ヒーロー活動に巻き込まれて記憶無くしたんだが

吉田 九郎

第1話 ノウェアメモリー①

「本田氏、大丈夫かお? 目を覚ますでござる!早くここから逃げるですぞ!」

 聞き覚えのない、野太い声で目を覚ます。頭が痛い、生暖かくてドロッとした血が頬をつたる。

 目の前には小太りのバンダナを巻いたオタクが顔を叩いていた。この見た目は100人いたら100人全員がオタクと言うレベルだ。俺にはこんな知り合い、いない。

「本田氏、目覚めたでござるか!よかったでござる!ささ逃げますぞー」

「ちょっと、待って。お前だれ?」

「どうしたでござるか?まさか、拙者を忘れたでござるか?あろうことか大事な友達のことを!」

「お前みたいな友達いない」

「ひどいでござる!そんなことより、また戦いの巻き添えをくらいまするぞ!すぐに逃げねば!」

 建物は崩れ、周りは瓦礫だらけだ。名古屋市と書かれた看板が落ちていた。近くに、血が付いた瓦礫があった。どうやら、この瓦礫が頭にぶつかって気絶していたみたいだ。

「戦いってなんのことだよ!」と聞こうとした瞬間、ものすごい地響きに似た音が聞こえて、遠くのタワーが真っ二つに折れた。

「スーパーヒーローとスーパーヴィランの戦いですぞ!」

「スーパーヒーローとスーパーヴィラン?」

「それも忘れたでござるか!やつらの禍々しい歴史を!80年前に超能力者が現れてから、破壊活動ばっかりやりたい放題。ヒーロー活動をしているヤツもいるけど今はスポンサーがついて金の為にやってるヤツばっかり。資本主義の豚どもめ!」

「おお、そうだったわ。急に口調変わるなよ、怖いわ」

「拙者、ヒーローアンチなので!ささ、とりあえず、地下鉄に避難しますぞ!」

 オタクの道案内で近くの地下鉄に何とか避難出来た。地下鉄のホームは避難してきた人がすし詰め状態だった。俺と同じ様な怪我人もちらほらいた。地響きみたいな音はずっと続いていた。まだ、戦闘は長引きそうだ。

「本田氏はどこまで覚えてるでありますか?本当に拙者の事思い出せないでござるか?」

「思い出せない。最後の記憶は幼馴染の智和から結婚式の誘いがあった事か?」

「それって、いつ頃の事でござるか?」

「まだ、寒くてコートとか来てたきがする。いまは、暑いくらい……いまって何月何日だ!」

 急いで自分のスマホのスケジュールを確認する。8月29日。次の日には予定が入っていた。“智和の結婚式 9:00―”、確か誘いが来た日は11月頃だった。半年前まで記憶を忘れてるのか?

「明日、智和の結婚式にいかないと、友人代表の挨拶も頼まれたし」

「エエ、本田氏!明日は拙者とあかりんのライブに行くって言ってたでござるが!」

「はぁ? あかりんってだれ?」

「ヴァーチャルアイドルの彗星あかりでござる!なぜ、そんな用事があって拙者に言わなかったでござるか?」

「しらねーよ!コッチが説明してほしいわ!たぶん、半年ぐらい記憶無くしてるし!」

「半年!本田氏と初めて会ったのが、3ヶ月前だから覚えてないでござるか……」

「意外と最近知り合ったんだな」

「とにかくそんな状態では結婚式もライブもいかせられないでござる。この後、病院にいくですぞ」

「結婚式に間に合わなかったらいやだから後にするわ」

「ダメでござる!まず、病院で診てからですぞ」

「はい、はい分かったよ」

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