第13話ファーフロムウエディング⑤

 しばらく車で走り、気分が落ち着いたところで、ズボンのポケットに手を入れた。実は、パイプ椅子が倒れた時にズボンのポケットに少し違和感がある事に気づいた。それからずっと気になっていたがそれどころではなかったから少し落ち着いた今、確認してみた。厚紙の様なモノに手が触れた。それをポケットから取り出してみた。封筒だった。周りがまだ暗くてシルエットしか見えないが紙の封筒が雑に真っ二つに破られていた。

「ゴメン、ちょっと車内のライトつけていい?」

「いいでござるが。しかし、えらい目にあいましたな、本田氏」

「ほんとだよ! 今日だけで二回も死にかけたぞ。まったく! 助けてくれてありがとうな」

「いいえ、恐縮ですぞ」

「ライトつけるよ」

 車内のライトをつけて真っ二つになった封筒をくっつけて見た。宛名には達筆な字で本田ともひろ様と書かれていた。裏側の差出人は三和智和と書かれていた。その時、頭に電気が走った感覚がした。いや、頭の中のどこかでフワフワと漂っていて忘れかけていた記憶がこの封筒を見た瞬間につながって甦った。そうだ、この封筒を破ったのも俺だし、智和をブロックしたのも俺だ。しかも、こうなったのも全部、俺が原因だ。あいつと絶交したのも。

「どうしたでござるか、本田氏その手に持っているものは一体?」

「結婚式の招待状。智和のやつ」

「本田氏がお昼に言ってた親友の智和氏でござるか。しかしそんなに大切なモノが真っ二つに?」

「俺が破った」

「えー。なぜに?親友だったのでござろうが」

「絶交した。俺が原因で」

「絶交した理由はなんでござるか?」

「少し長いけど聞いてくれるか?」

「さようでござる。なんでもいっていいでござるよ!」

「じゃあ。あいつとは小学生の時から友達で、いじめから助けてくれた事がきっかけで友達になった。それから、色々大変な時に相談とか愚痴とかをお互い言い合いながら成長してきた。でも本当は、あいつの方が先に進んでいる様な感じがあったんだ。あいつは大学時代に出来た彼女と付き合ってずっと長続きしてるのに俺はやっと出来た彼女とは2か月で別れるし。自動車の免許も一緒の時期に始めたのにあいつはすぐ受かって、俺は何回も落ちてやっととれた。あいつはそのたびに励ましてくれるんだけど……なんていうか、そういう小さい嫉妬が積み重なっていった。それでしばらく、距離をおいてたら、結婚式の招待状が突然とどいた。挨拶もしてほしいってメッセージも後から届いた。でも俺はそれを見た時積りに積もった嫉妬心が爆発しちまった。

“あいつより人生、楽しんで見返してやろうぜ”なんて言ってたくせに……あいつばっかり幸せになりやがって!って。サイヤクだよな。そのまま勢いで電話して口喧嘩になった。ヒートアップしてつい“挨拶なんかしねえ!お前ばっかり幸せになって!一緒に人生楽しむって言ってただろ!”って言っちまった。

 それがちょうど半年前であいつと遊ぶことも話すこともなくなった。全部、俺のせいなんだよ。あいつはなんにも悪いことしてない。結婚式なんていけない。行っちゃいけない」

「……なるほど、本田氏、それはサイテーでござる」

「だろ?だから、オマエと一緒にアイドルのライブに……」

「大阪に行くでござる。結婚式の会場はいずこに?」

「はぁ?オマエ、人の話きいてた? 行きたくないって」

「聞いてたでござる。でも、本田氏、悪いことをしたなら謝りにいかないと、今後一生会えないかもしれぬのですぞ?」

「そんな、問題じゃねーだろ!小学生じゃあるまいし」

「ちがうでござる! 本田氏は小学生でも出来る事をしてないからダメでござる! ごめんなさいがなんで言えないでござるか!」

 車内にオタクの野太い声が響いた。その後、車内はエンジン音だけ鳴り響いていた。あまりにも的を得た事を言われてしまってしばらくなにも言えなかった。そうだ、その通りだ。小学生でも出来る、素直に謝ることが出来てなかった。虚勢ばかり張って、周りの人を小馬鹿にして自分を守って逃げてばっかりだった。でも嫌なことがあったら一生逃げ続けるのか? それで死ぬ時、その後悔を引きずって死ぬのか? それは絶対にしたくない。

「ごめん……お前の言う通りだ。謝って許されるか分からないけど智和に謝りにいきたい」

「そうでござるか。じゃあ、会場の住所をカーナビに入れてほしいでござる」

「わかった」

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