第三章・無職独身女 ~欲望のまま迷宮で暴れたら再生数が爆発した~(ついでに迷宮も爆発した) 6
「どの道、コメの事を考えてても仕方ないか」
自分がどう考えた所で、見てくれる人の意思で書かれる物にアレコレ言っても不毛でしかない。
それに、全く対処が出来ないと言う訳でもない。
酷いコメだった場合は消せば良いし、ブロックする事だって出来る。
これからアンチがどの程度増えるのかは分からないが、対処法があるのなら問題はないだろう。
少なからず、シズ1000なら早急に対処してくれるに決まってる。
優秀だと言う点に置いては、既に日葵も認めていた。
飽くまでも能力『だけ』なのだが。
「……あ、そうだ!」
そこまで考えた所で、日葵は思い出した。
新しく出来たチャンネル名がおふざけ満載であった事実に!
「あの謎人形……よりによって独身女はないだろ! その通りだけどないだろ! むしろその通り過ぎてあたしの心が壊れちゃうだろ!」
憤然と喚いた日葵は、足早にリビングへと向かった。
一軒家だけあって部屋は無駄にあったのだが、剣聖の部屋はあってもシズ1000の個室はない。
シズ1000はそもそもの身体が小さいので、リビングで生活をしてもスペース的に問題がなかった。
部屋の隅っこにシズ1000のスペースを作れば、それで全てが事足りたのだ。
ついでに言ってしまうと、日葵の許可を得るまでもなく、勝手にリビングの一部を自分のスペースとして仕切りの様な物まで作っていた。
尤も、犬小屋を少し大きくした程度なので、余り気にならないのだが。
「くぉら、シズ1000! あの名前はなんだよ! あたしは独身女だけど、せめて違う名前にしとけよ! 泣くぞ?」
「……う?」
リビングの隅に出来た仕切りの向こうを覗きながら言う日葵の声を耳にした所で、シズ1000は軽く振り返ってみせた。
見る限り、シズ1000は動画の編集を行っていた模様だ。
どうやったのかは知らないが、自分のサイズに合わせたデスクトップパソコンを使用し、物凄い勢いでカタカタやっていた。
編集時に文字を入れる時にキーボードを使う事があるが、そこを差し引いても『そんなにキーボードを使うトコある?』と言いたくなる様な勢いでキーを叩いていた。
「う~!」
少し間を置いてから、シズ1000はパソコンが置いてある席から離れると、リビングのテーブルがある所にやって来る。
そして、スマホを使って日葵に述べた。
『う? シズと剣聖と無職女で当たってないか?』
「当たってるよ! 大当たりだよバカ人形! だから泣けるんじゃねーか!」
不思議そうな顔をし、小首まで傾げていたシズ1000を前に、日葵は涙を流しながら『ぷぎゃ~!』と叫んでいた。
下手な珍獣よりも怪獣染みていた。
『う! それなら別の名前にしよう。名前は……シズと剣聖と独身女でどうだ?』
「変わんねーし! 確かに独身だけど! あたしの心がえぐれるだろ! 可哀想だろ、あたしが!」
バンバンッッ!
日葵は怒りを爆発しながらテーブルを力一杯叩いた。
『う~……じゃあ、どうすれば良いんだ? 改善案があるのなら柔軟に対応しよう』
「そう来なっきゃ!」
比較的真剣な顔で言うシズ1000に、日葵の瞳がキラキラ輝いた。
『今から名前を変える様にする。タイトルを教えてくれ う!』
「じゃあねぇ? 可愛い日葵チャンネルで」
シズ1000の言葉に、日葵は満面の笑顔を一杯作りながら断言した。
シズ1000の背景が暗転した。
『う~……それは却下だ。事実から大きく乖離している』
バンバンッッ!
日葵はテーブルを思い切り叩いた。
「あたしのチャンネルなんだから、あたしが好きに付けて良いでしょ! なんでダメなのよ!」
『事実とかけ離れているからだ う!』
「可愛いでしょ! あたし!」
右手を上げ『キュピーン☆』と瞳を光らせて言うシズ1000に、日葵は両手をワナワナと震わせながら絶叫していた。
『う~……分かった。それではこうしよう。シズと剣聖と――』
「そこは変わらないのね」
少し妥協する態度を見せるシズ1000を前に、日葵は少し呆れ眼でツッコミを入れ――
『う! 自称・可愛い独身女』
「余計なの入れんぢゃねぇぇぇぇっ!」
可愛い女に、自称と独身がもれなくセットで転がり込んだ事で、盛大に喚いてみせた。
銀髪ツインテールの女性――アリンが自宅玄関のインターホンを押したのは、ここから間もなくの事だった。
ピンポーン!
「……ん? 誰だろ?」
『このエナジーは、爆弾女だな、う!』
「爆弾女ぁ?」
シズ1000の言葉を耳にし、日葵は軽く眉を寄せたが……間もなくハッとなる。
「あの爆弾女か!」
アリンの事を指している事に気付いた日葵は、顔を蒼白にさせた。
言い得て妙だ。
なんでも爆轟で解決しようとする爆弾女。
これ程しっくり来る異名もない。
「ど、どうしよう……居留守とか出来ないかな?」
『う? 日葵のエナジーと言うか魔力がバカでかいから、あの爆弾女が気付かないとは思えないぞ?』
どうやら居留守は無理らしい。
日葵は重い吐息を口から吐き出した。
「仕方ない……テキトーに話をして帰って貰うか」
正直言うと、日葵的にアリンは苦手だ。
だって、いつ『物理的に』爆発するか分からないんだもの。
「はいはい……どんな用事ですか~?」
気乗りしない感情が、そのまま言葉にも乗っていた日葵は、微妙に覇気のない声音を吐き出しながら玄関ドアを開けた。
ドアの向こうにいたのは、予想通り爆弾女だった。
こう言う時は予想を裏切ってくれても良いのに……とかって、微妙に胸中で悪態を吐いた。
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