人生は駅伝だ!

@metabousagi

第1章 人生はマラソンか?①~前向きな心~

「橋本君、11月の3連休、良かったらゴルフに行かないか?」

声の主は、我が社の社長・北野だった。

私、橋本隆48歳、趣味のゴルフと、付き合いの良さのおかげで、なんとか総務部長の椅子を手に入れた。社長の北野とはゴルフ仲間で、よく誘いがかかる。


「はい!是非お供させていただきます!」ノーといえない性格も相まって、即答してしまう。

「ちなみに、翌日ゴルフ場の近くでマラソン大会があって、良かったらそっちにも出てみないか?」

「はい!是非お供させていただきます!」ノーと言えない自分の性格が、また顔を出してしまった。あれ?今マラソンって言った???

「おー!田中君、高橋君はマラソンの方は遠慮するとのことだったのでありがたいよ」どうやら、コーポレート本部長の高橋、人事部長の田中は、ゴルフは一緒に行くが、マラソンの誘いは断ったようだ。


「実は古い友人が町おこしの一環で、町一周10kmのマラソン大会を開くことになったそうでね。ゴルフ場もある良い町だから、是非観光も兼ねて、マラソン大会に出場して欲しいと頼まれたんだ。」大好きなマラソンとゴルフを一度に楽しめるため、ウキウキしている社長の気分に水を差すわけにはいかず、今更断るわけにはいかなかった。


少し困惑した顔色をしてしまったのが伝わったのか、

「安心してくれ!マラソンといってもフルマラソンじゃなくたった10kmだ。」

と北野は付け加えた。北野は今年で還暦だが、フルマラソンを3時間2分で走る健脚だ。彼にとっては10kmは『たった』の距離かもしれないが、ゴルフ以外運動習慣のない私には途方もない距離だ。

「それじゃあよろしく!」とご機嫌の北野。


どうしたものか、、、でも考えてみるとマラソン中継などでは10km地点は30分ぐらいで通過しているし、その倍かかっても一時間走るぐらいならなんとかなるか?と楽観的に考えてみた。


帰宅後、早速、近所の河川敷を走ってみた。10分もしないうちに息が上がってしまう。ゴルフでは一日中コースを歩き回れるのに、走るとこんなにつらさが違うとは、、、


まず走ると自分の身体の重さに絶望する。

長年積み重ねてきたアルコールと油物がお腹に蓄積されており、重しになっている。

最近ではスパルタンというレースが人気で、途中に障害物として何十キロという重りをもって走るゾーンがあるそうだが、私の体型はスパルタンレースで常に障害物ゾーンを走っているイメージか。


次に脚がまったくあがらない。

ヒザ神と言われる運動できない芸人の動画を娘が見て笑っていたが、

ヒザが上がらず、上半身だけ頑張るような走り方で、

自分の走りがまさにそんな感じだ。


家に戻ると、妻の多摩子と娘の芦花がテレビをみていた。

「芸能人最速ランナー決定戦」というちょうどタイムリーなマラソン番組だった。

この番組は毎年、春秋の二回行われて、アイドル、芸人、俳優など様々な芸能人が参加している。

昨今のランニングブームもあり、この番組の注目度は高い。

優勝するとバラエティ番組の出演権がもらえたり、ウェアのモデルや大会ゲストなどランニング系の仕事も舞い込んでくるため、みんな必死だ。

今回トップでゴールしたのは、キレッキレの本格ダンスで人気なダンスボーカルユニット『パルテノン』所属の大沢君だった。

「きゃー!大沢君かっこいい!」多摩子も芦花も大沢君の大ファンだった。流石、ダンスが上手いだけあって運動神経が良いのだろう、フォームも一流マラソンランナーのように綺麗だ。あんな風に走れたならな~、と羨んでしまうのは自分の悪い癖だ。明日から特訓だ!打倒大沢君!・・・とまではいかないが、できる限り頑張ろう。そうだ、妻や娘と一緒に走れば、楽しく続けられるかもしれない。

「二人とも、良かったら明日の朝、お父さんと一緒に走らないか?」

「マラソンは見るだけで充分よ」「大沢君の走り見た後にお父さんの走りなんて見たくない」まったく取り合ってくれない、、、

「大沢君の走りの後、お父さんの走り見るなんて、高級フレンチの後にお茶漬け食べる感じかしらね」と皮肉を言う多摩子。

「いやいや、お茶漬けは美味しいから例えで出すのは可哀想でしょ」と娘の芦花は、

私ではなく何故かお茶漬けの擁護をしている。

明日から一人で頑張ろう、、、、


ゴルフはいつも朝が早い。おかげで早起きは得意だ。

今日の朝は5時に起床し、15分走ってみた。

ヒザ神のような力んだ走り方のため、朝から疲労困憊だ。

物理的に重い足取りで会社に向かう。

どうして自分はマラソン大会出場を引き受けてしまったのか。それは自分が断れない性格だからだ。仕事でもお願いされたら断れず、仕事を抱え込んでしまうことが多い。まさに今も抱え込んだ仕事対応中だ。

仕事は終わらないが、21時を過ぎたので帰ることにした。


翌朝も5時に起床しランニングを行う。

昨日の残業の疲れもあったが、なんとか昨日と同じ15分走れた。

さて、仕事に向かうか。そうだ、今日は昨日の仕事が残っているんだ。

物理的にも心理的にも重い足取りで会社に向かう。


定時になったが、今日も仕事が終わらない。

終わりの見えない仕事に、ランニングの疲労も重なり、

一層気持ちが落ち込んでくる。


そんな中、残業時間中も鼻歌交じりにモニタを眺めてマウスをカチカチ触っている部下の柴崎が目に入った。

彼は何故ここまで飄々としているのか。直接聞いてみた。

「なあ柴崎君。」「は、はい!?」

「何か前向きになれるコツを知っていたりする?」

「どうしたんですか急に。そうですね~朝起きた自分を褒めることでしょうか。」

たったそれだけで褒めるなんてポジティブな、、、でも大事なことだ。

私は二日も続けて早起きしてランニングまでしているんだ。

そんな頑張った自分を自分で褒めてあげなくてどうするんだ!?

「ありがとう柴崎君!なんだか元気が出てきたよ。他にはあるかい?」

「あとは朝日を浴びつつ、深呼吸することですかね。太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、深呼吸は副交感神経を優位にし、リラックスされるそうです。」

そうか。。。朝ランの前に、深呼吸をしてみよう。

「他には、他にはあるかい?」つい食い気味に聞いてしまった。

「あとは朝散歩ですかね。有酸素運動はセロトニンの分泌を促進し、

 気分を晴れやかにしてくれるそうですよ。」

有酸素運動はそんな効果があったのか!ランニングはつらいが、

言われてみればたしかに走り終わった後は気分が晴れやかな気がしてきた。それにしてもこいつ詳しいな。

「ありがとう!気持ちが前向きになってきたよ!」


(Xばかり見てたのを注意されるかと思ってびっくりしたが、たまたま見かけた『自己肯定感爆上がり習慣10選』の記事が役になって良かった)


「ん?柴崎君何か言ったか?」「いえ、何でもないです!お役に立てて良かったです!」


こうして、柴崎のおかげでマラソンに少し前向きに取り込めるようになった橋本であった。(②に続く)

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