第14話 火蓋
「がっ……!」
酒瓶は男のスネに命中。
「良くやった善瀬!」
その隙に鶴美さんの鉄パイプが男に向かう。
男は酒瓶でガードしようとするものの……。
「やめ……ぐはあっ!?」
鉄パイプは酒瓶を打ち砕き、なお止まらない。
酒瓶の破片、酒、鉄パイプ、全てが男の顔面に叩きつけられた。
「く、クソッ……顔が……頭が痛え……。酒、酒を……?」
男は倒れた。
火を灯したままのライターと共に。
「ぐああああああああああああ!? 熱っ! 熱いいいいいいいいいいい!!?」
酒を浴びた影響か、男の身体は勢いよく燃え上がった。
じたばたとのたうち回るが火の勢いは衰えない。
「うわぁ……」
「こ、ここまでやるつもりは無かったのだがな……」
僕は思わず目を背ける。
「あ、あ、あ……」
やがて、男の悲鳴は途絶えた。
パチパチと炎の音、かぎなれない肉が焼ける臭いが鼻に……。
「うう……」
いつの間にか、僕は鶴美さんの袖をつかんでいた。
やばっ……! 怒られる前に離して……。
「ああ、一緒に行こう善瀬。今の叫びでゾンビが来るかもしれないしな」
けれど、鶴美さんはその事を気にしないでくれたらしい。
逆に僕の腕を掴み返すと、そのまま引いて僕をどこかに連れていった。
*
僕らは酒屋から離れ、本来の目的だった園芸品店に避難した。
シャッターが無かったのと同じく、店員さんも居ない。
……避難したのかな。
「相手が悪党とはいえ、何度やっても気分の良い物じゃあないな」
「はい……」
僕も鶴美さんも顔色は良くない。
あんな凄惨な物を見たから当然だろうけど。
「はあ……それこそ大人ならこういう時にお酒で誤魔化したんですかね」
「飲んじゃ駄目だぞ。こんな状況とはいえな」
お酒は二十歳になってから。
僕らじゃ2、3年足りない。
「飲みませんよ! ぶっ倒れたり、あいつみたいに酔った勢いで暴れたりしたら大変ですし……」
未成年飲酒で捕まる事は無いだろうけど。
「からかっただけだ。お前が好んでルールを破る人間じゃあ無いのは知ってる」
「ええ、まあ。……世界はこんな風になってしまいま今でも……出来る限り『良い子』側で居たいと思ってます」
正当防衛はする、街から物資を貰いもする。
無駄に死ぬわけにはいかないから。
けど、あいつみたいにムカついたから人を殺すなんて、そんな人間には……なりたくない。
そんなの、僕をいじめてきた奴らと同じだ。
「はは……本当にお前は……。なら良い子の頭でも撫でてやろうか?」
「いやそれは大丈夫です」
嫌ではないけど……恥ずかしさが勝つ。
こんなでも僕は17歳だ。
「そうか……残念だ」
「それより、そろそろこのお店を探索しませんか? ……なんか、ゾンビも集まってきませんし」
外からゾンビの気配がしない……。
運が良いのか、それとも僕ら以外の誰かがゾンビを片付けているのか。
「うむ。そこまで広い店ではないしな、手早く終わらせようか」
「えーと、じゃあ僕はスコップとかを見繕うんで鶴美さんは野菜の種とかをお願いします」
「任せろ」
……とはいえ、店内には分かりやすく商品が並べられている。
ほとんど悩む間もなく僕らは品物をリュックに詰め込んでいく。
「スコップは大きい方が良いよな……そりゃあ」
「なあ、善瀬。ちょっと良いか?」
「なんですか鶴美さん」
「いや、大したことじゃあ無いんだが……。もし、今店主が帰ってきて『商品を置いていけ』と言われたらお前はどうする?」
「…………まあ、仕方ないし従うと思います。貰ったり買ったりできないか交渉してからですけど」
「そうかぁ!」
「なんでそんな事聞いたんですか?」
「いや、単にお前の考えが知りたかっただけだ」
鶴美さんの声は少しうわずって、嬉しそうに聞こえる。
……正直に答えたけど……望む答えだったのかな。
「……うーん。土はちょっと重たいよなぁ、持っていくには」
そう思いつつも、一袋だけリュックの底に沈めた。
それと栄養剤を少々。
あばばば……スコップと合わせてかなり重いぞコレ、肩を痛めてしまう。
「そっちは終わったか、善瀬?」
「ああ、はい。とりあえずは」
「私の方も終わったぞ。収穫はこの辺だ」
振り返ると、トランプのカードの様に、種の袋を構える鶴美さん。
「二十日大根とか小松菜……小学校の時が懐かしいですねぇ」
あの頃は良かったな……。
「うわ、ブロッコリーも有る……」
「苦手なのか?」
「まあ……食感とかがどうにも」
「はは、ならこの機会に克服するか。私も手伝おう」
「手伝うって?」
「うむ、料理は苦手だからな、全力で応援するぞ」
「……応援で食感が変わると嬉しいんですけどね」
そんなこんなで店を出ようとしたその時。
「この辺からだよなぁ……叫び声が聞こえたのって」
「「!」」
店の外から知らない声がした。
さっきの酔っ払いの叫び声が引き寄せたらしい。
……敵ではないと思いたいが。
「……あいつ、見た覚えが有る」
入口から頭を出して、声の正体を見た鶴美さんが一言。
「何処で?」
「……避難所だった学校。あいつはそれを襲ったグループの一人だ」
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