三時のおやつはクッキーを

飴星まお

①思い出はあかい色(いちご/記憶/飛行機)

「ねえ、やっぱりくるまがいい! 赤いの!」


「えー? もう無理だよ、飛行機で頼んじゃったもん。来年ね、来年」


 誕生日はもうあと数日後に差し迫った頃のことだったと思う。当時の僕は飛行機が大好きで、おもちゃもパジャマも箸もお弁当箱もぜんぶ飛行機。誕生日ケーキの上に乗せるマジパンの飾りも、もちろん飛行機を希望していたのだが。

 テレビで赤い車の主人公が大活躍するアニメ映画が再放送された。かっこよくて強くて仲間思いで、幼心を揺さぶられた僕はその日からすっかり赤い車派となったし、そんな駄々をこねて母親を困らせた。

 

 誕生日当日、母の手料理を食べてからいよいよお披露目となったチョコレートケーキ。ちょこんと乗った飛行機と、「お誕生日おめでとう」と書かれたホワイトチョコレートの板。年齢の数だけ立てられたろうそく。そして、それらが脇役とさえ思えるくらい大量の、いちご。


「……おかあさん、いちご、多いよ」


「いちごはいっぱいあった方がいいでしょ」


 いちごはたしかに好きだが、量が多すぎる。特有のつるんとした滑らかな表面も、フリルのように縛り出されたチョコクリームも、どしんと構える大粒のいちごの前ではあまりに脆い。熟れた果実に押し潰されたケーキというのは、子供の目から見ても歪に見える。


「そんなにいらないよ」


「食べ切れなかったら残してもいいから」


 母は悪びれる様子もなく、ろうそくに火をつけた。ふうっと吹き消すと、煙が消えるのも待たずにさっさとそれを切り分けていく。

 僕の前に置かれたのは不格好なケーキ。そのうえにはチョコレートの板と、飛行機と、たくさんのいちご。おかげで僕は誕生日といえばケーキよりいちごを連想するようになってしまった。


 もう飛行機も赤い車も、大学も卒業した僕は晴れて社会人となった。ほぼ毎日コンビニ弁当だし、万年床だし、それでもなんとか一人暮らしをやっている。新社会人はじめての誕生日。ひとりで過ごす、初めての誕生日だ。となると、やっぱりあの歪んだケーキと真っ赤ないちごを思い出す。

 スーパーに寄って、青果売り場でいちごを探す。高い。高すぎる。果物はどれも高額だが、中でもいちごは格段高い。聞いた事あるようなブランドは更に数百円値が上がる。いちごの周囲を4回ほどうろうろとしてから、意を決して不揃い特価のいちごパックを手に取った。


 家に帰って、洗いもせずに一粒、また一粒と口に運ぶ。大きさはまちまちで、甘いのと、そうじゃないのもある。明らかに実家で食べていたやつとは違う。


「誕生日くらい、帰ればよかったな」


 またひとつ大人になった僕の、小さな独り言。

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