私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 10

「あと、最後の補足として言って置く」


 答えたアリンは、ニッコリ笑った。


 その上で右手をスゥ……と、誠司に向けた。


「我がドーンテン家に伝わる家訓を知ってるだろ?」

「…………」


 誠司は再び沈黙。

 もう、自分でも何回無言状態になれば良いのだろうと、胸中でのみぼやきを入れた。


 果たして、誠司は言った。


「どうぞ、お好きなだけ、ウチに居て下さい」




 ~他方、その頃~




 日葵とアサヒの二人は自宅への帰路に着いていた。


 繁華街近くにある駐車場に停めておいた愛車に乗り、現在は自宅の近所辺りを走行していた。


 そんな中、日葵は地味に素っ頓狂な声を吐き出す。


「はぁ~っ⁉ なに、そのバカみたいな家訓!」

「俺もそう思うが、そのバカみたいな家訓がまかり通る世界なんだよ。俺が居た世界ってヤツは」


 ハンドルを握りながら、呆れと驚きを程良くミックスした心境で叫ぶ日葵に、アサヒは比較的穏やかな顔をして声を返していた。


「ともかく、アリンの家系――ドーンテン一族ってのは、大昔から爆破魔法を操る事で名声を得た一族なんだ。革命が起きて民主化したが、世が世なら大貴族なんだよ、ヤツは」

「今は違うの?」


 淡々と説明して行くアサヒに日葵はそれとなく尋ねると、コクンと相づちだけを打ち、再び口を動かした。


「絶対王政が終わって、貴族諸侯も事実上の解体になった……とは言っても、結局は名前が変わっただけで、上位貴族がのさばっている社会なんだけどな」

「なるほどねぇ……まぁ、こう言う部分はこの世界と大差ないのか」


 アサヒの言葉に、日葵は何処か達観した顔で吐息交じりに答えた。


 組織なんてそんな物。

 大小の差こそあれ、結局は権力を持つ者など一握りの偉い人。

 場合によっては、代り映えしない顔が揃う事だってあるだろう。


 偉い人の数は少ないのだから。


「アリンのヤツは、元・貴族と家系には興味がないみたいだが、ドーンテン家の人間としての誇りと言うか、家訓には強いこだわりがあるんだよな……面倒な事に」

「それはマジで面倒だなぁ」


 アサヒの言葉に、日葵は苦々しい顔になって言う。

 その家訓がおかしいからだ。


 ドーンテン家の家訓。

 それは、どんな困難があっても、全て爆破で解決すべし!――だからだ。


 頭がイカれてるとしか、他に言える感想が浮かばない。


「ドーンテン家には千年近い歴史があるんだが、凶悪な爆破魔法を使う家系の一族として恐れられた――結果、それが名声になったんだ」


 早い話、戦争になったのなら、ドーンテン家を敵に回した時点でかなりの痛手となる。


 千年もの歴史があるのなら、戦乱期だって一つや二つではないだろう。


 この時、ドーンテン家を敵にするか味方にするかで、戦況が豹変する。


 なんでも爆破で解決!……なんて、小馬鹿にした様な家訓を持っているのは、伊達や酔狂で言っている訳ではない。


 ドーンテン家の敵になった国や軍隊は、例え最強を名乗れる屈強な兵士達や将兵がいたとしても、敗北の辛酸を舐めさせられる。

 

 一瞬にして半径数キロを爆散し――火の海に変えてしまう、ドーンテン家の秘術。


 まさに伝家の宝刀たる必滅の魔法・超炎熱爆破魔法フレアインダムドの前には、幾万もの屈強な兵士が居ようと、全てを一瞬で無力化させてしまう。


 抽象的に言うと、核弾頭を持っている唯一無二の一族。

 それがドーンテン一族だった。


 この為、戦争をするのならまずはドーンテン一族を味方に付ける事が、周辺国家にとっての最優先事項ですらあった。


 尚、味方にするのはドーンテン一族が住む国家ではない。


 祖国となるトウキ王国では、侯爵の爵位を持つ上位貴族ではあったが、ドーンテン一族は王国に忠誠を『誓ってない貴族』として有名だった。


 簡素に言うのなら、王家が滅亡しようがしまいが、自分の領地さえ守れる事が出来たのなら、他はどうでも良いのである。


 尤も、滅亡後に新しい国家がドーンテン一族を支配する気であるのなら、支配宣言をした翌日には塵と化しているだろうが。


 極論からして、国家の軍事力よりも恐れられた。 


 その顛末にあったのは『不毛な戦争の抑制』である。


 下らない理由や、でっち上げによる戦争が起こると、ドーンテン一族が仲裁にやって来る。


 仲裁方法は、もちろん『爆破魔法』だ。

 なんでも爆破で解決すると言う家訓の元、争いを始めた両国へと爆轟を注いで行くのが、ドーンテン式の仲裁方法。


 日葵ではないが、こんな馬鹿らしい事を千年近くやって来た一族なのだ。


 ふざけていると言えば相違ないが、実際に抑止力としては機能しており、長ければ二~三百年、短くても数十年以上は戦争知らずの時代が続くのは、ドーンテン一族の持つ戦争の抑止力が一役買っていたりもする。


 そして、今でもその抑止力は――ドーンテン一族の血脈は続いており、当代であるアリンへと継承されているのだった。


「そんなおかしなヤツだから、その内言うんじゃないか?」

「……何を?」


 思い付いた様な口調で言うアサヒに、日葵は一応尋ねた。

 聞かない方が良いと、頭の片隅では予測している。


 けれど、知らないよりは知って置いた方が良い。

 思い、それとなく尋ねた。


 果たして、アサヒは言った。


「私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?――ってな?」

「間違い過ぎだ!」


 日葵は声を大にして叫んだ。


 内心では思う。

 やっぱり聞くんじゃなかった!

 

 同時に理解した。

 アリンとか言う爆弾と付き合うのは、絶対に危険だ!


 かくして、日葵の脳内に新しい危険人物の名前が刻まれて行くのだった。


 そんな所で今回はここまで。


 次回に続く!




 ~Catch you in the next episode!~

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