第2話
レオは小石を一つずつ取り除いた。20cm四方の小さな空間にゆっくり慎重に、そして丹念に。三つ目の小石を抜いた瞬間、再び不思議な音が耳に響いた。
ピコーンッ!
【クエスト:【箱庭の整備】を達成しました】
【報酬:環境因子《平野》を獲得しました】
視界の隅に現れたウィンドウはクリアな音を伴っていた。
報酬の獲得を確認すると、レオはすぐさま《箱庭》を観察した。先ほどまで土と小石と雑草しかなかった空間が、まるで息を吹き返したかのように変化していた。
土はより細かく、均一になり、小さな丘や窪みは平らにならされている。そしてかすかに風が吹き、土埃が舞う。
たった数秒の間に、そこには小さな平野が創造されていた。
「……凄い」
思わず声が漏れる。手のひらサイズの《箱庭》だが、そのリアリティはレオの想像を遥かに超えていた。
レオは再び《箱庭》のステータスウィンドウを開いた。
【ユニークスキル《箱庭》】
【概要】
・使用者専用の小規模空間を創造し、管理する。
・空間はクエスト達成により拡張、発展する。
【ステータス】
・空間サイズ:20cm × 20cm × 20cm
・空間内資源:土
・環境因子:《平野》
・保有施設:なし
・保有生物:なし
【クエスト】
【最初の耕作】:10cm四方を耕せ(0/10)
・報酬:環境因子《水源》、保有施設《畑》
次に提示されたクエストは【最初の耕作】。
土を耕す? どうやって? ……そうだ、古くなったフォークがあるんだった。取ってこよう。
急いで自室から飛び出て、そしてあまり音を立てないようにフォークを持ち出す。
レオは再び「操作」を選び、《箱庭》の空間を目の前に浮かべた。錆びたフォークの先端で、土に触れる。
先ほどよりもきめ細かくなった土は、わずかな抵抗と共にフォークの先端を受け入れた。
……現実の畑の土みたいだ。
レオはフォークを熊手のようにして、ゆっくりと土を掻き混ぜ始める。10cm四方を耕すのに、そう時間はかからなかった。
【クエスト:【最初の耕作】を達成しました】
【報酬:環境因子《水源》、保有施設《畑》を獲得しました】
新たなウィンドウが開くと同時に、《箱庭》の隅に小さな泉が湧き出した。そこから細い水路が流れ、土の平野を潤していく。そしてその水路の近くにほんの数センチ四方の、すでに耕された土の区画が出現した。
「《畑》だ……」
驚きに目を見開く。なんて面白いんだ。
まるで神が世界を創造する過程を、ほんの少しだけ垣間見ているかのようだった。
……神様、か。本当に、ユニークスキルは神様が与えたものなのかもしれない。ま、優れた魔法使いなら同じことできるんだろうけど。
次に表示されたクエストは、その《畑》を利用するものだった。
【クエスト】
【最初の収穫】:ジャガイモを5つ収穫せよ(0/5)
・報酬:空間サイズ +1m × 1m × 1m 、保有施設《焚き火》
ジャガイモ?
レオは首を傾げた。《箱庭》にジャガイモの種など存在しない。現実から持ってくる必要があるのだろうか。
しかし、この小さな空間にどうやって?
しばらく考えた後、レオは一つの可能性に思い至った。もしかすると、現実世界の物質を《箱庭》内に転送できるのではないか。
「入室」と「操作」の他に、新たな選択肢が現れていた。
【《箱庭》へのアクセス】
【入室】
【操作】
【転送】
レオは躊躇なく【転送】を選んだ。すると、ウィンドウにこう表示された。
【転送したい物質を《箱庭》の空間内に置き、転送を開始してください】
レオは部屋を見渡した。何か転送できるものはないか。
ジャガイモはない。そして僕の部屋には教本や宝石の偽物、ガラスの細工品とか無くしてはいけないものしかない。どうしたものか。
……そうだ、父さんの工房に、《クズ魔石》がある。あれを転送してみよう。
レオは父の目を盗み、工房へと忍び込んだ。父が寝静まった後、レオは小さな欠片ほどの《クズ魔石》を一つ、こっそり持ち出した。
宝石商の息子として、レオは《魔石》の価値をよく知っていた。それは宝石とは異なり、魔力を宿す鉱物だ。魔法使いが魔力を補充するために用いるため、貴族の館にも重宝される。
《クズ魔石》は《魔石》の小さな破片であり、使い道が極めて限定される廃棄物みたいなもの。ゴミを持って行ったところで怒られはしないだろう。
自室に戻ったレオは《箱庭》の空間に《クズ魔石》をそっと置いた。そして、転送を開始した。
ピコーンッ!
【物質:《クズ魔石》を転送しました】
《クズ魔石》は静かに《箱庭》の空間に溶け込んでいった。
……溶け込んだ? なくなったぞ。
【転送された物質:《クズ魔石》が《箱庭》と相互作用しました】
【新たなクエストが生成されました】
【クエスト】
【モンスターの討伐】:《箱庭》で生成された《モンスター》を5体討伐せよ(0/5)
・報酬:空間サイズ +50cm × 50cm × 50cm 、保有施設《ダンジョン》
ジャガイモのクエストが消え、《モンスター》のクエストが生成されていた。《箱庭》は現実世界の物質を内部に取り込むだけでなく、それを《箱庭》と組み合わせて、新たな何かを生み出すことができるようだ。
「……って、モンスターの討伐? もしかしてやばいんじゃ……」
レオはおっかなびっくりに《箱庭》を覗き込んだ。もしも本当に危険なモンスターを生み出してしまっていたら、とんでもないことになる。
そこには小指の先ほどのプルプルとしたスライムが5匹、元気に飛び跳ねていた。
……び、びっくりした。
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