Florilegium Versuum ~詩句の花束~

微睡みの白

灰の記憶

誰かの声が 遠くで崩れる

それは名を持たない風

耳ではなく 皮膚で聴くもの

ひやりとした空気が腕の産毛を逆立て その震えが鼓動の中に沈み込む


光が壁に触れ 影を刻む前に消える

その刹那だけが私を知っていた

消え際の光は音を持たず

けれど瞼の裏でゆっくりと脈を打つ


灰は過去の形ではない

まだ燃えきらない問い

「なぜ」ではなく

「どこに」残るかを探し続ける

熱が失われても輪郭は崩れず

ひと粒ずつ灰は意思のように息をしている


足裏は灰の柔らかな海を割り その下に隠された微かな温もりを探る

言葉を持たぬまま 沈黙の粒子を踏んでゆく

遠くの地平では風が灰を巻き上げそれはひとつの雲となり行き先を決めぬまま漂い続ける

振り返ればその足跡がひとりでにうたを紡いでいる

消されることも 書き直されることもなく

ただ そこに在るというだけで

誰かの胸の奥に 小さな炎を残す誰かの声が遠くで崩れる

それは名を持たない風 耳ではなく皮膚で聴くもの


光が壁に触れて 影を残す前に消えていく

その瞬間だけが私を知っていた


灰は過去の形ではない

それはまだ燃えきらない問い

「なぜ」ではなく 「どこに」残るかを探している


私は言葉を持たずに 灰の中を歩く

それでも足跡は うたになる

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