第6話
昴琉はあわててポラリーを上着の中に隠す。
まずいよっ。みんなが見たら、謎の生き物だって、クラス中、いや世界中で大騒ぎになっちゃうかも⁉
どうにかごまかさなきゃっ。
……だけど、そうじゃなかった。
声のほうに振り向くと、教室の真ん中で二人の女の子が向かい合ってた。
こっちに顔を向けてるのは谷本さん。
背を向けてるのは、横顔しか見えないけれどあのストレートな髪の毛、あかりちゃんだ。
「あかりちゃん、いっつもそうじゃない! 次は次はって! でもいつだってその約束、守ってくれたことない!」
「咲奈ちゃん……」
谷本さんが今までに聞いたことのないような大きな声で息を荒らげていた。
あまりの迫力に、私たちだけじゃなくてクラス全員が注目してる。
いつもはあかりちゃんたちと仲良くしている子も、教室の端っこで遠巻きに彼女たちを見ていた。
いったい二人はどうしたの?
近くで固まってこそこそ話している女の子たちに耳を傾けると、
「桜井さん、また遊びの約束、断ったみたい」
「また? まあ、忙しそうだもんね」
「最近、確かにそういうの多いよね。だけど、谷本さん、ここまで怒らなくたって……」
どうやら、あかりちゃんが発端のケンカみたいだ。
昨日もあかりちゃん、遊ぶの断ってたもんね。
だけど、これって。
私は二人を見て違和感を覚えた。
あの二人がケンカするなんて、ちょっと変だ。
昨日まで、あんなに仲良さそうだったのに?
谷本さんはずんとあかりちゃんに向かって一歩踏み出した。
「用事ってそんなに大事なの? ピアノってそんなに大変? 私と遊びたくないからって嘘ついてるなら、はっきり言ってよね!」
谷本さんの言葉は友達に向かって言っているとは思えないほど、とげとげしい。
こんなの、ほんとに谷本さんなの?
その時、今までうつむいていたあかりちゃんの肩がぶるっと震えた。
あかりちゃんの手にぎゅっと力が入ったのが分かった。
「私だって……私だって! 最初から断りたくてやってるんじゃない! ちょっとは私の気持ち、わかってよ!」
今度はあかりちゃんが声を荒らげる。
美少女の見たことない姿に、近くの男子がひょえっと後ずさった。
二人の顔、鬼みたいに目が吊り上がっている。
いつも一緒にいて仲良しな二人なのに、なんで?
「あの人間たちから、気配がします」
ポラリーがひょこっと顔を出してつぶやく。
「え、あかりちゃんたちからっ?」
「ほらっ、後ろを見てください。もやっとしたものがあるでしょ」
言われてみればあかりちゃんと谷本さんの背中に、うっすらと黒い影があるような気がする。
ゆらゆらと揺れる湯気みたいな感じだ。
「にげてきた星たちがあの人間に乗りうつっちゃったんじゃないでしょうか」
「乗りうつるっ?」
思わず声が上ずった。
星ってそんなことができちゃうの!
昴琉はしんみょうな顔であごをつまんだ。
「あの影、みんなには見えてないのか……?」
「うーん、どうやらそのようですね。試しに僕が出てみましょう」
「あっ、こら!」
昴琉が焦ったような声を上げる。
ポラリーはさっと昴琉の手をすり抜け、あかりちゃんたちのところへと飛んで行った。
ま、まずい! このままじゃ、みんなにポラリーのことがばれちゃう!
あわてて捕まえようと手を伸ばしたけれど、空をつかむだけだ。
それでも、クラスにいるみんなのうち一人もポラリーのことを見ていない。
というか、気づいていない。
もしかして、本当にみんなには見えないの?
「ほら、やっぱりそうですよ! 僕たち星のことは一般の人間には見えないんです。あなたたち二人は星が見える特別な人だ!」
ポラリーはあかりちゃんたちの頭上で嬉しそうに飛び回る。
私たちが、トクベツ?
私と昴琉は顔を見合わせた。
私たちにしか、ポラリーもあの影も見えていない。
じゃあ、私たちがやるしかない?
あかりちゃんのそばに近寄ったポラリーが「うわあっ」と叫ぶ。
二人の言い合いはますますヒートアップしていた。
それにつられるようにして、影も濃く大きくなっていく。
よくわからないけど、まずい状況になっているのを感じた。
ポラリーが逃げるように私たちのところへ戻ってくる。
「ねえ、どういうことなのっ? 星たちが乗りうつってるって。このケンカも、その星が原因なの?」
「うーん。詳しいことは僕にもわかりませんけど、元からケンカの原因になるような気持ちはあったと思いますよ! それが星たちの思いと共鳴して、今のように大きくなっちゃったとか」
共鳴して。
あかりちゃんたちの気持ちと星たちの気持ちがどこか同じで、それが重なり合っちゃったってこと?
ポラリーはふうと冷や汗をぬぐう。
「とにかく、急がないとまずいですよ! 星たちの思いが強くなってるみたいです。このまま人間に乗りうつっていれば、自我を失って取り返しのつかないことになるかもっ!」
「「ええっ!」」
そんなの、聞いてないよぉ!
私はほとんど半泣きだ。
にげこんだ星の居場所はわかった。
でも、これからいったいどうすれば?
「あかりちゃんが悪いんじゃない! 何言っても全部断るんだから!」
「咲奈ちゃんでしょ⁉ 無理だって言っても聞いてくれないのは!」
二人の間にバチバチと火花が見えるようだ。
影ももうすぐ天井まで届きそうだよ!
その時だ。
『私は一年に一回だけ会えるのを楽しみにしていた。だけど、そんなのあんまりよ!』
谷本さんの口から谷本さんのじゃない声が聞こえた。
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