機動戦士ガンダム 新・星のワンルーム ー継承の翼ー
マスターボヌール
Episode 1 「凡人が希望を継ぐ」
機動戦士ガンダム 新星のワンルーム
Episode 1: 凡人が希望を継ぐ
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宇宙世紀0225年、サイド7コロニー──
古いワンルームアパートの一室で、ケン・アマダは段ボール箱と格闘していた。
「うわっ、重い...」
箱から溢れ出た書類の山に埋もれながら、彼は額の汗を拭った。身長170センチの平凡な体格に、特に印象的でもない顔立ち。22歳の大学院生だが、これといって取り柄もない。
ここは曽祖父のリオ・アマダが使っていたという部屋だ。家族の記録によれば、リオは100年前に宇宙で消息を絶ったとされている。だが最近、このワンルームが発見され、遺族であるケンに管理が委ねられたのだ。
「どうして僕なんかに...」
ケンは一人呟く。リオの血を引いているとはいえ、彼には何の才能もない。工学部でGN粒子の研究をしているが、成績は中の下。論文は却下され続け、指導教官からは「君に研究者は向いていない」と言われる始末だった。
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部屋の奥で、古い金属製のケースを見つけた。重厚な造りで、表面には見慣れない文字が刻まれている。
「これは...」
ケースを開けると、中から数冊の手書きのノートと、古いデータパッドが出てきた。
最初のノートには、几帳面な文字でこう書かれていた。
『GNドライブ開発記録 リオ・アマダ著』
「まさか...本物?」
心臓が高鳴る。GN粒子技術の詳細な記録は、宇宙世紀0200年の「選択の日」以降、ほとんど失われていた。各勢力が独自に研究を進めているが、原理の根本部分は謎に包まれていたのだ。
データパッドの電源を入れると、驚いたことにまだ動作した。画面に現れたのは、若い男性の映像記録だった。
『もし誰かがこれを見ているなら、きっと僕の子孫だろう』
映像の中のリオが、まるでケンを見つめるように語りかける。
『君にも、きっと困難な時が来る。才能がないと言われたり、夢を諦めろと言われたりするかもしれない』
ケンは身を乗り出した。
『でも覚えていてほしい。最も大切なのは、技術ではなく、それを使う心だ』
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記録を見続けると、驚愕の事実が判明した。
リオもまた、最初は「凡人」だったのだ。
『三度目の実験失敗。やはり僕には才能がないのかもしれない』
若い頃のリオの日記には、弱音が数多く記されていた。
『アリサと出会えなければ、僕は何も成し遂げられなかっただろう』
『大切なのは一人の力じゃない。信じ合える仲間がいることだ』
そして記録の最後には、現在のケンへの直接的なメッセージがあった。
『もし君がこれを見ているなら、宇宙はきっと君を必要としている』
『才能なんてなくてもいい。ただ、人を想う気持ちを忘れないでいてほしい』
『そして君が困った時は、きっと僕たちが見守っている』
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その夜、ケンはリオのノートを徹夜で読み続けた。
そこには、GNドライブの設計図だけでなく、開発過程での失敗談、仲間との友情、そして愛する人との日々が綴られていた。
「リオさんも...最初は僕と同じだったんだ」
急に、自分が一人ではないような気がしてきた。
翌朝、大学の研究室に向かう途中、コロニーの中央広場で騒ぎが起きていた。
「聞いたか?サイド3で武装蜂起だってよ」
「またネオ・ジオンの残党か?」
「いや、今度は違う。『統一派』って名乗ってる」
ケンは足を止めて情報収集した。どうやら、宇宙世紀0200年の「選択の日」以降の混在状態を嫌う勢力が現れたらしい。彼らは「一つの選択に統一すべき」と主張し、武力でそれを実現しようとしているという。
「また戦争になるのか...」
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研究室に着くと、指導教官のマクシミリアン教授が深刻な顔をしていた。
「ケン君、悪い知らせだ」
「はい?」
「君のGN粒子研究プロジェクト、予算打ち切りが決まった」
ケンの足元が崩れるような感覚。これまでの研究が全て無駄になってしまう。
「でも教授、僕はようやく糸口を...」
「君の研究は理論的すぎる。実用性が見えない」
教授は冷たく言い放った。
「軍事企業からの圧力もある。今は統一派との対立で、武器開発の方が優先だ」
研究室を出たケンは、廊下でうずくまった。
「やっぱり僕には無理だったんだ...」
その時、リオの言葉を思い出した。
『困った時は、きっと僕たちが見守っている』
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その夜、ワンルームに戻ったケンは、リオのノートをもう一度開いた。
すると、昨日は気づかなかったページがあることに気づく。そこには、簡単な装置の設計図が描かれていた。
『小型GNドライブ 試作型』
『大学の設備でも製作可能な簡易版』
『出力は低いが、原理実証には十分』
「これなら...僕にも作れるかもしれない」
ケンは立ち上がった。諦めるには早すぎる。
翌日から、彼は人が変わったように行動し始めた。正式な研究予算は打ち切られたが、個人的に材料を集め、夜中にこっそり実験を続けた。
失敗の連続だった。装置は爆発し、部品は焼け焦げ、何度も心が折れそうになった。
しかし、その度にリオのノートが彼を支えた。
『失敗は成功への階段だ』
『僕も100回以上失敗した』
『でも諦めなければ、必ず道は開ける』
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そして2週間後、ついにその時が来た。
深夜の研究室で、ケンの装置から淡い緑色の光が立ち上ったのだ。
「成功...した?」
小さな装置から放出されるGN粒子は微量だが、確実に安定していた。
「やった...やったぞ!」
しかし喜びも束の間、研究室のドアが開いた。
「誰だ、こんな時間に...」
入ってきたのは、見知らぬ男女だった。男は30代前半、整った顔立ちだが冷たい印象。女は20代半ば、美しいが何か危険な雰囲気を漂わせている。
「GN粒子の反応を感知した」男が言う。「君が発生源か」
「あ、あの...誰ですか?」
「私はヴァン・グラハム。統一派の技術者だ」女が名乗る。「そして彼女はレイナ・セイラ。我々の目的は一つ、GN粒子技術の独占だ」
ケンの血の気が引いた。
「その技術、我々に渡してもらう」
「嫌です!これは僕の...いえ、人類の共有財産です!」
「愚かな」ヴァンが冷笑する。「君のような凡人に、この技術の価値がわかるか」
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その時、研究室の照明が突然消えた。
暗闇の中で、淡い光が現れる。それは二つの光の玉で、まるで意志を持っているかのように舞い踊っていた。
「これは...」
光の中から、懐かしい声が聞こえてきた。
『頑張っているね、ケン』
『君なら大丈夫。自分を信じて』
それはリオとアリサの意識だった。彼らは約束通り、子孫を見守り続けていたのだ。
光に包まれたケンの装置が、突然強烈に輝いた。小型装置とは思えないほどの粒子を放出し始める。
「馬鹿な、出力が急上昇している」ヴァンが驚愕する。
粒子に触れた途端、ケンの意識に映像が流れ込んできた。
100年前の戦い、リオとアリサの旅、そして「選択の日」の真実。全てを理解した時、ケンは確信した。
「僕は...僕は戦います」
「何だって?」
「この技術を独占しようとする人たちと戦います。僕は凡人かもしれないけど、先祖から受け継いだものがある。それは...希望を諦めない心です」
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光が消えると、ヴァンとレイナの姿も消えていた。しかし、ケンは知っていた。これは始まりに過ぎない。
彼は装置を大切に抱えながら、決意を新たにした。
「リオさん、アリサさん、僕は凡人だけど...精一杯頑張ります」
窓の外には、無数の星が輝いている。そのどこかで、また新しい戦いが始まろうとしていた。
しかし今度は、ケン・アマダという名の凡人が、希望の光を掲げて立ち上がる番だった。
「僕には特別な才能なんてない。でも...人を想う気持ちだけは、誰にも負けない」
小さなワンルームで、大きな決意を胸に秘めて。
新たな物語が、今始まろうとしていた。
TO BE CONTINUED...
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*次回予告*
統一派の本格的な侵攻が始まった。ケンは大学の仲間たちと共に「自由派」を結成するが、圧倒的な戦力差に直面する。
Episode 2: 「仲間という名の奇跡」
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