動きが止まるとかなんとか」
「なにっ! ではあの亀ゾンビの甲羅を突きで貫いたシーンは……?」
「突きとかもキックバックって言って、実際には自分に跳ね返っちゃうらしいですし……映画の表現ですよ」
……亀ゾンビ?
どんな映画だ気になってきたぞ。
「そ、そうかぁ。ならばチェンソー恐るるに足らず! ふふふ……」
「けど、鶴美さんって怖いものとか有ったんですね」
「…………ん、あ、ああそんな事はない! チェンソーくらいだ! 槍でも鉄砲でも私が叩き斬ってやるからな! 安心しろ善瀬!」
「……頼もしいです」
こんな鶴美さんが見れるとは……打ち解けてきたのかな。
けど、楽しい話もそろそろ終わりにしないと。
火炎瓶の生産が必要だからね。
服とかを刻んで布片を作って……。
あと、わざわざスコップを拾ってきたんだ。
《アレ》をやらないと……。
*
学校。
かつては一部の人にとって恐怖の場所だった。
しかし、暴徒に支配された今。
ほとんどの人にとって恐怖の場所になってしまっている。
ある教室の真ん中で男が土下座をしていた。
善瀬を相手に逃げ出した彼だ。
「……で、成果は無しと。俺言ったよね? 犯人捕まえろって」
教室の椅子に座るは、ここのリーダーを務める男、名前を
年こそ若いが威圧感は本物だ。
機嫌悪そうに、ネックレスの鎖をジャラつかせる。
「すんません! ほんとすんません!」
鎖の音が鳴る度に、土下座男は跳ね跳びそうな勢いで怯える。
「いやさぁ、そこまでは期待してなかったよ。お前が無能なの知ってるから。けどさぁ、情報もほとんど無しに逃げ帰ってくるとか……」
「許してください!」
「いやだめだめだめ……。けじめだよ、これは。ね? 分かるよね? お前が悪いんだもんね?」
「ちょ、まっ、ギャアアッ!」
冬海は土下座男を蹴り飛ばす。
そして部下達が彼を引きずり別室へと運ぶ……。
「おう、お前らさぁ。あいつについても調べとけ、この無能が言った。ヘルメットの女、予想が有ってるなら……」
冬海の頭には一つの答えが浮かんでいた。
武内鶴美。
冬海が知る限り、女性の強者で生き残りとなれば、彼女しか浮かばなかった。
「待ってろよー武内ちゃん……俺って恨みは返す主義だからさぁ……ククク」
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