敵意
空音の部屋が勝手に開けられ兄ニ人と姉一人が入ってきた。
「アンタさ、まともな生まれでも無いくせに何調子乗ってんの?」
姉は眉を吊り上げ嘲った。まともな生まれとはそもそも何を指すのか聞きたかった。しかしそれが口から出る前に拳が飛んできた。衝撃で尻もちをついた。
不快に感じた。
姉は眉を吊り上げ不機嫌そうな顔で吐き捨てた。何が気に入らないのか分からなかった。姉は倒れた空音に馬乗りで髪の毛を好き勝手に引っ張った。
不快に感じた。
少し視線を上げると兄二人も似たような表情をしていた。同じ表情、同じ顔つき、同じ考え、同じ、同じ、同じ。学校でも家でも爪弾きにされる己とは何もかも違う存在だ。テリトリーに入ってきた異物を排除しようとしているだけなのだ。どうやら自分は知らぬ間に鶏小屋にでも誤って入ってしまったらしい。だからと言って何処に行けば良いのかは分からなかった。世界に己以外の同類を見た事が無いのだから。それなら、やる事は1つだ。
本能に従え。
不快を排除する。
髪を引っ張り笑う姉に抱きつく様に体を寄せ恐らく最も噛みつきやすい耳に噛みついた。在らん限りの力で噛みちぎる様に力を込めた。
血の味が口に広がった。
鉄のにおいが鼻を刺す。
空音の世界が色を帯びた。
姉の表情が一気に青ざめ泣き叫んだ。
「痛い!痛い!急に何なのコイツ!」
散々不快を感じさせてきた相手へに反逆。ただ一羽だけのコミュニティへの侵略に対する返礼。空音が初めて他者へ向けた感情。敵意であった。
「何してんだよやめろ!おい手伝え!引きはがせ。」
兄二人が空音を叩いて殴って引っ張り罵声を浴びせ引き離そうと試みた。
「顔を殴れ!」
他勢に無勢で暫くして剥がされた。
「ふざけんなよお前」
その後兄達からは怒りに満ちた表情で腹を蹴られ手を踏まれた。
気がついた時には兄姉達は居なくなっていた。少しした後別の人影が入ってきた。大きさからして兄の一人だろう。彼は特に何をするでもなく出ていった。そこで記憶は途切れた。
次に目覚めた時はベットの上であったがやけにぼうっとした意識で目が覚めた。高い熱をであった。連日の怪我とストレスに加えてあの乱闘事件が止めになった。
この日ばかりは学校も免除され、普段とは違うお粥が配送された。空音はもそもそとベットの上で粥を食んだ。レトルトの卵がゆだった。落ちた体力に良く沁みた。
「お嬢様、そのままお聞きください」
「?」
「先日の暴力事件は覚えてらっしゃいますか?」
「はい」
「お嬢様ま姉君の一人に噛みつかれた結果、姉君は3針縫う事態となりました。」
「しかし先に手出したのはあの人達です。」
「嘘は仰らないで下さい。お嬢様はご当主に遊びで作られた存在ですが他のご兄弟は大きく違います。次代の型守家当主の候補として作られた存在です。言葉の信用度が大きく違います。」
兄姉の言葉は証言だが空音の言葉は聞くに値しないらしい。いや、どうでも良いのだ。大切にしている兄姉が怪我をした。
「回復し次第お嬢様には旧温室へ移って頂きます。」
「旧温室?」
「現在は使用されていない離れと考えて頂いて構いません。これでご兄弟方と接触する心配は無いでしょう。」
「そう。」
「お嬢様、管理AIから伝言を預かっています。次同様な事が起きれば矯正施設に送る手筈になっている。くれぐれも気をつける様に。との事です。」
兄姉はどの様に伝えたかは分からなかったが最早考えても意味のない事だ。大切なのは鶏小屋から放り出された事。それ以上に無い。やっとあるべき場所に帰ってきた様に感じた。
良かったと口に出そうとしたが彼女の頭がぼんやりとして来た。
「お嬢様、酸素飽和度が95%を下回りました。横になり睡眠をとって下さい」
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